1.ギャンブラーの誤謬と大数の法則
今回は、行動経済学に出てくる心理的バイアスの一つである、ギャンブラーの誤謬について書いていきます。
ギャンブラーの誤謬とは、自身の主観などから、確率論的に誤った判断をしてしまうことをいいます。
これについては具体的な例を挙げた方が分かりやすいので、コイン投げを例にして見ていきたいと思います。
まず、表と裏の出る確率がそれぞれ50%ずつのコインを想定し、このコインを投げて仮に5回連続で表が出たとします。
すると、そろそろ次は裏が出るだろうと思ってしまいがちですが、実際には次に裏が出る確率というのは50%のままで変わることはありません。
このように主観に左右されて、客観的な確率を見誤ってしまうことを、ギャンブラーの誤謬というわけです。
これは、過去の結果に影響されてしまうという点では、意識することで結果に違いが出る! アンカリング効果とは?のところで書いた、アンカリング効果とも似ているようにも思えます。
しかし、ギャンブラーの誤謬では、毎回の事象は客観的な確率が把握できるものであり、なおかつそれぞれの事象が独立したものであるという違いがあります。
そして、少ない試行回数では、コイン投げにしても、サイコロ投げにしてもそうですが、結果に大きな偏りが出てしまうというのはよくあることです。
その少ない試行回数における偏った結果から結論を導き出してしまうのが、ギャンブラーの誤謬というわけなのです。
ただ、試行回数を大きく増やしていくことで、ある事象の起こる確率は次第に理論的確率に近づいていきます。
これは統計学の法則で、「大数の法則」と言われます。
コイン投げの例でいうと、試行回数を大きくしていくにつれて、表の出る確率が50%に近づいていくということになります。
そして、この大数の法則を意識することで、ギャンブラーの誤謬の罠に陥ってしまうことを防ぐことができると言えます。
あとは、このギャンブラーの誤謬を投資にどう生かすのかが重要なところです。
確かに、チャート分析に基づいたテクニカル手法を用いたトレードなどでは、確率的思考が重要になってくるので、このギャンブラーの誤謬の考え方も当然大事なものとなってきます。
しかし、その他の投資手法においてはそもそも客観的な確率を把握することには限界があるというケースの方が多いかと思います。
ですから、ギャンブラーの誤謬を投資に適用するのには限界があるケースの方が多いというのが実際のところかもしれません。
2.ギャンブラーの誤謬の誤謬
ギャンブラーの誤謬を回避するには、大数の法則を意識することが大事と書きました。
そして、大数の法則というと何か絶対的なもののように思えるかもしれません。
しかし、大数の法則を適用するのに注意が必要な場合もあるのです。
例えば、先ほどとは全く別のコインを用いて、コイン投げを1000回行った結果、表が990回出たとします。
これだけ十分な数を投げて、結果にこれだけの偏りが生じるということは、絶対にないわけではありませんが、かなり低い確率となるはずです。
そうなると、このコインには表が出やすいような何らかの細工が施されていると考えた方が自然ですし、そういった場合も十分にあり得ます。
このように、大数の法則を過度に信用してしまうことで、確率が偏る原因となる前提条件などを見誤ってしまうことを、「ギャンブラーの誤謬の誤謬」といいます。
そして、投資においてはギャンブラーの誤謬よりも、このギャンブラーの誤謬の誤謬の方が関係してくるといえるかもしれません。
というのも、投資では客観的な確率を測ることが困難な場合が多く、またそれぞれの値動きが完全に独立した事象であるとも言い切れないためです。
値動きが完全に独立した事象であるとは言い切れないというのは、私たちがチャートを見て、直近の高値や安値を参考にしながら売買の判断を下すことからも明らかです。
つまり、相場は多かれ少なかれ、過去の値動きの影響を受けて動いていくような性質があるということです。
厳密には、このギャンブラーの誤謬の誤謬が直接的に投資に関係してくるというよりは、前提条件の変化に注意が必要だという概念を、投資をする上では念頭に置いておく必要があるということです。
それは例えば、ある企業の業績が悪化して、株価が売りが売りを呼ぶ展開となって大きく下がった場合というのを考えてみます。
普通であれば、業績の悪化は一時的なもので、時間はかかっても業績や株価が回復していくことが期待されます。
しかし、実はその企業が不祥事を隠ぺいしていたりした場合には、業績や株価の低迷は長期にわたり、最悪の場合には倒産といったことも考えられます。
このように、投資においてはギャンブラーの誤謬の誤謬でいうところの、前提条件の変化に気を付ける必要があるということなのです。