読書録・書評

【読書録・書評】『10万円から始める! 小型株集中投資で1億円』

1.本書の概要

ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。

まずは、本書の概要からです。

本書では、1年以内に株価3倍以上になる「小型株」に集中投資するという手法について書かれています。

なお、本書の章立ては、以下のようになっています。

  • Prologue:私が投資家になったワケ
  • Step1:1年以内に株価3倍以上になる株の共通点
  • Step2:3倍株を深掘りしよう
  • Step3:小型株でホームランを狙おう
  • Step4:上がる株には2つのパターンがある
  • Step5:あなたの身近にお宝情報がある
  • Step6:「買い時」「売り時」がわかる!
  • Step7:必要最低限でOK! チャート活用術
  • Step8:株式投資でやってはいけない8つのこと
  • Epilogue:投資家仲間ができると資産が拡大する

2.「小型株集中投資」のメリット

本書で説明されている「小型株集中投資」では、基本的に1銘柄、多くても3銘柄に集中的に投資するとのことで、そのメリットとして、以下の3つが挙げられています。

  1. フォローしやすい:投資する銘柄をしっかりと調べるようになったり、管理がマメになったりする。
  2. 塩漬けにしなくなる
  3. チャンス株をつかめば大逆転

2.と3.に関しては、損切りをマイナス10~20%程度で行うことで、投資銘柄の半分を損切りしたとしても、残りの半分が数倍になれば、トータルで大きくプラスになるというスタンスだとあります。

損切り幅がマイナス10~20%というのは、広めだなと感じますが、その分だけ大きな利益を狙うということでしょう。

とはいえ、20~25%くらいのリターンであれば、割と頻繁に狙うことができるものの、数倍のリターンというのは、そう滅多に出せるようなものではないように思われますが‥

3.3倍株のチェックポイント

Step1では、1年以内に株価3倍以上になる株の共通点として、次の8つのものが挙げられています。

  1. 上場して5年以内の会社
  2. 時価総額が小さい(300億円以下)
  3. 創業社長が現役
  4. 社長や経営幹部が大株主
  5. 高学歴の新卒社員がいる
  6. 社員の平均年齢が若い
  7. みんなが欲しいと思う商品を提供している
  8. 株価チャートが上昇トレンド

8.の「株価チャート」に関しては、「出来高」をともなって株価が上がりはじめたタイミングがベストだと書かれています。

さらに、Step2では、上記のチェックリストにマッチする銘柄をさらに以下のような視点で深掘りしていくと言います。

  1. 大株主の考えを想像する
  2. ビジネスモデルを人に説明できるレベルまで理解する
  3. 「これまでの業績」ではなく「これからの業績」を予測する
  4. 利益の使い道によって会社の成長フェーズをつかむ
  5. その会社の商品を選ぶ理由を探る

A.については、例えば「投資ファンド」が大株主だと、一時的に株価が急騰したタイミングや投資ファンドの決算前に大きく売られる可能性があるといったことになります。

D.に関しては、利益を、広告宣伝費や人件費、研究開発費、設備投資、海外展開などに投じる会社は、大きな成長を期待できると書かれています。

そして、C.に関しては、Step3で補足されています。

それは、将来的な売上高の規模感を予測するのに、「フェルミ推定」を用いるというものです。

また、同時に次のような記述もあります。

将来的な売上高を正確に予測することは、そもそも不可能です。

将来的に売上高が”数億円規模”になるか”数十億円規模”になるか、それとも”数百億円規模”になるか―この程度の”ざっくりした規模感”をつかむだけでいいのです。

しかし、そうであるならば、C.の「これからの業績」を予測する必要性はあるのかと疑問に思ってしまいますし、少なくとも私はこうした予測は無意味だと考えています。

だったら、投資ファンドで用いられるような、企業価値の算出方法を当てはめた方がまだマシでしょう。

詳しい説明は割愛しますが、具体的には「EBITDA」を5~10倍(市況によって異なる)したものから、「ネット有利子負債」を差し引いたものになります。

4.上がる株の2つのパターン

Step4では、上がる株には2つのパターンがあるとのことで、以下のような内容が書かれています。

  • (売上増などの)実質をともなって上がる株:【特徴】数ヵ月かけてじわじわ上昇
    • 店舗数を伸ばして業績をあげている会社
    • 便利なデバイスを発売して売り上げが急拡大している会社
    • 新発売したゲームがブームになっている会社
    • テレビCMを打ちはじめた会社
    • 目立たないものの着実に業績を伸ばしている会社
  • 期待だけで上がる株:【特徴】短期間で急上昇・急下落
    • 未完成なのに期待値が高いゲームの会社
    • がんの特効薬などを開発中の会社
    • 海外進出計画のある会社
    • 目新しくて一見すごそうな新規事業計画のある会社
    • 有名企業との提携を発表した会社

