ここでは、直近の「米国株(S&P 500)」について、PER・CAPEレシオ・Fear & Greed Index・NAAIM Exposure index・長短金利差・FRB保有債券残高などといった観点から見ていきたいと思います。
なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照下さい。
Contents
1.S&P 500とPER
まずは、S&P 500に採用されている500銘柄の平均PERとS&P 500の推移を見ていきます。
この図から、1990年代後半以降、ITバブル後やリーマン・ショック後のような特殊な状況を除くと、PERは概ね15倍~35倍で推移しているといえます。
そこで、同期間における、PERが15倍~35倍に相当する株価とS&P 500の推移を示してみたのが以下の図になります。
S&P 500は、コロナショックにより急落し、PER20倍台前半を付けた後、一時は40倍近くにまで急騰していましたが、3月1日時点では27.76倍となっています。
なお、2000年前後のITバブル前にはPERが35倍近くまで上昇する場面もありましたが、2008年のリーマン・ショック前のPERは25倍程度までの上昇に過ぎませんでした。
そして、コロナショックの際も、PER25倍程度からの下落となっていました。
2.S&P 500とCAPEレシオ
次に、景気循環調整後の株価収益率(PER)である、CAPEレシオ(シラーPER)とS&P 500の推移を見ていきます。
CAPEレシオでは、一般に25倍を超えると株価が過熱圏にあるという見方がされます。
CAPEレシオは、コロナショックにより、一時25倍を下回り、その後40倍近くまで上昇する局面もありました。
直近では、再び上昇傾向となっており、3月1日時点では34.21倍となっています。
ちなみに、ここ数年を除いて、過去に30倍を超えたのは、1929年の世界大恐慌の前や、2000年のITバブルの時だけであり、2008年のリーマン・ショック前には25倍以上で推移はしていましたが、30倍まではいきませんでした。
また、CAPEレシオに関しても、15倍~40倍に相当する株価とS&P 500の推移を示したのが以下の図です。
この図からも、直近のS&P 500はCAPEレシオという観点からすると、2008年のリーマン・ショック前よりも割高な水準にあることが分かります。
また、2008年のリーマン・ショック前には、何年もの間にわたってCAPEレシオが25倍を超えて推移していましたし、コロナショック前も2年ほどは30倍前後で推移していました。
そういったことから、CAPEレシオで割高だと判断されたとしても、これによって相場転換のタイミングを計ることは難しいと言えます。
PERやCAPEレシオはあくまで参考程度のものだということです。
3.Fear&Greed Index
続いて、株式市場に対する投資家のセンチメント(市場心理)を示す指標である「Fear&Greed Index」を見てみます。
この指標は、7つの要素を基に算出され、0~100の数値で表わされるとともに、その数値によって「Extreme Fear」「Fear」「Neutral」「Greed」「Extreme Greed」の5つに区分されています。
直近の3月22日時点では、Fear&Greed Indexは68で「Greed(強欲)」となっており、市場心理は依然として強気のままであると言えます。
4.NAAIM Exposure index
Fear&Greed Indexに似たものとして、NAAIM Exposure indexというものもあります。
NAAIM Exposure indexは、National Association of Active Investment Managers(全米アクティブ投資マネジャーズ協会)の会員が毎週水曜日に同協会に報告した、ポートフォリオ全体に対する株式の割合を集計したものになります。
一般に、NAAIM Exposure indexが80%を超えると過度の楽観、20%を下回ると過度の悲観という見方がされます。
直近の3月20日時点では、93.22とこちらも過度の楽観へと傾いています。
5.S&P 500と長短金利差(米国債利回り差)
さらに、長短金利差として、米10年国債利回りと米2年国債利回りの差(=10年国債利回り-2年国債利回り)を見ていきます。
※通常、短期金利とは期間が1年未満の金融資産や負債の金利のことをいいますが、ここでは便宜上2年国債利回りを短期金利として扱っています。
そして、米国の長短金利差とS&P 500の推移を示したのが以下の図です。(なお、見やすくするために、右軸の長短金利差のスケールは反転しています。)
この図からは、2001年前後のITバブル崩壊や、2008年のリーマン・ショック前に米国債利回り差が0%以下と、2年国債利回りの方が10年国債利回りよりも高い状態で推移する「逆イールド」と呼ばれる状態になっていたことが分かります。
そして2022年3月以降、一時的に逆イールドが発生することは何度かありましたが、22年7月以降は逆イールドが定着しており、直近ではマイナス0.37%となっています。
6.FRBの保有債券残高
最後に、FRB(米連邦準備制度理事会)の保有債券残高の推移も見てみます。
なお、この保有債券残高というのは、米国債と住宅ローン担保証券(MBS)、政府機関債の合計となります。
FRBの保有債券残高は、2017年12月頃より縮小されていましたが、2019年10月半ばより、短期金融市場の安定化を目的にTビルの購入が開始され、2020年3月からはTビル以外の米国債やMBSの購入も再開されていました。
そして、2022年6月からはいわゆる量的引き締め(QT)が開始され、FRBの保有債券残高が減少してきていることが上の図からも分かります。
とはいえ、リーマンショック前と比較すると、依然としてかなりの高水準にあるということは変わりません。
7.総括
S&P 500は、年初からもほぼ一本調子の上昇を続け、直近では5200ドル台となっています。
この背景には、景気のソフトランディング(軟着陸)期待や、FRBによるQT(量的引き締め)の減速期待などがあったのでしょう。
実際、3月19-20日のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、政策金利が据え置かれ、近くQTを減速する方針も示されました。
ただ、消費変調のサインや地銀経営不安の再燃などが見られているものの、インフレ圧力が根強く、そう簡単には利下げに動きづらい状況です。
そして、政策金利の高止まりが長期化すれば、米経済への負荷が強まっていくこととなります。
一般に、米経済の減速懸念は長期金利低下という形で現れますが、米政府の歳出増や国債増発、それに伴う利払い費の急増により、長期金利が高止まりする可能性も高いと言えます。
つまり、財政悪化懸念から国債のリスクプレミアムが高まりかねないということです。
今のところ、米国債は安全資産とされ、多少の長期金利上昇もインフレ率が大きく変化しない中では、潜在成長率の上昇と見なされるものと思われます。
しかし、中国が米国債の保有を減少させていることや、それに追随する国が増えるようなことがあれば、今後も増発が続くであろう米国債の消化に、いつ支障を来たしても不思議ではありません。
最近の金(ゴールド)や暗号資産価格上昇の背景には、こういったこともありそうです。
また、インフレが再燃するリスク要因も、政府の歳出増、地政学的リスクの高まり、エネルギー価格高騰、世界の分断化によるリショアリング(設備投資の国内回帰)など、いくつもあります。
さらに他にも、米国株には懸念点があります。
米国株は依然として、一部のハイテク株が株価指数の上昇を牽引するような形ですが、それらの企業に対する規制がEUで強化されており、その流れが米国や日本などにも波及していきそうなのです。
もちろん、すぐに暴落するなどというわけではないでしょうが、以上のような理由から、米国株式市場は楽観が過ぎるのではないかと考えています。