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1.フィッシャー・インベストメンツ率いるケン・フィッシャー氏
今回は、ケン・フィッシャー(ケネス・ローレンス・フィッシャー)氏が率いる、フィッシャー・インベストメンツの2022年6月末時点でのポートフォリオについて見ていきたいと思います。
ケン・フィッシャーは、故フィリップ・A・フィッシャーを父に持ち、米国有数の著名投資家であると同時に、米国の長者番付「フォーブス400」常連の億万長者でもあります。
なお、フィリップ・A・フィッシャーは、ウォーレン・バフェットが師と公言し、成長株投資の礎を築いた伝説的投資家です。
そして、ケン・フィッシャーは、フォーブス誌に「ポートフォリオ・ストラテジー」というコラムを1984年から長期連載しており、投資に関する著書も数多くあります。
中でも、『Super Stocks』(邦訳:『ケン・フィッシャーのPSR株分析』)では、PSRの有効性をケン・フィッシャーが初めて提唱したと言えます。
ただ、このPSRに関しては、その後の『The Only Three Questions That Count』(邦訳:『投資家が大切にしたいたった3つの疑問』)の中で、広く知れ渡ったことによりPSRは機能しなくなったと述べています。
また、同書には、他人には知ることのできない優位性を継続的に発見し、投資判断を常に改善・修正していくための方法が書かれており、その深い洞察力には驚かされます。
2.米証券取引委員会(SEC)への報告書提出義務
さて、ケン・フィッシャーに限りませんが、著名投資家たちのポートフォリオを知ることができるのには理由があります。
これは、米国では運用資産が1億ドル以上の機関投資家は、四半期ごとに証券取引委員会(SEC)への報告書提出が義務付けられているためです。
この報告書は、SECのホームページから閲覧することができ、著名投資家たちのポートフォリオの保有銘柄や株数などを知ることができるのです。
ただ、各四半期末から45日以内が報告書の提出期限であることから、公開されたポートフォリオが最新のものであるとは限らない点には注意が必要です。
また、公開されるのは、米国上場株および、ロングポジションのみとなっています。
さて、各四半期から45日以内が提出期限ということから、2月中旬、5月中旬、8月中旬、11月中旬に報告書が更新されることが多くなります。
つまり、8月中旬頃までには、著名投資家たちの22年6月末時点でのポートフォリオが数多く公開されるというわけです。
3.フィッシャー・インベストメンツのポートフォリオ
それでは早速、フィッシャー・インベストメンツの2022年6月末時点でのポートフォリオを見ていきます。(図では上位24銘柄を示しています。)
また、この四半期前の2022年3月末のポートフォリオを示したのが下図になります。
これらの図からも分かるように、そこまで大きな変化はありませんでした。
上位24銘柄のうち、22年3月末時点と比べて、22年6月末時点で保有株式数に5%以上の変化があったのは、ADBE(-5.5%)、LLY(-20.9%)、NVO(-10.0%)の3銘柄のみでした。
他は、AXPとLQDを除いて、数%程度の買い増しとなっています。
4.ポートフォリオへのインパクトが大きかった銘柄と総括
さらに、22年4月から22年6月末までの間に、ポートフォリオ全体に対する増加率が0.09%以上であった銘柄について見ていきます。
ティッカー | 銘柄名 | 増加率(%) | 組入比率(%) |
JNJ | Johnson & Johnson | 0.64 | 0.72 |
AAPL | Apple Inc | 0.17 | 6.37 |
MSFT | Microsoft Corp | 0.15 | 5.23 |
AMZN | Amazon.com Inc | 0.10 | 3.66 |
VCIT | Vanguard Intermediate-Term Corporate Bond ETF | 0.10 | 3.37 |
GOOGL | Alphabet Inc | 0.10 | 3.24 |
WDS | Woodside Energy Group Ltd | 0.09 | 0.09 |
また、同期間で、ポートフォリオ全体に対する減少率が0.10%以上であった銘柄についても見ていきます。
ティッカー | 銘柄名 | 減少率(%) | 組入比率(%) |
LLY | Eli Lilly and Co | -0.27 | 1.36 |
ADBE | Adobe Inc | -0.10 | 1.61 |
NVO | Novo Nordisk A/S | -0.10 | 1.13 |
PBR | Petroleo Brasileiro SA Petrobras | -0.10 | 0.19 |
まず、上の表にあるWDS(ウッドサイド・エナジー・グループ)はオーストラリアのエネルギー企業(石油・天然ガス)で、PBR(ペトロブラス)はブラジルのエネルギー企業になります。
どちらもエネルギー価格高騰を受けて業績は急回復を見せていますが、ちょうどPBRを売った分でWDSを買ったような格好となっています。
22年6月には、ブラジルを含む5か国によるBRICS首脳会議があり、基軸通貨ドルに代わる共通準備通貨づくりが議論されたと言います。
そういったこともあり、あくまで想像にはなりますが、PBRに関してはそうした地政学的なリスクを気にしたのかもしれません。
そして、22年4月から6月末の期間というのは、米株価指数が大きく調整していた時期と重なっていましたが、ポートフォリオの主要銘柄はほとんどが買い増しとなっていました。
つまり、ケン・フィッシャーは米国株、なかでも米国株を牽引してきたハイテク関連銘柄の先行きに強気であり、逆張りで買い増していたということになります。
結果論ではありますが、7月以降の米国株は急反発を見せており、8月10日発表の米CPI(消費者物価指数)も予想を下回る結果となり、米国株にとっては追い風となっています。
エネルギーや金属といった資源価格の動向から、インフレはピークアウトした可能性が高いように思われますが、依然として高インフレであることに変わりはなく、8月8日発表の米雇用統計も強い結果を示していたことから、米FRB(連邦準備制度理事会)の利上げはしばらく続くことになりそうです。
となると、政策金利が中立金利を上回り、オーバーキル(金融引き締めによる景気後退)となってしまうことが十分に考えられます。
そういったことなどから、特に米国株の運用は引き続き難しいものとなることが予想される中で、ケン・フィッシャーがどのようなポートフォリオ・マネジメントを見せるのかには注目していきたいところです。