1.米証券取引委員会(SEC)への報告書提出義務
今回は、ヘッジファンド界の帝王とも呼ばれるレイ・ダリオ氏が率いる、世界最大級のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツの2021年9月末時点でのポートフォリオについて見ていきたいと思います。
ちなみに、レイ・ダリオ氏に限りませんが、著名投資家たちのポートフォリオを知ることができるのには理由があります。
これは、米国では運用資産が1億ドル以上の機関投資家は、四半期ごとに証券取引委員会(SEC)への報告書提出が義務付けられているためです。
この報告書は、SECのホームページから閲覧することができ、著名投資家たちのポートフォリオの保有銘柄や株数などを知ることができるのです。
ただ、各四半期末から45日以内が報告書の提出期限であることから、公開されたポートフォリオが最新のものであるとは限らない点には注意が必要です。
また、公開されるのは、米国上場株および、ロングポジションのみとなっています。
さて、各四半期から45日以内が提出期限ということから、2月中旬、5月中旬、8月中旬、11月中旬に報告書が更新されることが多くなります。
つまり、この11月中旬には、著名投資家たちの9月末時点でのポートフォリオが数多く公開されるというわけです。
2.ブリッジウォーター・アソシエイツのポートフォリオ
それでは早速、ブリッジウォーター・アソシエイツの2021年9月末時点でのポートフォリオを見ていきます。(図では、組み入れ比率の上位22銘柄を示しています。)
また、この四半期前の2021年6月末のポートフォリオを示したのが下図になります。
この両者を比較して、ポートフォリオの組み入れ比率に10%以上の増加があった銘柄を取り出すと、以下のようになります。
ティッカー |
銘柄名 |
組み入れ比率 |
組み入れ比率の増加率 |
VWO |
Vanguard FTSE Emerging Markets ETF |
6.42 |
97.47 |
EEM |
iShares MSCI Emerging Markets ETF |
5.56 |
822.71 |
IEMG |
iShares Core MSCI Emerging Markets ETF |
4.65 |
224.56 |
BABA |
Alibaba Group Holding Ltd |
2.67 |
131.86 |
GLD |
SPDR Gold Shares ETF |
2.15 |
47.98 |
IVV |
iShares Core S&P 500 ETF |
1.95 |
27.94 |
PDD |
Pinduoduo Inc |
0.95 |
71.81 |
FXI |
iShares China Large-Cap ETF |
0.91 |
15.2 |
JD |
JD.com Inc |
0.79 |
67.58 |
この表の上位3銘柄から明らかなように、21年6月末から21年9月末までの間に、新興国株式へのエクスポージャーをかなり増していたことが分かります。
また、FXI(中国大型株ETF)をはじめ、BABA(アリババ・グループ)や、PDD(ピンデュオデュオ)、JD(JDドットコム)といった中国のeコマース企業を買い増していたことも見て取れます。
3.レイ・ダリオの主な新規買い銘柄と総括
21年6月末から21年9月末までの間では、新規買いが117銘柄、完全売却が138銘柄で、221年9月末時点での保有銘柄数は683銘柄となっていました。
ただ、新規買い銘柄のうちで、ポートフォリオへの組み入れ比率が大きかったのは、0.38%の中国のDIDI(ディディ・グローバル)1銘柄のみで、それ以外は全て0.04%以下となっていました。
なお、DIDIは21年6月末にNY証券取引所に上場した直後に、中国当局から審査や処分を受けて、半値近くにまで値下がりし、その後も底を這うような値動きが続いています。
また、BABA(アリババ・グループ)も、独禁法違反の疑いで中国当局から巨額の罰金を科されるなどしていました。
このように、一部の中国株には当局からの突然の規制強化などのリスクが懸念され、株価も軟調となる中で、そうした銘柄を逆張りで買い向かっていたものと思われます。
中国は、不動産業をはじめとした過剰債務問題を抱えており、この問題はあと1~2年は続く見込みであることから、個人的には中国株には手を出しづらいところですが。
さて最後に、21年6月末から9月末までの間に大きく買い増していた新興国株式について触れておきたいと思います。
その大きな買い増しにより、21年9月末時点でのポートフォリオでは、組み入れ比率の上位3銘柄である、VWO、EEM、IEMGが全て新興国株式ETFとなっています。
この3つの違いを簡単に見ていくと、VWOでは韓国株式が含まれないのに対し、EEMとIEMGでは同株式が1割強もの組み入れ比率となっています。
また、VWO、EEM、IEMGの信託報酬を見てみると、それぞれ、0.10%、0.68%、0.11%となっており、EEMだけが飛び抜けて高い信託報酬年率となっているのです。
この3銘柄では、組入銘柄にそこまでの大きな違いがないことから、信託報酬の高いEEMを組み入れる必要性は低いように思われ、その真意は定かではありません。
そして、新興国株式は、確かにここ1年で見ると短期的な調整局面もありましたが、過去10年間で見ると依然として最高値圏にあります。
さらに今月11月からは、いよいよFRB(米連邦準備制度理事会)によるテーパリング(量的緩和縮小)が開始となり、最短だと8ヵ月後には米国債などの資産購入が終了となり、その先にはFRBによる利上げも控えています。
こうしたFRBの動きというのは、新興国株式にとっては逆風となるはずで、新興国株式を買い増すことの真意というのも測りかねます。
ヘッジファンド界の帝王レイ・ダリオ氏の前には、一般人には見えない景色が広がっているのかもしれず、中国株やそれを含めた新興国株の先行きには注目したいところです。