読書録・書評

【読書録・書評】『運、タイミング、テクニックに頼らない! 最強のファンダメンタル株式投資法』

ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。

1.書籍の概要

まずは、本書の概要からです。

本書では、株式投資におけるファンダメンタル分析で必須となってくる財務諸表の読み方や、その具体的な投資への活かし方について、実際の例などをもとに分かりやすく書かれています。

なお、著者の具体的な手法というのは、以下の記事で紹介した前著にもあるように、「優待面」「資産面」「収益面」の3つの観点から総合的に考えて割安と思われ、さらにカタリスト(材料)が存在しそうな株を購入するといったものになります。

また、本書の章立ては、以下のようになっています。

  • 第1章:意外と知られていない株主優待の本当の実力
  • 第2章:資産株で狙うのはカタリストの「まちぶせ買い」
  • 第3章:成長株の発掘こそ株式投資の醍醐味だ
  • 第4章:ROEと配当利回りと株価の関係
  • 第5章:資本政策のまとめ これが全パターン
  • 第6章:「のれん」「会計方針の変更」 特殊要因を学ぶ
  • 第7章:キャッシュフローでわかる企業の向かう道
  • 最終章:勝てる投資家に共通するもの 「知識」と「経験」、最後は「メンタル」

ここでは、本書の中で気になった部分や参考になった部分について、一部を抜粋しながらレビューしていきたいと思います。

2.株主優待株のメリット

第1章では、株主優待のメリットとして、「投資全体の利回りを高めることができる」などといったことが挙げられ、次のようにも書かれています。

個人投資家の多い小型株で、かつ使いやすい優待内容であれば、優待(+配当)利回りで3~5%程度になるまで人気度が高まってもおかしくないと常に考えています。

ちなみに、優待の実質価値を推定することは、概ねオークションの落札価格を調べることでできます。

もちろん、優待の改悪や廃止のリスクは常にあるため、業績の悪化には注意が必要となります。

3.貸借対照表の読み方

第2章は、「資産株+カタリスト(材料)」といった観点からで、貸借対照表についての内容となっています。

ここでは、大まかにいってPBR(株価純資産倍率)が1倍未満の資産株への投資を考える際には、株価上昇につながるカタリストの発生可能性を検討することが重要になると書かれています。

カタリストというのは具体的には、上位市場への昇格やM&A、増配や自社株買いなどのことを指します。

そして、カタリストが起こる可能性が高いのは成熟業界でキャッシュリッチな割安企業といえます。

現預金や有価証券などの換金性の高い資産、つまり余剰資金を多額に持つ会社の場合、経営の選択肢が多くなり、カタリストが発生する可能性が高くなるのです。

なお、この「余剰資金」というのは、「利益剰余金(内部留保)」とは異なるものです。

利益剰余金というのは、毎年の純利益から配当金を差し引いて残った金額が蓄積されたもので、そこから企業の設備投資などに使われていきます。

ですから、利益剰余金を見るだけでは、その企業がどの程度現金に余裕があるのかはほとんど分からないのです。

また、余剰資金が多かったとしても、有利子負債が多くては「キャッシュリッチ」とはいえないので注意が必要です。

4.企業のライフサイクル

第3章は、成長株の発掘や、損益計算書の読み方に関する内容となっています。

本章では、成長株を発掘する際には、企業のライフサイクルという考え方が役に立つと書かれています。

このライフサイクルというのは、企業の売上・利益の成長を、導入期、成長期、成熟期、衰退期に分けて考える方法です。

もちろん、必ず当てはまるというわけではありませんが、参考にはなりますので簡単に見ていきたいと思います。

まず、導入期から成長期の初期では、先行投資される費用の割合が大きく、売上の伸びに比べて、利益の伸びが抑制される傾向があり、株価としては、まだ知名度がないため割安放置になることが多くなります。

続いて成長期に入ると、売上とともに利益が伸びていき、株価も大きく上昇していきます。

その後、成熟期に入り安定的な業績になると、成長の限界が意識され、株価も伸び悩んできます。

そして、減益が目立つようになり衰退期になると、PERよりもPBRや配当利回りで株価が評価される段階に入るといった傾向があるのです。

5.ROEと配当利回り

第4章は、ROEと配当利回りについての内容となっています。

まずはROEに関してですが、ROEは純利益/純資産で求められます。(※正確には、純資産ではなく自己資本(純資産-非支配持分-新株予約権))

つまり、ROEというのは株価とは切り離された指標なのです。

また、増益だけで高いROEを維持するのは非常に大変なことですが、配当や自社株買いを増やすことでも、分母の純資産を減少させてROEを改善することができます。

そして、現時点でROEが高い企業というよりは、今後配当や自社株買いでROEが改善する可能性が高い企業を、有望な投資対象として考える必要があるといえます。

次に、配当利回りに関しては、現時点の高配当株よりも未来の高配当株を意識して投資した方がうまくいくのではないかと書かれています。

これは、先に出てきた企業のライフサイクルでいうと、導入期は配当よりも利益成長重視であり、成長期から成熟期で配当が上がっていき、衰退期では安定高配当となる傾向があるためです。

つまり、高配当の企業では、利益の成長やそれに伴う増配の余地が乏しい傾向があるのです。

なお、本章では高配当に関連するものとして、REIT(不動産投資信託)についても触れられています。

REITの分配金利回りが高いのは、利益のほぼ100%を分配金に回しているためですが、これは裏を返せば、内部留保ができず成長のための資金が確保できないことを意味しています。

