読書録・書評

【読書録・書評】『ウォール街のモメンタムウォーカー 〔個別銘柄編〕』(2/2:具体的なモメンタム戦略)

1.本書の概要

ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。

まずは、本書の概要からです。

本書では、過去の価格変動に基づいて将来の期待パフォーマンスを予測することはできる、という「モメンタム」戦略について書かれています。

タイトルに[個別銘柄編]とはありますが、個別株の銘柄選別法ではなく、モメンタムを用いた戦略的なポートフォリオの構築法についての内容となっています。

本書に関しては、第1部と第2部の2回に分けてレビューしていきたいと思いますが、第1部については以下の記事でレビューしていますので、よろしければご参照ください。

そして、ここでは「具体的なモメンタム戦略」について書かれた、第2部のレビューをしていきます。

なお、本書の章立ては、以下のようになっています。

  • 第1部:モメンタムを理解する
    • 第1章:宗教よりも理性を
    • 第2章:アクティブ投資戦略が機能するわけ
    • 第3章:モメンタム投資は成長株投資ではない
    • 第4章:バリュー投資家がモメンタムを必要とするわけ
  • 第2部:モメンタムベースの銘柄選択モデルの構築
    • 第5章:モメンタム戦略構築の基礎
    • 第6章:モメンタムの最大化
    • 第7章:モメンタム投資家は季節性を知っておくべき
    • 第8章:定量的モメンタムは市場を打ち負かす
    • 第9章:実践で機能するモメンタム戦略を作る

2.モメンタムのルックバック期間(観察期間)

第5章では、モメンタム戦略構築の基礎について書かれています。

まず、モメンタムを算出するのに用いるルックバック期間(観察期間)について、以下の3つについて述べられています。

  1. 短期モメンタム(例えば、ルックバック期間は1ヵ月)
  2. 長期モメンタム(例えば、ルックバック期間は3年から5年)
  3. 中期モメンタム(例えば、ルックバック期間は6ヵ月から12ヵ月)

様々な論文によると、短期モメンタムと長期モメンタムでは、将来的にはリターンリバーサルが発生することが予想されるという結果だったのです。

つまり、過去のパフォーマンスが低い株式は、その後に高いパフォーマンスを示し、過去のパフォーマンスが高い株式は、その後に低いパフォーマンスになるということです。

一方、中期モメンタムでは、それらと異なる結果となっていました。

過去に高いパフォーマンスを示した株式は将来的にも高いパフォーマンスを示し、過去に低いパフォーマンスを示した株式は将来的にも低いパフォーマンスを示したのです。

なかでも、過去12ヵ月のパフォーマンスに基づいて銘柄を選択し、ポジションを3ヵ月間保有するのが最良の戦略であったという結果も紹介されています。

ただし、中期モメンタムの超過リターンは長続きしないことも発見されたと言います。

例えば、12ヵ月を超えて同じ銘柄を保有すると、ポートフォリオのモメンタムプレミアムが消えてしまうとのことでした。

3.中期モメンタムポートフォリオの構築方法

第5章ではさらに、中期モメンタムポートフォリオの構築方法についても述べられています。

本書では、中期モメンタムを計算する際に、最も直近の月のリターンは除いています。

これは例えば、2015年12月31日の大引けでトレードするポートフォリオを構築する場合、2014年12月31日の大引けから、2015年11月30日までの大引けまでのトータルリターンを計算するということです。

ただ、モメンタムの計算に最も直近の月を含めても、結果はほとんど変わらないとも書かれています。

また、季節性を最小化するための、オーバーラッピングポートフォリオなるものについても触れられています。

これは、株式の保有期間を3ヵ月間とした場合、1ヵ月ごとに資産の3分の1ずつ、高モメンタム銘柄を買っていくというプロセスを毎月繰り返すものになります。

ただ、これに関しても、オーバーラッピングポートフォリオを使わなくても、結果は大きく変わることはないとあります。

さらに、ポートフォリオに関して、銘柄数が少なくて、リバランス頻度が高いほど、年平均成長率は高くなるとも言います。

理想的なのは、集中度が高く(例えば、50銘柄)、毎月リバランスする(保有期間は1ヵ月)ポートフォリオですが、トレードコストも考慮する必要があるとのことです。

4.高モメンタム株のベータアノマリー

第6章では、低ベータ銘柄が高ベータ銘柄をアウトパフォームする傾向があるというベータアノマリーについて説明されています。

ベータとはボラティリティ、つまりシステマティックリスクを測定したものに他ならないとありますが、一般にベータが高い(=マーケットリスクが高い)と期待リターンは大きいことが予想されます。

