読書録・書評

【読書録・書評】『超カリスマ投資系YouTuberが教える ゴールド投資――リスクを冒さずお金もちになれる方法』

1.本書の概要

ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。

まずは、本書の概要からです。

本書では、ウォール街での投資銀行業務や、ヘッジファンドの共同設立などを経験したという高橋ダン氏によって、ゴールド投資について書かれています。

なお、本書の章立ては、次のようになっています。

    • 第1章:金に投資する6つの理由
    • 第2章:金とは何なのか?
    • 第3章:金に関する投資商品ベスト7
    • 第4章:長期の投資戦略--ルールを決めて機械的に積立てる
    • 第5章:短期の投資戦略--買い時・売り時のチャートシグナ

2.金に投資する6つの理由

第1章では、金に投資する6つの理由として、以下のものが挙げられています。

  1. 世界恐慌に備える最も有力な保険
  2. インフレリスクに備える
  3. 供給量が決まっている有限の資産
  4. 5000ドルに値上がりする
  5. 世界の有力投資家が買っている
  6. ほったらかし、ストレスフリーで投資できる

これらのうち、3.については、次のように書かれています。

  • 現在、世界に存在している採掘された金(地上在庫といいます)は約19万トンで、量に換算すると五輪などで使われる国際基準のプールで約4杯分しかありません。
  • 人類が数1000年の歴史の中で、数万人の労力を費やしても、これだけの量しか採れなかったのです。
  • また、地中に埋蔵されたまま未採掘の金もありますが、その量は5万トンほどといわれ、そのほとんどは採掘が非常に難しい場所にあるといわれています。

また、4.に関しては、今後20~30年で見れば、マネーサプライ(M2)との比較から、金価格5000ドルは十分にあり得ると述べられています。

3.銀・プラチナ・パラジウムと比較した金の特徴

第2章では、他の貴金属と比較した金の特徴について書かれています。

それは、金は景気と連動しにくいのに対して、それ以外の貴金属(銀やプラチナ、パラジウムなど)は景気と連動しやすい、ということです。

というのも、金は、約半分が宝飾品、4割が投資に使われ、経済活動と関連する工業製品に使われる量は1割ほどであるためです。

一方、銀は半分以上、プラチナとパラジウムは大半が工業製品に使われ、これらの貴金属を買っているのは製造業の企業などです。

そのため、景気が悪化し、製造業が停滞すると予想される局面では、銀、プラチナ、パラジウムの需要が減り、結果、金よりも景気と連動しやすくなり、株価などと同様に下落することもあると述べられています。

4.金に関連する投資商品

第3章では、金に関連する投資商品として、次の7つが挙げられています。

①金の現物投資、②金のETF、③金先物・金CFD、④金鉱株、⑤金鉱株のETF、⑥銀・プラチナ・パラジウムのETF、⑦ビットコイン

上記の中でも、②金のETFが最も勧められており、具体的な商品としては以下のものが示されています。

  • 米ドル建てETF
    • SPDRゴールド・シェアーズ(GLD)
    • i シェアーズ・ゴールド・トラスト(IAU)
  • 円建てETF
    • SPDRゴールド・シェア(1326)
    • 純金上場信託(現物国内保管型)(1540)

5.長期の投資戦略

第4章では、長期の投資戦略に関する内容で、長期・分散・積立が3大原則であると書かれています。

このうち積立については、ドルコスト平均法が勧められています。

また、ポートフォリオの内訳としては、絶対的な正解があるわけではないものの、著者が最善だと考える配分が紹介されています。

それによると、まず投資可能な資金のうち、10~30%を短期投資分、70~90%を長期投資分として分けると言います。

次に、長期投資用の資金を、以下の3つに、各配分を目安にして分けるとのことです。

  1. 景気上昇を想定した資産(リスク・リワードが大きい資産)
    • 株、社債、不動産(先進国・途上国・ドル建て・円建て・他通貨建て)に40~60%を配分します。
  2. 景気低迷に備える資産(リスク・リワードが小さい資産)
    • 国債(アメリカ・欧州)、現金に10~30%を配分します。
  3. 上記の2つと連動性が薄い資産
    • コモディティ(金などの貴金属・ビットコイン・その他のコモディティ)に20~40%を配分します。

本書のテーマである金や金関連の投資商品は、長期投資用の資金(全体の70~90%)のうちの、コモディティ(20~40%)の中に含まれ、投資可能な資金全体のうち、14~36%に相当するということになります。

なお、コモディティと言っても、原油などのエネルギーや、トウモロコシや大豆などの穀物をメインにはしないとも述べられています。

それらは、将来的な供給量の増加によって値下がりするリスクがあったり、景気との相関性が高かったりするためです。

そして、そのコモディティに関するポートフォリオの一例として、次のようなものが挙げられています。

  • 金ETF(米ドル建て・円建て):5%
  • 金鉱株、金現物:5%
  • 銀:5%
  • プラチナ、パラジウム:5%
  • ビットコイン:5%
  • その他のコモディティ:5%

もちろん、投資資金が少ない場合には、ここまで分散するのが難しいため、その場合は金のETFを優先して買うのが良いともあります。

6.総括

本書の第1章では、コロナショック後とリーマンショック後のそれぞれについて、ダウ平均株価と金価格の推移を示した図が載せられており、金価格の方が回復が早かったと書かれています。

しかし、金価格は2011年半ばに高値を付けた後、2020年半ばまで停滞していたことを忘れてはいけません。

しかも現在の金価格は、2011年半ばに付けた高値を下回っているのに対し、ダウ平均株価は最高値を更新し続けています。

ですから、本書に掲載されている図は、都合の良いところだけを取り出したものに過ぎないと言えます。

また、同じく第1章では、マネーサプライ(M2)との比較から、金価格5000ドルも十分にあり得ると書かれています。

最近では、マネーサプライはマネーストックと呼ぶようになっていますが、結論だけ言えば、マネーストックが急増したとしても、必ずしもインフレにはつながらず、従って金価格も上昇するとは限りません

(マネーストックが増加しても、企業や家計が貯蓄を増やせば、流通速度が低下し、物価上昇につながるとは限らないためです。)

他にも、本書では投資可能資金のうち、10~30%で短期投資を行うとあります。

この短期投資は、信用取引口座で金ETFの売買を行うとのことですが、短期売買と言えば、株価指数先物やFXで行われるのが一般的で、金ETFというのは聞いたことがありません。

一応、第5章では、著者が実践しているという短期の投資戦略について説明されています。

しかし、金ETFはたとえ海外ETFであっても値が飛ぶことが多く、決して短期売買に向いた商品ではないため、著者が本当に金ETFで短期売買を行っているのかは甚だ疑問です。

いずれにしても、金ETFに限りませんが、短期売買には手を出さないのが無難です。

以上のように本書には、恣意的で正確性に欠け、投資家にとって害悪となりかねないような内容もあります。

なおかつ、帯にある「最強の投資法」、「ゴールド投資の専門書」などといった文言は、誇大表現や虚偽記載であると言わざるを得ません。

個人的には、出版社の中では比較的信頼しているダイヤモンド社から、このような書籍が出版されたということ自体が、ただただ残念でなりません。

 

 

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