5.身近にあるお宝情報

Step5では、身のまわりの情報を投資につなげる方法として、見かけた広告を投資につなげるということが挙げられています。

まず広告は、見た人に購買行動などを起こさせる「ダイレクトレスポンス広告」と、企業やブランドの世界観を伝える「イメージ広告」の大きく2つに分かれます。

そして、投資を検討するタイミングとしては、広告が広がりはじめた段階が理想的だと言います。

また、Twitterを活用した情報収集法についても触れられています。

それには、「個人的な意見は無視して、事実だけを拾う」というスタンスが大事だと言います。

また、著者自身も、最高益更新」、「決算で上方修正発表」、「社長が自社株売却」、「株式分割発表でストップ高」、「新商品発売」といったつぶやきを活用していると述べています。

なお、Step3でも、世の中の時流を知るには、投資・マネーコーナーにある本や雑誌より、『日経トレンディ』(日経BP)のような情報誌のほうが役立つことが多いといったことが書かれています。

6.「買い時」と「売り時」

Step6では、イノベーター理論を引き合いに出して、株の「買い時」と「売り時」を説明しています。

イノベーター理論では、革新的な商品・サービスを受け入れるのが早い順に、「イノベーター」、「アーリーアダプター」、「アーリーマジョリティ」、「レイトマジョリティー」、「ラガード」の5つに分類されます。

これらのうち、「イノベーター(2.5%)」と「アーリーアダプター(13.5%)」が手を伸ばし、「普及率16%」を超えると、一気に普及していくというものです。

そして、株の買い時は「アーリーアダプター」が手を伸ばすタイミングで、「アーリーマジョリティ」から「レイトマジョリティ」に推移する手前あたりがベストの売り時だと書かれています。

しかし、こんな理論は、株式投資の実践においてはほとんど役に立たないでしょう。

本書で挙げられている例にしても、iPhoneやビットコインと、もはや株式ですらありません。

7.チャート活用術

Step7は、チャート活用術についての内容で、「買ってはいけない株」として、以下の2つが挙げられています。

  • 下がり続けている株
  • 誰からも見向きされていない株

後者に関しては、「出来高が少なくて、ほとんど取引されていない株」のことだと補足されています。

また、前者に関しては、「底打ちして上昇トレンドに転換したら買うリスト」を、後者に関しては、「出来高が増えて注目されるようになったら買うリスト」を作っておくことが勧められています。

しかし、株価が目先の底から上昇し始めたとしても、下落トレンドが長く続いていた株というのは戻り売りに遭いやすく、再び下落し始めることが多いものです。

そして、仮にこんなリストを作ったとしても、膨大な銘柄数となることは必至で、業績などで絞る必要がありそうですが、そういったことには全く言及されていません。

加えて、何をもって上昇トレンドに転換したと判断するのかについても全く触れられていません。

ただ、このStep7では、「上昇トレンドが続いている間」は売ってはいけないということも書かれていて、何をもって「上昇トレンドが崩れた」と判断するかについては、次のような記載があります。

なにをもって「上昇トレンドが崩れた」と判断するかは、対象とする銘柄の過去の値動きを株価チャートから参照します。

このあたりは銘柄の特性にもよるため一概にはいえませんが、その銘柄の過去の値動きを参考にどこまで持ち続けるかを決めるといいでしょう。

これに関しては、過去の大化け株の値動きを参考にするならまだ分かりますが、1年以内に株価3倍になるような銘柄の値動きを、その銘柄の過去の値動きから判断できるとは到底思えません。

8.総括

ここまで見てきたように、本書は毒にも薬にもならないような内容です。

一見もっともらしいことが書かれてはいますが、具体性に欠け、実践ではほとんど役に立たないものばかりだと感じました。

私は、本書の出版元であるダイヤモンド社のダイヤモンド・オンラインの有料会員に登録しているのですが、同メディアには興味深い記事が多いだけに、本書は特に期待を裏切られるものでした。

私自身も成長株投資を実践しており、ある程度の成果を出してはいるつもりですが、本書の内容は全くのまがい物にしか思えません。

少なくとも本書の内容で、長期的に成果を上げ続けることなど、決してできないはずです。

それは、成長株投資を実践していない方であっても、ウィリアム・オニール氏やマーク・ミネルヴィニ氏の書籍を読んだことのある方であれば、きっとそう思われるはずです。

そういった書籍と比較すると、本書の内容はあまりにも無責任で軽薄であり、ゴーストライターにでも書かせたもののようにしか思えません。

本書のエピローグでは、著者の主宰するixi<イクシィ>というコミュニティについて、触れられていますが、本書はそのコミュニティに誘導するための宣伝本という位置付けに過ぎないのでしょうね。

 

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