1.本書の概要
ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。
- 勝つ投資 負けない投資
- 著者:片山 晃、小松原 周
- 出版日:2015/5/15
- お役立ち度 :
- 難易度 :
- マニアック度:
- 分類:株式投資、個別株、成長株
まずは、本書の概要からです。
本書は、65万円を25億円にしたという個人投資家の片山氏と、ベンチマークに負けたことがないというファンドマネージャーの小松原氏との共著で、2部構成となっています
なお、本書の章立ては、以下のようになっています。
- はじめに 小松原周
- 序章 投資家になるということ
- 第1部 勝つ投資編 ・・・・・・ 個人投資家 片山晃(五月)
- 第1章 デイトレはそろそろ限界かもしれない
- 第2章 株式投資で勝つための銘柄選別法
- 第3章 買い方、売り方、見分け方のポイント
- 第2部 負けない投資編 ・・・・・・ 機関投資家 小松原周
- 第4章 株式投資のキホン
- 第5章 プロはこうして銘柄を選ぶ
- 第6章 ポートフォリオの組み方と勝つ投資家のメンタル
- あとがき ~投資の魅力とは~ 片山晃 (五月)
2.勝つ投資(片山 晃氏)
第1章で、片山氏は自身の主な手法について、「小型の成長株がその頭角を現し始める初動を捉えて集中的に投資をするというもの」だと書いています。
また、これをやるには、普通の人があまり見ていないような小さな株を常にウォッチしながら、世の中の次のトレンドはなんだろうかということを常に考え続ける必要がありますとのことです。
そのため、「もし僕と同じようなやり方をするのであれば、それなりの時間と情熱を注ぐことを覚悟しなければならないと思います。それも、数年かけて収穫期に入るぐらいの時間感覚が必要です」とも述べられています。
第2章では、投資で最も大事なのは「変化」と「想像力」ということで、業績数値の変化やその要因(新製品の販売好調など)から、1~2年後の未来から見た現在の状況を想像するとあります。
さらに、中小型株に投資する理由として、決算短信の内容に意外性のあることが多いことや、大企業に比べて業績変化率が高いことを挙げています。
続いて、第3章では、売買のポイントとして、「カタリスト」に触れられています。
「カタリスト」というのは、株価を動かす原動力となるイベントや材料のことです。
これに関して、「投資の際はどれだけわかりやすく、他の投資家に刺さるカタリストを提示できるのかということは常に考えておいた方が良いでしょう」と言っています。
そして最後には、次のように書かれています。
ぜひ覚えていただきたいのは、これさえあれば誰でもどんな相場でも勝ち続けられるという普遍的な手法というものは存在しないということです。
様々な考え方を取り込みながら自分のオリジナルというものを確立していってください。
3.理論株価
第4章からは、小松原氏によって書かれています。
まず第4章では、プロの投資家などが重要視する理論株価について簡単に触れられています。
具体的には、DCF(Discount Cash Flow Model)と呼ばれる、企業が実際に稼ぐ現金の予想から1株当たりの理論価値を求める方法になります。
直近5年間の実際のキャッシュフローを割引いたうえで、6年前の価格に直すと、6年前の株価が計算できると言います。
そして、時には理論株価から大きく乖離することがあっても、中長期的に高い確率で理論株価に収れんしていくと書かれています。
また同氏も、上昇余地の限られる大企業に投資するよりも、新しいビジネスを展開して、これから大企業になっていくような会社を見つけるのが投資の醍醐味だと述べいます。
ただ、DCFは、営業CF(またはFCF)の変化が大きい、成長株や景気循環株、現在の自動車産業のような変革期にある銘柄では、機能しづらいのではないかと個人的には思います。
4.銘柄選択のヒント
第5章は、銘柄選択についての内容となっています。
まず、将来に大化けする会社を見つけるためには、世の中の大きな流れ、いわゆる「メガトレンド」を掴むことが大事だとし、その例として「IT革命」と「金融緩和」を挙げています。
続いて、「投資したくなる会社」について、以下の3つに分けて書かれています。
- 社長編
- 組織編
- ビジネス編
「社長編」では、会社の業績が伸びるか伸びないかを決める要素の8割以上は、社長次第といっても過言ではないと言っています。
また、米国のような社長業のプロが少ない、日本企業に関しては、社長と直接ミーティングをしない限り、投資をすることはないとのことです。
投資をする際には、有価証券報告書やホームページなどで、社長がどのような人物かをチェックすることを勧めています。
次に、組織編では、強い組織の条件として、「フェア」(人事評価など)で、「オープン」(風通しが良い)であることを挙げています。
そのため、ワンマン経営者が頂点に君臨しているような企業には、基本的に投資はしないとのことです。
