ここでは、直近の「WTI原油」について、CFTC建玉明細の投機筋ポジション、ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)、原油在庫統計(EIA・API)といった観点から見ていきたいと思います。
なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照ください。
1.WTI原油とCFTC建玉明細(投機筋)
まず、CFTC建玉明細から投機筋のネットポジションの長期推移を、WTI原油先物価格とともに示したのが以下の図になります。
また、この図から直近の推移だけを取り出して示したのが、以下の図です。
投機筋のネットポジションとWTI原油先物価格は、強い相関性を認めていましたが、コロナショック以降は相関性が弱まっていることが見て取れます。
直近においても、投機筋のネットポジションとWTI原油先物価格とは大きく乖離しています。
2.WTI原油とブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)
次に、市場が推測する期待インフレ率を示す指標である、ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)についてです。
このBEIの推移を、WTI原油先物価格とともに示したのが以下の図になります。
また、この図から直近の推移だけを取り出して示したのが、以下の図です。
この図から、WTI原油先物価格とBEIとの間には、強い相関性があることが見て取れます。
そして、直近ではBEIとWTI原油先物価格ともに、高止まりしていることが分かります。
3.WTI原油先物価格と原油在庫統計(EIA・API)
最後に、原油在庫統計についてです。
まず、米国エネルギー情報局(EIA)の原油在庫統計の推移を、WTI原油先物価格とともに示したのが以下の図になります。(見やすくするために、右軸の原油在庫統計のスケールは反転しています。)
続いて、米国石油協会(API)の原油在庫統計の推移を、WTI原油先物価格とともに示したのが以下の図です。(見やすくするために、右軸の原油在庫統計のスケールは反転しています。)
これらの在庫統計を見ると、その増減はWTI原油先物価格の後追いとなっていることが分かります。
原油在庫の増減を見越して(先取りして)、原油価格が動いているのでしょう。
足元では、原油在庫に比して、WTI原油先物価格が大きく上昇していることから、市場は原油在庫の大幅な減少を見越しているものと思われます。
4.総括
WTI原油先物価格は、3月上旬に一時130ドル台にまで急騰していましたが、直近では100ドル前後での値動きとなっています。
言うまでもないかもしれませんが、この背景にはロシア軍によるウクライナ侵攻に伴い、米国がロシア産原油の輸入禁止を発表したことなどがあります。
ロシアは世界の原油供給の10%を占める世界有数の産油国であるため、原油相場にとってロシアからの原油供給が滞ることの影響は大きいということです。
また、2014年以降の原油価格の低迷や、世界的な脱炭素の流れなどで、世界の余剰生産能力が減少していることから、すぐに供給量を増加させようとしても限度があります。
原油の埋蔵量自体は豊富にあり、少なくとも50年以上は枯渇する心配はないと言われますが、ロシアへの欧米諸国による経済制裁は長期化するものと思われ、そうした供給制約もしばらくは継続するとなると、原油価格は高値圏での推移が続くことになりそうです。