ここでは、直近の「WTI原油」について、CFTC建玉明細の投機筋ポジション、ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)、原油在庫統計(EIA・API)といった観点から見ていきたいと思います。
なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照ください。
1.WTI原油とCFTC建玉明細(投機筋)
まず、CFTC建玉明細から投機筋のネットポジションの長期推移を、WTI原油先物価格とともに示したのが以下の図になります。
また、この図から直近の推移だけを取り出して示したのが、以下の図です。
この図からは、投機筋のネットポジションとWTI原油先物価格が、強い相関性を認めていることが分かります。
ただ今回は、WTI原油先物価格の急落があり、一方で急落時点での投機筋のネットポジションが発表されるのは後日であるため、両者の乖離が大きいものとなってしまっています。
2.WTI原油とブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)
次に、市場が推測する期待インフレ率を示す指標である、ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)についてです。
このBEIの推移を、WTI原油先物価格とともに示したのが以下の図になります。
また、この図から直近の推移だけを取り出して示したのが、以下の図です。
この図から、WTI原油先物価格とBEIとの間にも、強い相関性があることが見て取れます。
また上図は、3月6日までのものとなっており、3月9日にWTIは急落、米国債利回りも低下していたので、直近まで広がっていた両者の乖離は縮小しているものと思われます。
3.WTI原油先物価格と原油在庫統計(EIA・API)
最後に、原油在庫統計についてです。
まず、米国エネルギー情報局(EIA)の原油在庫統計の推移を、WTI原油先物価格とともに示したのが以下の図になります。(見やすくするために、右軸の原油在庫統計のスケールは反転しています。)
続いて、米国石油協会(API)の原油在庫統計の推移を、WTI原油先物価格とともに示したのが以下の図です。(見やすくするために、右軸の原油在庫統計のスケールは反転しています。)
これらの図からも、直近ではWTI原油先物価格の急落により、在庫統計との乖離が広がっていることが見て取れます。
4.総括
WTI原油先物価格は、3月9日に30ドル近くまでの急落を見せました。
ここまで急激に変動してしまうと、投機筋のネットポジションや在庫統計などのこれまでの傾向から、原油価格の目先の動きを予想しようとすることは困難となります。
もともと石油への需要には、温室効果ガスの排出削減などの気候変動対策から、風力や太陽光といった再生可能エネルギーが台頭するなど、逆風が強まっていました。
そこへ、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴う経済の減速によって、さらに需要が減少することが予想されます。
一方、3月6日の「OPECプラス」では、サウジアラビアとロシアの交渉が決裂し、協調減産が今月末で終了されることとなったため、OPECプラスによる原油生産量は増加することになるでしょう。
ただ、直近の30ドル台前半という原油価格では、サウジアラビアやロシアと比較して生産コストの高い、米国のシェール(オイル)企業はほとんどが採算割れとなります。
そして、米国のシェール企業には信用力の低い企業が多く、そうした低格付け企業の社債やそれらを証券化したCLO(ローン担保証券)では、債務不履行の懸念が高まっています。
実際、3月9日には、米ハイ・イールド債の利回りが7%を超えるまでに上昇していました。
このまま原油価格の低迷が長引くようだと、より信用力の高い債券にまで信用不安が及び、世界的な金融不安にまで発展する可能性もないとは言い切れません。
また、サウジアラビアでは、財政収支の均衡する原油価格がおよそ83ドル、政府予算の前提は60ドル前後と見られています。
つまり、原油価格の低迷は、中東産油国にとっても厳しい状況であることに変わりはなく、中東産油国の政府系ファンドが世界の株式を換金売りする可能性も出てきます。
このように、原油価格の低迷は、世界の株式市場や債券市場へと悪影響を及ぼす危険性を秘めており、原油価格の先行きは注視していく必要があるでしょう。