ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。
- 2020年以降の業界地図 東京五輪後でもぐんぐん伸びるニッポン企業 (講談社+α新書)
- 著者:田宮 寛之
- 出版日:2018/10/20
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- マニアック度:
- 分類:株式投資、個別株、投資テーマ
1.書籍の概要
まずは、本書の概要からです。
本書のはじめに、「さまざまな投資法があるが、未来を創る優良企業への投資が株式投資の王道だろう」とあるように、本書では色々な観点から、日本の優良企業が列挙されています。
その数は延べ217社と多岐にわたるため、第1章・第2章の「電気自動車関連」と、第3章の「カジノ・越境EC関連」および第4章の「イスラム教関連」とに分けて、それぞれ以下の記事でレビューしてきました。
そして、ここでは最後に、第5章の海外売上高比率の高い企業やM&Aを手掛ける企業、第6章の社会貢献企業について見ていきたいと思います。
なお、本書の章立ては、以下のようになっています。
- 第1章:電気自動車で儲かる企業群【パート1】
- 第2章:電気自動車で儲かる企業群【パート2】
- 第3章:外国人相手に稼ぐ企業
- 第4章:イスラム関連ビジネスで伸びる企業
- 第5章:国内の少子高齢化に勝つ企業
- 第6章:社会貢献企業に投資しよう
2.海外売上高比率の高い企業
本書の第5章の前半では、国内の人口減少や高齢化の影響が少ないといえる、海外売上高比率が高い企業について紹介されています。
また、人口減少は後継者難をもたらし、多くの中小企業を廃業に追い込む可能性があるとのことで、第5章の後半では、中小企業のM&Aを手掛ける企業について書かれています。
まずは、前半の海外売上高比率の高い企業の方から見ていきますが、以下のような企業が取り上げられています。
- 三井海洋開発(6269):、FPSO(浮体式海洋石油・ガス生産設備)などの設計、建造、リース、オペレーションなどを行う日本唯一の企業で、FPSO業界では世界2強のうちの一角。浮体式設備の技術を活かした洋上風力発電にも取り組んでいる。
- ブイ・テクノロジー(7717):液晶ディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイ(OLED)の製造装置や検査装置の開発・設計を手掛けている。製造は外部に委託するファブレス企業。顧客は中国・台湾・韓国のフラットディスプレイ(FPD)メーカーが中心。
- アドバンテスト(6857):半導体を試験する装置を製造するメーカー。メモリ半導体用の試験装置では約50%のシェアを握り世界首位。非メモリ半導体用の試験装置では米テラダインに次ぐ2位。
- マブチモーター(6592):小型精密モーター大手で、車載向けモーターの世界シェアが高く、ミラー用で約85%、ドアロック用で約70%。家電分野ではドライヤー、シェーバー、工具、理美容関連で約40%となっている。
- TOWA(6315)は半導体製造装置を製造している。半導体を外部からの衝撃・高温・高湿度から守るために樹脂で封止するときに使用する、モールディング装置の世界シェアは約50%。さらに、樹脂で封止された半導体基板を高速切断するシンギュレーション装置の製造も手掛けている。
- DMG森精機(6141):世界最大級の工作機械メーカーで、NC旋盤、マシニングセンタを得意とする。
- ディスコ(6146):半導体や電子部品の精密加工装置を製造している。「ダイシングソー」と呼ばれる切断装置の世界シェアは8割、「グラインダー」と呼ばれる研削装置の世界シェアは7割。その他、高輝度LED向け加工装置の世界シェアは10割と圧倒的。
他にも、太陽誘電(6976)やシマノ(7309)、ローランド ディー.ジー.(6789)、シスメックス(6869)、ダブル・スコープ(6619)、ジャムコ(7408)、マキタ(6586)、ワコム(6727)といった企業が挙げられています。
3.中小企業のM&Aを手掛ける企業
続いて、中小企業のM&Aを手掛ける企業についてですが、具体的には以下のような企業が取り上げられています。
- 日本M&Aセンター(2127):中小企業のM&A仲介の最大手。全国の地銀、会計事務所と太いパイプを持ち、事業承継に関連したM&Aを手掛けている。
- M&Aキャピタルパートナーズ(6080):中小企業を主な顧客とするM&A仲介会社。調剤薬局の案件が多いのが特徴だが、小売業から製造業、医療・介護などのサービス業でも実績がある。
- GCA(2174):同社のグループ企業であるGCA FASが事業承継ビジネスに取り組んでいる。同社の事業承継の特徴は東京証券取引所のプロ投資家向け株式市場「TOKYO PRO Market」を活用していることだ。
- 青山財産ネットワークス(8929):1991年に船井総合研究所のグループ会社として設立された。主な顧客対象は東京を中心とした資産家。個人向け財産保全や法人向け事業承継コンサルタント業務を行っている。2016年には日本M&Aセンターと合弁会社を設立した。
他にも、ストライク(6196)やタナベ経営(9644)、山田コンサルティンググループ(4792)、FPG(7148)、ジャパンインベストメントアドバイザー(7172)、フォーバル(8275)といった企業が挙げられています。
4.社会貢献企業
本書の第6章では社会貢献企業が紹介されています。
社会貢献事業への投資としては、世界的にESG投資というものが年々増加しています。
ESG投資というのは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮している企業を選んで行う投資のことです。
