1.本書の概要
ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。
- 日経新聞マジ読み投資術
- 著者:渡部 清二
- 出版日:2018/12/7
- お役立ち度 :
- 難易度 :
- マニアック度:
- 分類:株式投資、個別株、情報収集
まずは、本書の概要からです。
本書では、「会社四季報」を20年以上にわたり読破し続けている渡部清二氏によって、日経新聞の読み解き方について書かれています。
なお、本書の章立ては、以下のようになっています。
- 第1章:日経新聞はアイデアの宝庫
- 第2章:日経新聞マジ読み術① キーワード(言葉)に注目する→大きな変化・転換点に気づく
- 第3章:日経新聞マジ読み術② データ(数字)に注目する→マーケット規模を知る
- 第4章:日経新聞マジ読み術③ トレンド(方向性)に注目する→景気の方向性を見る
- 第5章:エクイティストーリー構築能力を伸ばす~妄想ストーリーの作り方
2.日経新聞を読むための心構えとポイント
第1章で、日経新聞は当たる・当たらないという観点で読むものではないと書かれています。
重要なのは、日経新聞で得た情報を”有効活用する”という姿勢だと言うのです。
そして、そのために必要な心構えとして、以下のような3つの視点が挙げられています。
- 新聞に「何が書いてあるか」を理解する
- 自分の考えをまとめる
- 反対側の見方を考える
最後の「反対側の見方を考える」ということに関しては、第4章にも「1つの事象でも複数の視点で見ることが重要だ」とあるように、本書全体を通じて説かれているポイントになります。
また、記事を読んでいく際に重要なポイントは「変化をつかむ」「マーケットを把握する」「景気の方向性を見る」ことだと書かれています。
本書ではこの3つのポイントについて、第2章~第4章にわたって実際の記事の例を挙げながら、それぞれ詳しく述べられています。
3.注目したい記事見出しの漢字
第2章では、各記事の見出しに注目して、大きな変化や転換点などを伝えている記事を選別していくということが書かれています。
具体的には、記事の見出しにある、以下のような漢字に注目するということです。
- 年(例:20年ぶりに復刻、2010年以来の快挙 など)
- 初(例:初年度、初期、世界初の取り組み、業界初の出来事 など)
- 最(例:最高、最低、最長、最多、最古、最大 など)
- 新(例:更新、新技術、新たな取り組み など)
- 発(例:発見、発明、発表、日本発 など)
- 転(例:転換、反転、転機、移転 など)
- 脱(例:脱退、脱〇〇 など)
- 改(例:改革、改正 など)
4.景気循環論と覇権循環論
そして、この8つの漢字のうち、「年」と「初」については、経済のサイクルを意識しておくことが大事だとのことで、それについても触れられています。
具体的には、4つの景気循環論と、覇権循環論についてで、それぞれ以下のように説明されています。
キチンサイクル:3~4年周期で一巡するサイクル。背景には小売業などの在庫が関連しているといわれ、在庫の仕入れ量を増やすときに景気が良くなり、減らすときに悪くなる。
ジュグラーサイクル:10年前後で一巡するサイクル。背景には企業の設備投資が関連していると考えられている。機械などの設備は10年ほどで償却されることが多く、入れ替えの際に設備投資が盛んになり、景気が良くなる。入れ替えの時期が終わると償却の時期に入り、景気が停滞していくという流れだ。
クズネッツサイクル:20年前後で一巡するサイクル。クズネッツサイクルは、設備よりもさらに償却期間が長い建設物の需要と連動していると考えられている。つまり、建物の寿命が20年くらいであることから、建て替えの需要が増えるときに景気が良くなり、建て終わってから次の建て替えまでの間に景気が停滞しやすくなるということだ。
コンドラチェフサイクル:50年前後で一巡するサイクル。コンドラチェフサイクルはさまざまな業界における技術革新と関連していると考えられている。わかりやすく言えば、人々の生活を大きく変えるような発明のことであり、例えば、自動車やインターネットなどがその代表的なものといえるだろう。コンドラチェフサイクルをもとに、ざっくりと世界史を振り返ると、1800年前後には蒸気機関が生まれ、1850年前後には鉄道が広がった。1900年ごろには自動車の量産化が進み、1950年前後で原子力が生まれ、2000年前後からインターネットが普及している。
ヘゲモニーサイクル:各種サイクルの中でもっとも長い100年で一巡するサイクル。世界のどの国が強い権力や影響力を持つかによって変わっていくサイクルで、「覇権サイクル」とも呼ばれる。これも世界史との関連が強く、例えば、オランダが強かった時代→イギリスの時代→アメリカの時代などと振り返っていくとおおよそのイメージがつかめるのではないだろうか。
5.景気動向指数から景気の先行きを考える
第4章では、「景気動向指数」を「先行」「一致」「遅行」に分けて見ることが、景気の先行きを考える大きなヒントになると書かれています。
この3つの指数は、それぞれ異なる複数のデータから構成されていますが、それには例えば以下のようなものがあります。
- 先行指数:TOPIX(東証株価指数)、長期国債(10年)新発債流通利回り、日経商品指数(42種)、新設住宅着工床面積、実質機械受注(製造業)、など
- 一致指数:中小企業出荷指数(製造業)、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、所定外労働時間指数、有効求人倍率(除学卒)、など
- 遅行指数:家計消費支出(勤労者世帯)、消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)、法人税収入、など
これらを踏まえた上で、次のように書かれています。
記事を読む際には、その記事が3分類のどこに当てはまるのかをまず考えた方がいい。
また、分類に沿ってデータを仕分けできるようになったら、先行指数に重点を置くと良いだろう。
6.総括
本書では、実際の記事を例に挙げながら、その読み解き方について書かれています。
ただ、株は連想ゲームと言われると本書にもありますが、本書で書かれている連想の内容が漠然とし過ぎていたり、逆にこじつけのように感じる点が多々ありました。
私も日経新聞は毎日読んでいますが、確かに「日経新聞は当たる・当たらないという観点で読むものではない」という点に関しては全く同感です。
一方で、本書の「日経新聞で得た情報を有効活用する」という姿勢より、私は「何か投資のヒントが得られたらいいな」といった程度の姿勢で、日経新聞を読んでいます。
そして、その方が、著者が「おわりに」で書いている「大事なのは自然体で読む、自然体で連想することである」ということにもつながるのではないかと思います。
信頼している著者が、「日経新聞の読み解き方」という難しいテーマについて、どのように書いているのかという期待が大きかったこともありますが、やや期待外れと言えるような内容でした。