ここでは、直近の「米国株(S&P 500)」について、PER・CAPEレシオ・ブルベア指数・長短金利差などといった観点から見ていきたいと思います。
なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照下さい。
1.S&P 500とPER
まずは、S&P 500に採用されている500銘柄の平均PERとS&P 500の長期推移を見ていきます。
そして、この図の1995年以降の推移だけを示したのが以下の図です。
この図から、1990年代後半以降では、ITバブル後やリーマン・ショック後のような特殊な状況を除くと、PERは概ね15倍~35倍で推移しているといえます。
そこで、同期間における、PERが15倍~35倍に相当する株価とS&P 500の推移を示してみたのが以下の図になります。
S&P 500は、コロナショックにより急落しており、PER20倍を割り込んでいることが分かります。
なお、2000年前後のITバブル前にはPERが35倍近くまで上昇する場面もありましたが、2008年のリーマン・ショック前のPERは25倍程度までの上昇に過ぎませんでした。
今回も、PER25倍程度からの下落となっています。
2.S&P 500とCAPEレシオ
次に、景気循環調整後の株価収益率(PER)である、CAPEレシオ(シラーPER)とS&P 500の長期推移を見ていきます。
そして、この図の1995年以降の推移だけを示したのが以下の図です。
CAPEレシオでは、一般に25倍を超えると株価が過熱圏にあるという見方がされますが、直近では株価の急落により、25倍を下回っていることが分かります。
ちなみに、過去に30倍を超えたのは、1929年の世界大恐慌の前や、2000年のITバブルの時だけであり、2008年のリーマン・ショック前には25倍以上で推移はしていましたが、30倍まではいきませんでした。
また、CAPEレシオに関しても、15倍~40倍に相当する株価とS&P 500の推移を示したのが以下の図です。
この図から、今回の急落前のS&P 500は、2000年のITバブル時ほどではなくても、2008年のリーマン・ショック前よりは割高な水準にあったことが分かります。
ただ、2008年のリーマン・ショック前には、何年もの間にわたってCAPEレシオが25倍を超えて推移していましたし、今回も2年ほど30倍前後で推移していました。
そういった意味では、CAPEレシオで割高だと判断されたとしても、これによって相場転換のタイミングを計ることは難しいと言えます。
PERやCAPEレシオはあくまで参考程度のものだということです。
3.S&P 500とブルベア指数
続いて、代表的なブルベア指数である、Investors Intelligenceの Sentiment Index(Advisor’s Sentiment)について見ていきます。
このSentiment Indexについて分析している、Yardeni Researchのレポートから一部を抜粋したのが、以下の図です。
この図では、Bull / Bear Ratioが3倍以上となっている期間が赤色の線で示されており、その期間では強気派が多いことを示しています。
今回の急落前の期間では、赤線が密集しており、強気派が多かったことが分かります。
また、赤線の密集度合いに着目してみると、①2013~2015年、②2016~2018年、③2019~2020年と密集度の高い部分が見られます。
そして、①→②→③と密集度合いが低下していき、今回の急落へとつながったと見ることもできそうです。このことは次の強気相場サイクルにおいて、天井の時期を計るのに参考になるかもしれません。
4.S&P 500と長短金利差(米国債利回り差)
最後に、長短金利差として、米10年国債利回りと米2年国債利回りの差(=10年国債利回り-2年国債利回り)を見ていきます。
※通常、短期金利とは期間が1年未満の金融資産や負債の金利のことをいいますが、ここでは便宜上2年国債利回りを短期金利として扱っています。
そして、米国の長短金利差とS&P 500の推移を示したのが以下の図です。(なお、見やすくするために、右軸の長短金利差のスケールは反転しています。)
この図からは、2001年前後のITバブル崩壊や、2008年のリーマン・ショック前に米国債利回り差が0%以下と、2年国債利回りの方が10年国債利回りよりも高い状態で推移する「逆イールド」と呼ばれる状態になっていることが分かります。
そして、2019年の8月末から9月初めには、この長短金利差(米国債利回り差)がゼロからマイナスとなっていました。
なお、過去3回あった「逆イールド」では、発生から景気後退までに1年7ヵ月から2年10ヵ月の期間がありました。
ただ、今回は新型コロナウイルスの感染拡大や、それに伴う各国政府の対応策によって、それが早まってしまったと言えそうです。
5.総括
前回(2019年12月)には、S&P 500はいつ調整局面が来ても不思議ではなく、その兆候をつかむには、ハイイールド債などの値動きに注目しておくのが良いのではないかと書いていました。
しかし、今回のコロナショックで、S&P 500は2月25日より下落を開始していたのですが、ハイイールド債が下落し始めたのも、同じく2月25日でした。
一方で、米国債や米社債は、2月25日以降、3月9日までは割と勢いのある上昇を見せ、3月10日から急落といった値動きでした。
ですから、ハイイールド債は、米国債や米社債よりは下落開始が早かったものの、残念ながら株価指数下落の兆候を知らせるものとはならなかったということです。
ただ、ハイイールド債と米国債(米社債)との値動きを比較することで、その後のより大きな危険を早めに察知するということは可能なのかもしれませんが、これに関しては過去の相場も検討してみる必要がありそうです。
今回のコロナショックにおける相場の値動きでは、初めの株式から債券へと資金がシフトするという段階から、株式・債券のみならず、金(ゴールド)やビットコインなども売られる現金化の段階へと移行していく様子が見られました。
そして、足元ではハイイールド債も値を戻してきていますが、決して安心できる状況という訳ではないでしょう。
米国株式市場では、過去の弱気相場で、高値からの下落率は平均38%、元の水準に戻るまでの期間は、平均2年4ヵ月というデータもありますが、下手をしたらこの程度では済まないかもしれません。
ちなみに、2001年のITバブル崩壊や、2008年のリーマン・ショックを振り返ると、第1波の下落が一段落した後、半年以内に第2波の下落が起きています。
また、世界的な超低金利環境から、米国や中国の企業債務残高が急膨張していましたが、特に中国では2019年から社債のデフォルトが相次いでおり、2021年、2022年にはそれぞれ約70兆円、約60兆円もの償還が控えています。
そのため、その辺りで信用収縮から金融危機にまで発展するのではないかと考えていましたが、今回のコロナショックでそれが早まった可能性も大いにあります。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う各国政府の対応策から、世界的なサプライチェーンが分断され、経済への悪影響が長引くことが予想されるからです。
最悪の場合には、前回(「米国長期金利」のデータ分析)の総括でも書いたように、1930年代の世界大恐慌をなぞっていくような展開もあり得ると考えています。
1929年の株価大暴落では、直近の最高値からおよそ3年かけて、9割近くも下落していましたが、そのような事態というのも覚悟しておくに越したことはないでしょう。