例えば、「環境」では二酸化炭素(CO₂)の排出量削減やパーム油の調達状況、「社会」では社会貢献活動や児童労働、「企業統治」では租税回避やコンプライアンスのあり方などが重要なテーマとなります。
そして、東洋経済新報社では、「雇用・人材活用編」と「ESG編」の2冊に分けて、『CSR企業総覧』という情報誌を刊行しており、ここには日本の主要企業1400社の詳細情報が収録されています。
「ESG編」は、環境、社会貢献、企業統治に関する企業情報、「雇用・人材活用編」は、女性活用、障害者雇用、ワーク・ライフバランス支援策など「人」に焦点を当てた企業情報となっています。
これらのうち、第6章の前半では「ESG企業ランキング」の中から、後半では「女性が働きやすい会社ランキング」の中から、それぞれ10社ずつが紹介されています。
5.ESG企業
第6章の前半では、『CSR企業総覧』をもとにした「ESG企業ランキング」のうち、投資妙味という観点から、売上高2000億円未満の企業に絞って、10社が選ばれています。
具体的には、以下のような企業が取り上げられています。
- 日新電機(6641):住友電気工業系の電機メーカーで、変圧器やコンデンサーを製造している。電力会社向けコンデンサーは国内シェアの100%近くを占めている。その他、ビーム・真空応用事業では、半導体やフラットパネルディスプレイ(FPD)製造装置を手掛け、FPD製造用イオン注入装置の世界シェアはほぼ100%。太陽光発電システムや水処理監視制御システムなども手掛けている。
- ヒューリック(3003):都心部で駅に近い中規模のオフィスビルを多数所有しており収益基盤が堅い。近年は商業ビルの開発運営にも熱心に取り組んでいる。また増加する外国人観光客やシニア層の需要を獲得するべく、自社ブランドのホテル運営を行うほか、既存ホテルへの投資や高級温泉旅館の開発・運営を推進している。自社ホテルのブランド名は「ザ・ゲートホテル」。現在稼働中の浅草雷門に加え、今後は銀座、両国、京都にも出店する予定だ。
- ツムラ(4540):医療用漢方薬でシェア8割を超す。一般用医薬品分野の漢方薬分野でも高いシェアを占める。漢方薬市場は医薬品市場の1%強に過ぎないが、国際的に東洋医学や漢方薬を評価する動きがあり、同社にはプラス材料だ。原料生薬の8割強を中国に依存しているので、調達先の多様化が課題。
他にも、タムラ製作所(6768)や富士ソフト(9749)、参天製薬(4536)、IDEC(6652)、アイカ工業(4206)、マンダム(4917)、日本化薬(4272)といった企業が挙げられています。
6.女性が働きやすい企業
第6章の後半では、『CSR企業総覧』をもとにした「女性が働きやすい会社ランキング」のうち、投資妙味という観点から、売上高3000億円未満の企業に絞って、10社が選ばれています。
- NECネッツエスアイ(1973):ICT(情報通信技術)を活用した多様なシステムサービスを提供するNEC系の会社。社会課題を解決する活動としては、グアム島、北マリアナ諸島でのLTEモバイル通信網(4G回線)の構築が挙げられる。安定した通信サービスを提供するために2017年より3年間で同地域に500局近い基地局を設置している。
- パソナグループ(2168):同社は人材派遣業の草分けで業界3位。現在は純粋持株会社で傘下に多数の連結子会社を持つ。一般事務などが主力の登録型派遣に加え、人材紹介や再就職支援、福利厚生代行、事務請負なども展開する。
- ファンケル(4921):無添加化粧品メーカーで、サプリメントや青汁、健康食品なども手掛ける。販売チャネルは通信販売が主力だが、直営店を展開するほか、ドラッグストアでも販売する。
他にも、千葉銀行(8331)や日本ユニシス(8056)、コネクシオ(9422)、ウシオ電機(6925)、カルビー(2229)、ロート製薬(4527)、ディスコ(6146)といった企業が挙げられています。
7.総括
ここでは、第5章と第6章の内容について簡単に見てきました。
第5章の前半では、海外売上高比率が100%や90%台など、非常に高い企業を中心に取り上げられていましたが、これは決して高ければ高いほど良いというものではないでしょう。
ただそうは言っても、海外売上高比率が高いということや、ニッチな分野でも世界的にトップシェアを誇っているということは、その企業が有望な投資先であることを支持する、有力な材料となるのは間違いありません。
また、第5章の後半で取り上げられているように、今後もますます中小企業のM&Aというのは拡大していくでしょう。
そして、第6章の社会貢献企業についてですが、これまで個別銘柄への投資を行う上で、企業の社会貢献活動というものをあまり意識したことがありませんでした。
しかし、第6章を読んでみて、実際の企業の社会貢献活動というものを知り、応援したくなるような企業がいくつもありました。
ただ、少なくとも短期的な視点からは、企業の社会貢献活動が、主に投資家にとっての利益につながってくるとは限りません。
特に企業の社会貢献活動が、その企業の事業と直接的に関係のないものであればあるほど、投資家にとっての懸念は強くなると言えます。
投資家からすれば、余計なことはせずに、事業だけに集中してほしいと思うのが、ごく自然なことだからです。
また、一般に、企業の決算発表や決算見通しなどは高い関心を集めますが、企業の社会貢献活動というのはそれほど注目されません。
とはいえ、企業の不正や不祥事が相次いでいる昨今の状況を鑑みると、社会貢献活動に熱心な企業であれば、不正に手を染める可能性は低いだろうと期待できるのも確かです。
ですから、長期的な観点からすると、社会貢献企業に投資することで、不正や不祥事の発覚によって株価が暴落するようなリスクを低減することができるのではないでしょうか。
- 2020年以降の業界地図 東京五輪後でもぐんぐん伸びるニッポン企業 (講談社+α新書)
- 著者:田宮 寛之
- 出版日:2018/10/20
- 分類:株式投資、個別株、投資テーマ