ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。
- 2020年以降の業界地図 東京五輪後でもぐんぐん伸びるニッポン企業 (講談社+α新書)
- 著者:田宮 寛之
- 出版日:2018/10/20
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- マニアック度:
- 分類:株式投資、個別株、投資テーマ
Contents
1.書籍の概要
まずは、本書の概要からです。
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- 分類:株式投資、個別株、投資テーマ
本書のはじめに、「さまざまな投資法があるが、未来を創る優良企業への投資が株式投資の王道だろう」とあるように、本書では色々な観点から、日本の優良企業が列挙されています。
その数は延べ217社と多岐にわたるため、ここではまず、第1章と第2章の電気自動車関連にだけ絞ってレビューしていきたいと思います。
なお、本書の章立ては、以下のようになっています。
- 第1章:電気自動車で儲かる企業群【パート1】
- 第2章:電気自動車で儲かる企業群【パート2】
- 第3章:外国人相手に稼ぐ企業
- 第4章:イスラム関連ビジネスで伸びる企業
- 第5章:国内の少子高齢化に勝つ企業
- 第6章:社会貢献企業に投資しよう
2.電気自動車関連の概要
自動車産業というのは非常に裾野が広い業界ですが、電気自動車に関して本書では、第1章と第2章で、主に次のような部材等についての代表企業について触れられています。
- 第1章:リチウムイオン二次電池(LIB)、正極材、負極材、セパレーター、電解液、バインダー、電池の性能や危険性の試験、塗工機、定量ポンプ、全固体電池
- 第2章:モーター、モーターコア、磁石、インバーター、コンバーター、パワー半導体、ボディ用新素材、タイヤ、ガラス代替樹脂
まず、第1章の電池に関して、全固体電池というのは新しい技術ですが、現在広く普及しているLIBと比較して、航続距離を長く、充電時間を短くすることができます。
そのため、全固体電池の実用化や量産化によって、現在のLIBで必要となる、セパレーターや電解液が不要となる可能性があるのです。
そこで、第1章の内容に関してここでは、セパレーターや電解液については省略して、全固体電池および、正極材、負極材、バインダーについて、それぞれの代表企業を見ていきたいと思います。
3.全固体電池
全固体電池に関しては、2018年6月には国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、全固体電池の研究開発プロジェクトを立ち上げています。
このプロジェクトには、日本の主要な自動車・電池・材料メーカーなど23社と大学・公的研究機関15法人が参画しています。
それは例えば、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研研究所、パナソニック、東レ、旭化成、三菱ケミカルなどの企業です。
そして、プロジェクト発足の記者会見でNEDOは、「2025年にはEVの半数が全固体電池を搭載するだろう」との見方を示しています。
また、オハラ(5218)は、2020年代初頭に全固体電池を実用化する予定で、日立造船(7004)も、谷所 敬 社長が「販売は2020年以降になるだろう」と言います。
つまり、全固体電池は、そう遠くない将来に実用化されることが予想されるのです。
4.正極材・負極材・バインダー
続いて、主な電池部品である、正極材・負極材・バインダーについてです。
まず、正極材の世界トップメーカーは住友金属鉱山(5713)で、同社はニッケルを材料とする正極材を製造し、パナソニックとプライムアースEVエナジー(トヨタとパナソニックの合弁会社)へ出荷しています。
また、三井金属(5706)は、正極材分野では国内2位、世界シェアでも上位に入ります。
そして、正極材に用いられるニッケルなどレアメタルの確保にあたっては総合商社が活躍しており、商社の中で最も積極的に活動しているのが豊田通商(8015)です。
次に、負極材については、黒鉛が用いられることが多く、日立グループ御三家の一角、日立化成(4217)が世界トップクラスの売り上げを誇っています。
また、総合化学メーカーの昭和電工(4004)も負極材市場で高いシェアを占めています。
最後に、バインダーについてです。
バインダーというのは、正極・負極材を電極上に結着するための接着剤のことで、電極構造を維持する機能を担っています。
クレハ(4023)は正極に使用されるバインダーで世界シェアは50%を超えています。
負極用バインダーで世界シェアトップは、古河系の化学メーカーで合成ゴム大手の日本ゼオン(4205)です。
5.モーター、モーターコア、磁石
冒頭にも書いたように、次の第2章では、モーター、モーターコア、磁石、インバーター、コンバーター、パワー半導体、ボディ用新素材、タイヤ、ガラス代替樹脂などを製造する企業について書かれています。
まず、モーターについては、東洋電機製造(6505)と日本精工(6471)が次世代の自動車駆動技術であるインホイールモーター方式の開発・研究を進めています。
インホイールモーターとは、各タイヤの内側に搭載されて、タイヤを直接駆動するもので、これにより走行が安定したり、航続距離の延長が期待できるとのことです。
他にも、安川電機(6506)が中国で奇端汽車と合弁会社を設立して、2018年からEV用モーターやインバーターを生産していたり、日本電産(6594)が駆動用モーター市場に本格的に参入したりしています。
