1.米証券取引委員会(SEC)への報告書提出義務
今回は、ヘッジファンド界の帝王とも呼ばれるレイ・ダリオ氏が率いる、世界最大級のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツの2021年12月末時点でのポートフォリオについて見ていきたいと思います。
ちなみに、レイ・ダリオ氏に限りませんが、著名投資家たちのポートフォリオを知ることができるのには理由があります。
これは、米国では運用資産が1億ドル以上の機関投資家は、四半期ごとに証券取引委員会(SEC)への報告書提出が義務付けられているためです。
この報告書は、SECのホームページから閲覧することができ、著名投資家たちのポートフォリオの保有銘柄や株数などを知ることができるのです。
ただ、各四半期末から45日以内が報告書の提出期限であることから、公開されたポートフォリオが最新のものであるとは限らない点には注意が必要です。
また、公開されるのは、米国上場株および、ロングポジションのみとなっています。
さて、各四半期から45日以内が提出期限ということから、2月中旬、5月中旬、8月中旬、11月中旬に報告書が更新されることが多くなります。
つまり、この22年2月中旬には、著名投資家たちの21年12月末時点でのポートフォリオが数多く公開されるというわけです。
2.ブリッジウォーター・アソシエイツのポートフォリオ
それでは早速、ブリッジウォーター・アソシエイツの2021年12月末時点でのポートフォリオを見ていきます。(図では、組み入れ比率の上位22銘柄を示しています。)
また、この四半期前の2021年9月末のポートフォリオを示したのが下図になります。
この両者を比較して、上位22銘柄のうちで、ポートフォリオの組み入れ比率に20%以上の増減があった銘柄を取り出すと、以下のようになります。
ティッカー | 銘柄名 | 組み入れ比率(%) | 増減率(%) |
VWO | Vanguard FTSE Emerging Markets ETF | 4.83 | -28.32 |
BABA | Alibaba Group Holding Ltd | 2.95 | 29.73 |
IEMG | iShares Core MSCI Emerging Markets ETF | 2.89 | -39.73 |
EEM | iShares MSCI Emerging Markets ETF | 2.53 | -55.75 |
WMT | Walmart Inc | 2.38 | -43.65 |
EL | The Estee Lauder Companies Inc | 1.1 | -27.49 |
JD | JD.com Inc | 1.08 | 33.76 |
PDD | Pinduoduo Inc | 0.9 | 38.65 |
この表を見ると、VWO、IEMG、EEMといった新興国株式ETFの売りが目立ちます。
しかも、これらの銘柄は前の四半期である21年7月から9月末までの間には大量に買われていたため、その後は売りに転じていたということになります。
3.レイ・ダリオのポートフォリオ・マネジメントと総括
さらに、上位22銘柄には含まれないものの、ポートフォリオへの組み入れ比率が割と大きく、上の表にある銘柄と関連するものとして、次の2銘柄がありました。
ティッカー | 銘柄名 | 組み入れ比率(%) | 増減率(%) |
BIDU | Baidu Inc | 0.65 | 23.76 |
MCHI | iShares MSCI China ETF | 0.46 | -38.25 |
この表にあるように、中国株式ETFが売られています。
なお、上述した3つの新興国株式ETFはいずれも中国株式を3割前後組み入れていますので、中国株式全体としてはかなりの量を売っていたことになります。
一方で、二つの表から分かるように、BABA(アリババ・グループ)や、JD(JDドットコム)、PDD(ピンデュオデュオ)といった中国のeコマース企業や、検索エンジンなどを手がけるBIDU(バイドゥ)を買い増していたことも見て取れます。
これらの銘柄は前の四半期でも買い増していましたので、中国株式の中でも一部の銘柄に関しては強気ということなのでしょう。
あるいは、21年10月から12月末の期間で見ると、新興国株式ETFは数%ほどの調整に過ぎないのに対し、BABA、JD、PDDの株価はおよそ2~3割の下落となっていましたので、逆張り的なポジション調整ということだったのかもしれません。
以上のように、ブリッジウォーター・アソシエイツのポートフォリオには依然として、決して少なくない量の中国株が組み入れられていることが分かります。
私は、中国株は未だに不確定要素が多いことなどから、JDなどの中国株は全て売り切ってしまったこともあり、今後レイ・ダリオがどのように中国株を売買していくのかには注目していきたいと思っています。