ここでは、WTI原油先物のCFTC建玉明細から、原油価格について考えていきたいと思います。
1.原油価格の指標
原油価格というのは、世界の原油先物市場での取引価格が基準となっているのですが、この原油先物市場には複数のものが存在します。
例えば、北米ではニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)でWTI原油先物が、欧州ではロンドン国際石油取引所(ICE)で北海ブレント原油先物が取引されており、これらが原油価格の代表的な指標となっているのです。
また、東京商品取引所(TOCOM)で取引される中東産原油(ドバイ原油)価格も代表的な指標の一つとなっています。
そして、このうちWTI原油の先物価格が、国際的な原油価格の指標として一般的に用いられています。
このWTI原油というのは、ウエスト・テキサス・インターミディエイトの略で、米テキサス州やニューメキシコ州で産出される原油のことになります。
WTI原油は、その産出量は世界全体の産出量の数%程度と少ないのですが、先物市場での取引量は世界最大となっているのです。
そのため、単に原油価格といった場合には、WTI原油の先物価格を指すことが多く、ここでもそのWTI原油の先物価格について見ていくこととします。
2.CFTC建玉明細とは?
WTI原油を含む、米国の先物市場では、大口トレーダーの建玉明細が、米商品先物取引委員会(CFTC:Commodity Futures Trading Commission)より公表され、これをCFTC建玉明細(COT(Commitments of Traders)Report)といいます。
このCFTC建玉明細では、毎週金曜日の取引終了後に、その週の火曜日時点のものが発表されています。
また、CFTC建玉明細には、原油の他にも、小麦や大豆等の穀物や、金やプラチナ等の貴金属、日経平均やNYダウ等の株価指数、ユーロや円等の為替などと、非常に様々な金融商品先物のデータがあります。
そして、CFTC建玉明細では各金融商品先物について、投機筋(Non-Commercial)と実需筋(Commercial)などに分類され、それらについてそれぞれ買い建玉、売り建玉の枚数が載っているのです。
これらのうち、投機筋の買い建玉から売り建玉を差し引いた、ネットポジションが市場で特に注目されるものとなります。
3.WTI原油のCFTC建玉明細(投機筋)
それでは早速、WTI原油に関して、投機筋のネットポジションと先物価格とを比較していきます。
以下の図は、その1992年10月以降の推移を示したものです。
この図から、WTI原油の先物価格と投機筋のネットポジションとの間には相関が認められることが分かります(相関係数:約0.49)。
ただ、ここ1年程に関して言えば、投機筋のネットポジションが大きく増加した割に、原油価格の方は大して上昇していません。
4.WTI原油のCFTC建玉明細(実需筋)
そこで、投機筋と同様に、実需筋のネットポジションの推移についても見てみます。
WTI原油先物価格と実需筋ネットポジションの1992年10月以降の推移を示したのが以下の図です。(見やすいように、実需筋ネットポジションのスケールは反転してあります。)
この図における、WTI原油先物価格と実需筋ネットポジションとの相関係数は約-0.49となっていました。
つまり、先ほどの投機筋ネットポジションと実需筋ネットポジションとは全くの逆相関の関係にあることが分かります。
直近の1年程で言えば、投機筋の大きな買い越し額と同程度に、実需筋が大きく売り越していたのです。
5.WTI原油のCFTC建玉明細(投機筋+実需筋)
そこでさらに、投機筋ネットポジションと実需筋ネットポジションを合計したものの推移を、WTI原油先物価格と比較してみることにしますが、それを示したのが以下の図です。
すると、投機筋と実需筋のネットポジションを合計したものは、WTI原油先物価格とほとんど相関を認めませんでした(相関係数:-0.24)。
以上のことから、CFTC建玉明細は少なくとも原油価格に関しては、あくまで参考程度のものに過ぎないといえそうです。
ですから、原油に関しては、CFTC建玉明細に反映される大口トレーダー以外の市場参加者による影響というのが大きいのかもしれません。
そして、原油価格については違った角度からも見ていく必要があると思われますので、よろしければ以下の記事もご参照ください。