次に、モーターの効率を左右するモーターの中核部品である、モーターコアのトップメーカーは三井ハイテック(6966)になります。
そして、日産自動車とホンダが主要納入先の大同特殊鋼(5471)は、ネオジム磁石事業に力を入れています。
また、トヨタ自動車(7203)は2018年、ネオジムの使用量を抑えたネオジム磁石の開発に成功し製品化に向けた研究を進めており、日立金属(5486)もネオジム磁石の生産能力増強を急いでいます。
6.インバーター、コンバーター、パワー半導体
インバーターは、直流電流を交流電流に変換する部品で、コンバーターは、逆に交流電流を直流電流に変換する部品になります。
インバーターでは、三菱電機(6503)や明電舎(6508)が、コンバーターでは、デンソー(6902)やニチコン(6996)が代表企業となっています。
続いて、パワー半導体というのは、高電圧、大電流を扱うことが出来る半導体のことで、通常の半導体とは違った構造を持ちます。
パワー半導体で日本シェアトップは三菱電機(6503)で、他にも、古河電気工業(5801)や富士電機(6504)、ローム(6963)、タムラ製作所(6768)、AGC(5201)が挙げられています。
7.ボディ用新素材、タイヤ、ガラス代替樹脂
自動車のボディ用素材となる炭素繊維では、日本勢が圧倒的に強く、東レ(3402)、三菱ケミカルホールディングス(4188)、帝人(3401)の3社で世界シェアの6割強を占めています。
そして、炭素繊維の次なる素材として、セルロースナノファイバー(CNF)や炭化ケイ素繊維が、炭素繊維以外の素材として、アルミニウムやハイテン(高張力鋼板)が挙げられています。
- CNF関連:日本製紙(3863)、中越パルプ工業(3877)、王子ホールディングス(3861)、大王製紙(3880)、第一工業製薬(4461)、星光PMC(4963)
- アルミニウム関連:UACJ(5741)、日本軽金属ホールディングス(5703)
- ハイテン(高張力鋼板)関連:新日鐵住金(5401)(2019年4月、日本製鉄に社名変更)、ジェイ エフ イー ホールディングス(5411)、神戸製鋼所(5406)
- 炭化ケイ素繊維関連:世界で製造できるのは、日本カーボン(5302)と宇部興産(4208)の2社だけ
次に、タイヤメーカーとしては、世界首位のブリヂストン(5108)や、2017年9月に「パンクの心配がなく、エアーの充填も必要ないタイヤを開発した」と発表した、東洋ゴム工業(5105)(2019年1月に「TOYO TIRE」に社名変更)が代表企業です。
また、低燃費タイヤの原料となる「溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR)」関連としては、旭化成(3407)やJSR(4185)、2016年に日本ゼオンと住友化学のS-SBR事業を統合してできた会社である、ZSエラストマー(非上場)が挙げられています。
続いて、ガラス代替樹脂として、帝人(3401)が製造するポリカーボネート(PC)樹脂や住友化学(4005)のポリメタクリル酸メチル(PMMA)についても書かれています。
8.総括
ここでは、第1章と第2章に書かれていた全ての企業を取り上げられたわけではありませんが、それでもかなりの企業がありました。
そして、こうしたEV関連企業への投資で難しい点というのは、いくつかあると思われます。
まず、たとえ優れた商品を開発したとしても、それが主流になるとは限らない点です。
品質や性能が劣っていたとしても、割安であったり、あるいはその分野で既に先行している企業の商品が広く採用されるということがあり得るためです。
ですから、車載電池でいえば、リチウムイオン二次電池(LIB)の需要が大きく増加している中で、全固体電池がどこまで広がっていくのかは未だ不透明です。
また、ボディ用素材にしても、炭化ケイ素繊維はまだまだ高いので需要が一部に限られるはするものの、炭素繊維、CNF、アルミ、ハイテンに関しては、いずれの採用が大きく広がっていくのかもはっきりと見通すことはできません。
とはいえ、どこか1つの自動車メーカーや部品企業が、世界中の需要の多くを占めるという可能性は低いでしょう。
大きな技術革新が起きつつある自動車産業においては、複数の自動車メーカーや部品企業、さらにはIT企業などがグループをなして、三つ巴のような状況になっていくのではないでしょうか。
さらに最近では、人工知能(AI)技術を利用して材料開発を行う、マテリアルズインフォマティクス(MI)というものが世界で広がりつつあります。
これにより、新たな電池材料やボディ用の新素材が発見され、技術が飛躍的に進歩するブレイクスルーが起きる可能性も十分にあるのです。
つまり、ベンチャー企業が突如として、大手の一角に食い込んでくることもあり得るわけです。
あるいは、そうしたベンチャー企業が次々と、大手に買収されていくこともあるでしょう。
以上のように、現在は大きな時代の変革期にあって、先を見通すことがますます困難な状況だといえます。
そうなると、ありきたりですが、やはり有望な複数の企業に分散投資をするのが良さそうだという結論に落ち着いてしまいます。
そして、分散投資の対象を少しでも絞るうえでは、本書の内容がきっと役に立つはずです。
- 2020年以降の業界地図 東京五輪後でもぐんぐん伸びるニッポン企業 (講談社+α新書)
- 著者:田宮 寛之
- 出版日:2018/10/20
- 分類:株式投資、個別株、投資テーマ