そのため、REITにおいても、将来にわたる大きな分配金の伸びというのは、あまり期待できないでしょう。

6.企業の資本政策

第5章は、自己株式関連の取引や、立会外分売・売出・増資などといった資本政策についての内容となっています。

この自己株式関連の影響のまとめとしては、次のような表が載せられており、これらのそれぞれについて解説がされています。

  企業が保有する現金に対して 企業のEPS(株主価値)に対して 市場の需給(株価)に対して
①自己株式の取得 マイナス プラス プラス
②自己株式の処分(売出) プラス マイナス マイナス
③自己株式の消却 変化なし 変化なし 変化なし ※将来②が発生するリスクが消えるため実質プラス
④立会外取引による自己株式の取得(自己株式のTOBを含む) マイナス プラス 変化なし
⑤第三者割当による自己株式の処分 プラス マイナス 変化なし

⑤は、業務提携などとセットで発表されることが多く、業務提携面でのプラスが大きければ差引きプラスで株価が上がるということもよくあるようです。

また、増資関連などその他の場合についても、次のような例が挙げられています。

  企業が保有する現金に対して 企業のEPS(株主価値)に対して 市場の需給(株価)に対して
⑥公募増資 プラス マイナス マイナス
⑦第三者割当増資 プラス マイナス 影響なし
⑧株式分割 影響なし 実質影響なし プラス
⑨立会外分売 影響なし 影響なし マイナス
⑩売出 影響なし 影響なし 大きくマイナス

⑥の公募増資が発表された場合、発表直後には希薄化の影響で株価が下がる傾向がありますが、その資金を使って企業が大きく利益成長できると判断するのであれば買いという判断もあります。

⑦の第三者割当増資では、通常は新たに大株主になる第三者と業務提携等を行うなどのプラス材料と一緒に発表されることが多いため、希薄化のマイナスを打ち消して株価が上がることも多くあります。

⑨の立会外分売や⑩の売出は、基本的には大株主が広く個人投資家に持ち株を売却するもので、放出する株の規模の小さなものが立会外分売、規模の大きなものが売出であり、これらは、東証1部昇格のためのサインとなることもあります。

7.会計の特殊要因

第6章は、「会計基準の変更」や「会計方針の変更」といった特殊要因についての内容となっています。

「会計基準の変更」に関しては、日本の会計基準からIFRS(いわゆる国際会計基準)への移行で処理の仕方が変わってくる「のれん」などについて書かれています。

「のれん」というのは、他の企業を買収したときに生じるもので、相手先の純資産に対する買収金額の上乗せ分の金額のことを指します。

この「のれん」について、日本基準では、毎期少しずつ費用計上されますが、IFRSでは費用計上せず、買収先の企業に価値がなくなった(利益を生まなくなった)ときに一気に費用計上されるのです。

そのため、IFRSでは日本基準と比較して、毎期の見かけの利益は大きくなりますが、将来の多額の減損損失の計上リスクが残ることになります。

また、日本基準で減損損失が計上される特別損失という項目がIFRSではないため、IFRSでは営業利益が減少することになります。

次に、「会計方針の変更」の例として、有形固定資産の減価償却方法を、定率法から定額法に変更することなどが挙げられています。

定率法と定額法を比較すると、特に初期の減価償却費は定額法の方が小さくなります。

そのため、特に先行投資の多い企業は、定率法から定額法へ変更すると初期に費用計上される金額が先送りされるため、目先の利益が増加する効果が得られるのです。

したがって、例えば成長率を良く見せたい企業が、何かしらの理由をつけてこの定額法への変更を選択するようなケースには注意が必要となります。

8.キャッシュフロー計算書の読み方

第7章は、キャッシュフロー計算書についての内容となっています。

キャッシュフロー計算書は、営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローに区分して表示されます。

本業で稼げていないと、営業キャッシュフローはマイナスとなりますが、不動産販売業やリース業などではそのビジネスモデルの特性として、営業キャッシュフローがマイナスになりやすいといえます。

これは、最初に仕入れで多額の資金が必要となり、売上で回収していくまでのタイムラグがあるためです。

次に、投資キャッシュフローというのは、企業が設備投資など、将来への投資にどれくらい現金を使っているかを表したものであり、マイナスになるのが通常です。

この投資キャッシュフローについては、「設備投資」と「余剰資金の運用」の2つの内訳に分解して考えられています。

そして、設備投資に使用している部分こそが本業を成長させるために使用しているキャッシュであると考えた方がよいと書かれています。

最後の財務キャッシュフローというのは、どのように資金が調達され、返済されたかを表しています。

この財務キャッシュフローで最も重要なポイントは、有利子負債(短期借入金、長期借入金、社債など)がどの程度増減しているかになります。

9.総括

最終章は、投資の心構えといったような内容となっており、株式投資においては本質を追求することが大事だが、正解は人により変わるものだと書かれています。

そして、日々考え続ける習慣をつけることが大事であると締め括られています。

さて本書では、ファンダメンタル分析で必須となってくる財務諸表の読み方や、その投資への活かし方について実例をもとにして書かれていました。

この財務諸表の読み方や投資への活かし方に関しても、やはり何か明らかな正解があるというものではありません。

全く同じ情報に触れていたとしても、個々人の知識や経験などの違いから、投資家によってそれぞれ異なる解釈がなされるような類のものでしょう。

ただ、そうした中でも自分なりの仮説を立て、経過を追っていくことで検証し、少しずつ財務諸表を読み解く能力を高めていくことが大事になってきます。

とはいえ、こうしたことが出来るのはごく一部の人たちだけでしょう。

しかし何事も、多くの人たちがやらないようなことを地道に継続することによって、やがて大きな成果を得ることができるのではないかと思われます。

そして本書からは、そういったことを体現している筆者の姿勢というのも読んでいて伝わってきます。

そういった意味で本書は、その示唆に富んだ内容はもちろんですが、著者の株式投資に対する姿勢というのも大いに参考になる一冊だと言えます。

 

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