ここでは、直近の「WTI原油」について、CFTC建玉明細の投機筋ポジション、ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)、原油在庫統計(EIA・API)といった観点から見ていきたいと思います。
なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照ください。
1.WTI原油とCFTC建玉明細(投機筋)
まず、CFTC建玉明細から投機筋のネットポジションの長期推移を、WTI原油先物価格とともに示したのが以下の図になります。
また、この図から直近の推移だけを取り出して示したのが、以下の図です。
この図から、投機筋のネットポジションとWTI原油先物価格は、強い相関性を認めていることが分かります。
また直近では、投機筋のネットポジションがほぼ横ばいであるにもかかわらず、WTI原油先物価格が大きく上昇しています。
2.WTI原油とブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)
次に、市場が推測する期待インフレ率を示す指標である、ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)についてです。
このBEIの推移を、WTI原油先物価格とともに示したのが以下の図になります。
また、この図から直近の推移だけを取り出して示したのが、以下の図です。
この図から、WTI原油先物価格とBEIとの間にも、強い相関性があることが見て取れます。
そして、直近ではBEIが大きく上昇し、そのあとを追うようにしてWTI原油先物価格も上昇しています。
3.WTI原油先物価格と原油在庫統計(EIA・API)
最後に、原油在庫統計についてです。
まず、米国エネルギー情報局(EIA)の原油在庫統計の推移を、WTI原油先物価格とともに示したのが以下の図になります。(見やすくするために、右軸の原油在庫統計のスケールは反転しています。)
続いて、米国石油協会(API)の原油在庫統計の推移を、WTI原油先物価格とともに示したのが以下の図です。(見やすくするために、右軸の原油在庫統計のスケールは反転しています。)
これらの在庫統計を見ると、その増減はWTI原油先物価格の後追いとなっていることが分かります。
足元で原油在庫は、EIA・APIともに減少傾向ですが、その減少度合い以上に、WTI原油先物価格が上昇していることが見て取れます。
4.総括
WTI原油先物価格は、直近では70ドル台前半で推移しており、2015年以降では、2018年夏頃に並ぶ最高値圏となっています。
2020年4月にマイナス40ドル台を付けたWTI原油先物価格が、再びこの水準にまで上昇することは全くの予想外でしたし、これを予想できた識者というのもほとんどいなかったのではないでしょうか。
この背景には、BEIのところで見たような、期待インフレ率の上昇があると思われます。
実際、米国の消費者物価上昇率は、4月が前年同月比4.2%、5月は同5.0%と大きく上昇していましたが、これには前年のコロナ禍の反動という面もあります。
そのため、FRBのスタンスも、あくまで上昇は一時的なものというものですが、市場はそうは捉えていないのかもしれません。
とはいえ、もともと原油は供給過剰感が強かったことや、世界的な脱炭素の潮流もあることから、このまま上値を追うような展開にはさすがになりにくいのではないかと思われます。