読書録・書評

【読書録・書評】『ウォール街のモメンタムウォーカー』(2/2:具体的なモメンタム戦略)

1.本書の概要

ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。

まずは、本書の概要からです。

本書では、「モメンタム」というタイミングモデルを用いた投資戦略に関する様々な研究や、簡単な応用方法などについて書かれています。

本書に関しては、第7章までと第8章以降との2回に分けてレビューしていますが、第7章までについては以下の記事でレビューしていますので、よろしければご参照ください。

そして、ここでは「具体的なモメンタム戦略」ということで、第8章以降のレビューについて書いていきます。

なお、本書の章立ては、以下のようになっています。

  • 第1章 世界初のインデックスファンド
  • 第2章 上昇するものは…上昇し続ける
  • 第3章 近代ポートフォリオ理論の原理と応用
  • 第4章 モメンタムの合理的説明とそれほど合理的ではない説明
  • 第5章 資産の選択―良い選択、悪い選択、醜い選択
  • 第6章 スマートベータと都市伝説
  • 第7章 リスクの測定と制御
  • 第8章 グローバル・エクイティ・モメンタム
  • 第9章 モメンタムのさらに効果的な使い方
  • 第10章 最終的考察

2.グローバル・エクイティ・モメンタム(GEM)

第8章では、相対モメンタムと絶対モメンタムを組み合わせた「デュアルモメンタム」の具体的な手法として、「グローバル・エクイティ・モメンタム(GEM)」の説明がされています。

この「GEM」では、S&P500インデックスとACWI非米国株、バークレイズ・US・アグリゲート・ボンド・インデックスの3つが用いられます。

なお、これら3つ(以下、S&P500、ACWI非米国株、US・アグリゲート・ボンド)の代表的なETFには、それぞれ以下のようなものがあります。

  • S&P500:「SPY」、「VOO」
  • ACWI非米国株:「CWI」
  • US・アグリゲート・ボンド:「AGG」、「BND」

「GEM」では、まず過去12ヵ月にわたるS&P500とACWI非米国株を比較し、パフォーマンスの高かった方を選びます。

次に、選んだインデックスがTビル(米財務省発行の短期国債のこと)よりもパフォーマンスが高かったかどうかを調べ、高ければそのインデックスに投資し、高くなければUS・アグリゲート・ボンドに投資します。

そして、この手順を毎月繰り返すというものです。

3.「GEM」のパフォーマンス

1974年から2013年の40年にわたる「GEM」のパフォーマンスは、平均年次リターンが17.43%、標準偏差が12.64%、シャープレシオが0.87、最大ドローダウンが22.7%であったと言います。

これは、ACWI(MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス)と比べると、年次リターンがほぼ2倍で、ボラティリティは2%減少しており、シャープレシオはほぼ4倍、最大ドローダウンはおよそ3分の1となっています。

ただ、短期ベースでは、GEMが必ずしも市場をアウトパフォームするとは限らないとも書かれています。

具体的には、1975年初期、2002年後半、2009年初期では、GEMはACWIよりも弱く、これはACWIがベア相場によって大きな損失を出した後に急激に上昇したためです。

とはいえ、GEMは、絶対モメンタムと相対モメンタムを一緒に使うことで補完効果が得られ、それぞれを単独で用いた場合と比べるとはるかに優れていると言います。

特に、GEMが市場をアウトパフォームするのはベア相場のときで、これは絶対モメンタムを用いることで、下方リスクを減少させることができるためだと述べられています。

4.モメンタムの応用

第9章の前半では、モメンタムに関連する事柄について書かれています。

一般に絶対モメンタムでは、12ヵ月のルックバック期間(観察期間)が最良であるとされます。

この12ヵ月のルックバック期間というのは、当日の価格がその12ヵ月前の価格よりも高いかどうかを見るということです。

これに対して、200日移動平均やそれと同等の10ヵ月移動平均をボラティリティ低減フィルターとして使う手法が紹介されています。

具体的には、価格が200日(10ヵ月)移動平均を上回っているときはロングポジションを保持し、下回ったらポジションを手仕舞うという手法です。

移動平均を使うことで、日々のちゃぶつきによる損失や、トレード回数を低減することができると言います。

さらに、以下のような結果を示した研究についても言及されています。

  • 「52週高値への近接」:過去6ヵ月の最高リターンだけに基づく利益よりも、52週の高値に近い過去6ヵ月の最高リターンに基づく利益の方が高い。
  • フレッシュモメンタム:フレッシュウィナーが、ステールウィナーをアウトパフォームした。
    • フレッシュウィナー:前の12ヵ月は強かったが、その前の12ヵ月は比較的弱かった株
    • ステールウィナー:前の12ヵ月も、その前の12ヵ月も強かった株

そして、個別株へのモメンタムの適用に関して、モメンタム株とバリュー株は負の相関を持つため、両者を組み合わせることには価値があるといった内容もあります。

5.GBMとDMSR

第9章の後半では、上述した「グローバル・エクイティ・モメンタム(GEM)」を拡張した手法について触れられています。

具体的には、「グローバル・バランスト・モメンタム(GBM)」と、「デュアルモメンタム・セクター・ローテーション(DMSR)」になります。

前者の「GBM」は、ポートフォリオの70%を「GEM」に、残りの30%を債券インデックスに投資するというものです。

債券インデックス部分については、「GEM」でも用いられる「US・アグリゲート・ボンド」で固定したりします。

あるいは、デュアルモメンタムを使って、複数の債券インデックスの中から、ルックバック期間で最も強かったものを選ぶという方法もあるとのことです。

続いて後者の「DMSR」は文字通り、最も強い株式セクターをローテーションするというものです。

例えば、モーニングスターは、米国の株式市場を11のセグメントに分類しています。

その11のセグメントというのは、テクノロジー、工業、エネルギー、コミュニケーションサービス、不動産、金融サービス、景気連動型消費財、素材、公共事業、生活必需品、医療になります。

「DMSR」では、相対モメンタムを使って、パフォーマンスの高いセクターの均等加重バスケットを選びます。

そして、絶対モメンタムで米国株が下降トレンドにあることが判明したら、株式の投資分を全て「US・アグリゲート・ボンド」に移すというものです。

なお、第10章は本書の要旨のような内容で、モメンタムの概要や、モメンタム戦略を実践する上での心構えなどについて書かれています。

6.総括

モメンタムに関しては、あまり馴染みのない投資戦略だという方が多いかと思われます。

しかし、本書で述べられている、モメンタムが機能する理由の考察や、モメンタムの有効性を示した研究の数々を読むと、モメンタムは決して無視できない存在となるでしょう。

モメンタム以外のことについても、債券やスマートベータなどへの言及はとても納得のいくものだと言えます。

そして、個人的には何より、モメンタム戦略の個別株への応用という観点で非常に参考になりましたし、実際に投資を行う際にも意識しています。

それは具体的には、上述した「52週高値への近接」や、「フレッシュモメンタム」、「バリュー株との負の相関」といったものです。

また、モメンタムの研究論文では、研究目的のベンチマーク戦略として、12ヵ月のルックバック期間と1ヵ月の保有期間を使ったものが多いとのことですが、これも個別株に応用できるかもしれません。

本書は、投資家が投資の本質に近づくきっかけとなる一冊だと言っても過言ではないでしょう。

 

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