相場のデータ・指標

「米国長期金利」のデータ分析(2021.3)(日本と中国の米国債保有額・FRB保有債券残高)

ここでは、直近の「米国長期金利」について、日本と中国の米国債保有額やFRBの保有債券残高といった観点から見ていきたいと思います。

なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照ください。

1.米国債保有額(日本・中国・総計)

まずは、日本と中国の米国債の保有額および保有率の推移について見ていきます。

日本と中国の米国債保有額・保有率の推移を示した図(2021.3)

この図から、ここ数年の中国の米国債保有額および保有率は減少傾向となっていることが分かります。

一方、日本の米国債保有額は増加傾向となっています。

そして、日本と中国の米国債保有額を合計したものと、米10年国債価格の推移を示したのが以下の図です。

日本と中国の米国債合計保有額と米10年国債価格の推移を示した図(2021.3)

この図から、日本と中国の米国債の合計保有額は、米10年国債価格と概ね相関しているように見えます。

ただ、初めに示した図からも分かるように、日本と中国を合わせた米国債の保有率というのは、4割にも満たないものとなっています。

そこで、世界各国の米国債保有額の総計についても、米10年国債価格の推移とともに示したのが以下の図になります。

米国債保有額総計と米10年国債価格の推移を示した図(2021.3)

すると、世界各国の米国債保有額の総計は減少しておらず、増加傾向にあることが分かります。

つまり、世界全体で見た場合には、米国債への需要は底堅いものがあると言えそうです。

2.FRBの保有債券残高

次に、FRB(連邦準備制度理事会)の保有債券残高についてです。

FRBは2020年3月15日に、ゼロ金利政策ととともに、米国債およびMBSの購入も復活させ、6月10日には、米国債を月800億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を月400億ドルとの購入規模の目安を示していました。

ここでは、その米国債とMBSに政府機関債を加えた3つについて、FRB保有残高の推移をそれぞれ見ていきます。

米国債のFRB保有残高の推移を示した図(2021.3)

MBSのFRB保有残高の推移を示した図(2021.3)

政府機関債のFRB保有残高の推移を示した図(2021.3)

さらに、これら3つを合計した、FRB保有債券残高の推移を示したのが以下の図になります。

FRB保有債券残高の推移を示したの図(2021.3)

これらの図から、米国債およびMBSの購入に伴って、FRB保有債券残高が足元で再び大きく増加しているのが見て取れます。

最後に、FRB保有債券残高の推移を示した図の2017年1月以降を取り出して、米長期金利の推移とともに示したのが以下の図です。(見やすくするために、右軸のFRB保有債券残高のスケールは反転してあります。)

FRB保有債券残高と米長期金利の推移を示した図(2021.3)

この図からも分かるように、FRBの保有債券残高と米10年債利回りの相関はほとんど認められません。

やはり長期金利は、FRBの保有などといった需給よりも、経済や景気の見通しの影響を強く受けるのだということを改めて認識させられます。

3.総括

FRB(米連邦準備理事会)は、3月16~17日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、ゼロ金利政策を少なくとも2023年末までは維持するとの方針を示していました。

また、当面は米国債を月800億ドル、MBSを月400億ドルのペースで買い入れる量的緩和政策を継続することも決定していました。

さて直近では、米長期金利が1.7%前後にまで上昇していますが、この理由としては、景気回復期待や期待インフレ率の上昇といったものが挙げられます。

そして、コロナ禍の反動で、実質GDP成長率や期待インフレ率が一時的に大きく高まることも予想されます。

ただ、米国では2%の物価目標が導入された2012年以降、9年間の物価上昇率の平均は約1.5%であり、今後も2%を大きく超えるということは考えづらいでしょう。

また、経済成長率に関しても、巨額の財政支出の影響が一巡した後は、元の緩やかな軌道へと収れんしていくことになるでしょう。

そう考えると、当面は米長期金利が2%を超えて上昇していくことが想定されますが、その後は長期金利が再び低下していくものと思われます。

これには、技術革新やDX(デジタルトランスフォーメーション)などの進展により、雇用の十分な回復が見込みづらく、インフレ率の上昇にはつながりにくいと考えられることもあります。

とはいえ、一時的にではあっても長期金利が2%を超えて大きく上昇した際には、FRBが何らかのアクションをとる可能性もあります。

いずれにしても、米長期金利の動向には、引き続き注視していく必要があるでしょう。

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