最後のビジネス編では、ビジネスの競争力を分析する手法には、「ファイブフォース分析」など様々なものがあるが、ビジネスの競争力はやはり組織そのものにあると強調されています。
5.財務諸表のチェックポイント
第5章ではさらに、財務諸表のチェックポイントについても簡単に触れられており、次のようなものが挙げられています。
- 売上高、営業利益の伸び率や、営業利益率が改善しているかどうかを確認する。
- 資産の部の棚卸在庫、売掛金が、売上高の伸びよりも低く抑えられているか確認する。
- 負債の部の短期・長期借入金、資本の部の額から、ネットD/Eレシオ [(短期・長期借入金-資産の部の現預金)÷資本の部]を確認する。
なお、最後の「ネットD/Eレシオ」に関しては、以下のように言及されています。
ネットD/Eレシオが大きいほど、財務体質が脆弱であると考えられるので、資本の部の額よりも何倍も大きな(借入金-現預金)を持っている会社は、不景気に弱く、増資などのリスクが高いと考えられます。
6.伸びる会社・伸びない会社
最後に第5章では、伸びる会社と伸びない会社のサインとして、それぞれ5つずつを挙げています。
伸びる会社のサイン
- 収益性が向上している
- サービス系の会社であれば営業利益率(営業利益/売上高)、設備投資の多い製造業の場合はEBITDAマージン(償却前営業利益/売上高)などの指標が上昇している。
- 在庫や売掛金の伸びが売上の伸びより低く抑えられている。
- 経営者がROE(当期純利益/株主資本)の向上を意識している
- 決算説明会の資料などで、ROEの向上を目標に掲げているかどうかをチェックする。
- 収益性の高いところへ投資している
- 伸びる会社は、新規事業やM&A(企業買収)へ投資をする際に、現在の会社の収益性よりも高い収益が見込まれる事業へ投資することに注力しています。
- 多くの人を幸せにしている
- 伸びる会社というのは単純に、その存在意義が人々や社会から支持されています。
- 過大な広告によって消費者を欺いたり、ギャンブルのように誰かを不幸にしなければ成立しないようなビジネスは、結局は長続きしない。
- 直感的に好きになれない会社は、投資対象とする必要はなく、それが正しい選択になるはずである。
- ガバナンスがしっかりしている
- 継続的に高い利益成長を遂げている会社には、社外取締役が多いという特徴がある。
- 創業者が社長と会長を兼務しているような会社はワンマン経営であり、ガバナンスがない。
- 本社を持ち株会社として事業会社を傘下に収める、いわゆるホールディングス体制を取る会社もガバナンスが弱い傾向がある。
伸びない会社のサイン
- 本業と全く関係のない事業を持っている
- 中期経営計画に数値目標が明記されていない
- 自社ビルを建設する
- 本社の受付嬢がやたらと美人
- 社長が業界紙以外のメディアに出始める
7.投資哲学
第6章では、著者の投資哲学について書かれています。
著者は、継続的に成長を続ける会社への長期投資を推奨しています。
本当に株式投資で勝つ時というのは、何年もかけて株価が何倍にもなっているような時だと言うのです。
短期的な相場の乱高下には付き合わず、優秀な会社に長期的な投資をして、配当をもらいながらゆったりとした気持ちで、その会社の利益が成長していく様を眺めていた方が、遥かに効率的だと述べています。
また、著者がポートフォリオを構築する時に一番意識していることは、数学的な分散ではなく、「価値観の分散」だとあります。
会社が何を最も重要視しているかという価値観の例として、次のようなものを挙げています。
- 営業系の会社だと、継続的に利益を成長させるために最も重要なことは「社員の成長」という価値観を持っていたりする。
- 健康飲料を製造販売する会社では、創業者の開発した製品と精神を受け継ぐことを組織の使命としているところもある。
そして最後に、「実際に最適なポートフォリオを構築しようとした時には、外国株式や他の債券、不動産、先物などの資産への投資を考えた方が、良いものができます」ともあります。
特に、米国企業の中には、圧倒的に優秀な経営陣によって継続的に高い成長を遂げているエクセレントカンパニーが多くあると言っています。
8.総括
まず、前半の片山氏のパートについては、自身で、「通り一遍のお話しであれば、一般論の部分も多くなるので、わざわざお伝えする必要はない」と言いながら、結局は一般論に終始しています。
確かに、誰しもが上手くいくような普遍的な手法というのは存在せず、自分なりの手法を確立していく必要があるというのは、まさにその通りです。
しかし、誰でも初めは、何らかの型を真似るところから入るものであり、そういったものをもう少し具体的に解説してもらいたかったというのが本音です。
非常に本質的な内容が書かれてはいるのですが、抽象度が高く、実践に生かすのは容易ではないでしょう。
次に、後半の小松原氏のパートでは、個人投資家がどこまで参考にできるかは分かりませんが、新しい物の見方や考え方が多かったように感じました。
全体として本書は、個人投資家にとって参考になる部分があまり多くはないように思われました。