しかし、低ベータ銘柄が高ベータ銘柄をアウトパフォームする傾向があるというのです。

というのも、でこぼこの経路を持つ(高ベータ)銘柄は、スムーズな経路を持つ(低ベータ)銘柄に比べて、宝くじバイアスによるミスプライシングに陥る可能性が高いためです。

これは、宝くじとみなされるような銘柄は、投資家がファンダメンタルバリュー以上の価格で買うため、パフォーマンスが悪くなりやすいということです。

そのため、スムーズなモメンタム経路を持つ銘柄は、でこぼこのモメンタム経路を持つ銘柄よりも、将来的なパフォーマンスが高いと書かれています。

5.季節性アノマリー

第7章では、季節性アノマリーについて述べられています。

それは、四半期(3月、6月、9月、12月)終了前の月のモメンタム利益は大きくなるはずであり、特に年末(12月)前の月には利益は大きくなるというものです。

また、負け銘柄と勝ち銘柄に対する需要が通常レベルに戻る1月には、モメンタム利益は小さくなるということも述べられています。

リチャード・サイアスはこれらの概念を検証し、その結果、モメンタムは非常に強い季節性アノマリーであることを裏付ける強力な証拠を得たと言います。

そして本書では、これらを説明するものとして、「ウィンドウドレッシング仮説」と「税金最小化仮説」が挙げられています。

まず、「ウィンドウドレッシング」というのは、ファンドマネジャーが、報告書の発表日直前に、負け株を売って、最近の勝ち株を買うことで、報告書を良く見せようとすることを指します。

これによる「ウィンドウドレッシング仮説」というのは、次のようなものになります。

ウィンドウドレッシングによって機関投資家の需要の流れが低モメンタム株から出ていき、高モメンタム株に流れ込むため、モメンタム利益は四半期の最終月で最も高くなる。

続いて、「税金最小化仮説」というのは、個人投資家の節税目的の株式売却によるもので、個人投資家は年末に売り、年初に買う傾向があるというものです。

「税金最小化仮説」については、次のように書かれています。

勝ち銘柄は売り圧力を受けることはなく、負け銘柄は売り圧力を受ける可能性が高いため、税制上の優遇措置によって12月のモメンタム利益は大きくなる。しかし、税金に関連するこうした流れは年明けには逆転する。

さらに、個人投資家が関心を持つ株式のリターンは、機関投資家が関心を持つ株式のリターンを、12月の終わりにはアンダーパフォームし、1月の初めにはアウトパフォームするといったことも書かれています。

6.総括

本書の第8章と第9章では、第7章までの内容を踏襲して、モメンタム戦略を用いたポートフォリオの構築法などについて書かれています。

ただし、それらは例えば、50の高モメンタム株を均等加重で保有し、四半期ごとにリバランスするなど、個人投資家にとっては、およそ実践的なものではないと言えます。

しかし、本書の内容は、少数の個別銘柄しか保有しないような個人投資家にとっても、利用できるアイデアが複数あったように思います。

それらは特に、今回ここで書いてきた、「12ヵ月のルックバック期間と3ヵ月間の保有」や、「ベータアノマリー」、「季節性アノマリー」になります。

他にも、前回に書いた、モメンタム投資と成長株投資との違いについては、混同していた部分が修正されたのはもちろん、とても示唆に富む内容でした。

本書のタイトルにある[個別銘柄編]というのは内容にそぐわない気もしますが、タイトルの似た『ウォール街のモメンタムウォーカー』にはなかった新しい内容が多かったので良しとすることにします。

なお、『ウォール街のモメンタムウォーカー』についても、2回に分けて以下の記事でレビューしていますので、よろしければご参照ください。

 

 

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