相場のデータ・指標

米国債の長短金利差はバブル崩壊を予言するか?

1.米国債とイールド・カーブ

米国債とは、米国財務省が発行する債券のことで、国家の信用をもとに国債が発行され、国債を購入した投資家に対して国が借金をするようなものになります。

米国債は、発行されてから満期までの償還期間が1ヵ月や3ヵ月などの短期国債、5年や7年などの中期国債、10年や20年などの長期国債に大まかに分類されます。

一般に、償還期間が長くなるほど金利(国債利回り)は高くなります。

そのため、縦軸を金利、横軸を期間としたイールド・カーブと呼ばれる利回り曲線(金利曲線)は、右上がりの曲線となるのが一般的です。

例えば、米国債の直近7月31日のイールド・カーブは以下のように右上がりの曲線となっています。

2.短期金利および長期金利の変動要因

このイールド・カーブは、その時々の金融・経済情勢を反映して様々な形状となりますが、短期金利が長期金利を上回ることもあります。

それは、短期金利と長期金利では金利の変動する要因に違いが見られることによります。

具体的には、まず短期金利の方は、中央銀行の金融政策によって決められる政策金利の影響を強く受けることになります。

政策金利は、景気が良いときには景気の過熱やインフレを抑制するために引き上げられ、景気が悪いときには景気回復を促すために引き下げられます。

一方、長期金利は経済や景気の見通しや、将来の物価変動予測の影響を強く受けます。

経済の見通しが明るかったり景気回復期待が高まれば長期金利は上昇し、経済の先行きが悲観的であったり景気後退懸念が強まれば長期金利は低下するのです。

3.米国債利回り差とNYダウ

そして、米国において長期金利と短期金利の金利差を見てみると、興味深いことが見えてきます。なお、長期金利には米国10年債利回りを用い、短期金利には米国2年債利回りを用いています。

※通常、短期金利とは期間が1年未満の金融資産や負債の金利のことをいいますが、ここでは便宜上2年債利回りを短期金利として扱っています。

下図は、約40年間の米国債利回り差(10年債利回り‐2年債利回り)とNYダウとを示した図になりますが、1990年代後半より両者の相関性が高くなっているのが分かります。

また、上図において相関性の高くなっている1990年代後半以降を示したのが下図になります。

この図をみると、2001年前後のITバブル崩壊や、2008年のリーマン・ショックの前に米国債利回り差が0%以下と、2年債利回りの方が10年債利回りよりも高い状態で推移する逆イールドと呼ばれる状態になっていることが分かります。

4.イールド・カーブのフラット化に要注意!

さて、米国では最近もまた利上げがありました。

FRB(米連邦準備理事会)は、平成29年6月14日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、FF金利を0.75~1.00%から1.00~1.25%へと0.25%の利上げを行ったのです。

FF金利(フェデラル・ファンド金利)とは、米国の政策金利のことで、中央銀行が短期の金融市場を操作する目的でこのFF金利を調整します。

そして、今後もさらなる利上げが見込まれています。

一方で、長期金利はトランプ政権の混迷からかやや低下傾向となっています。

こうしたことを受けて、直近では米国債利回り差が0に近づきつつあります。

これは冒頭に書いたイールド・カーブにおいて、長短金利差が縮小して曲線の傾きが小さくなることから、イールド・カーブのフラット化と言われたりもします。

今後、イールド・カーブがさらにフラット化して、米国債の長短金利差が0以下で推移するようになったら注意が必要であるといえます。

もちろん、長短金利差が0となる前にNYダウが暴落するような事態も十分あり得るため、そのことは常に念頭に置いておきましょう。

また、相場の過熱度合いを判断するのに参考となるような指標は他にもいくつかあるため、それらも併せて判断していくのが望ましいといえますが、それらの指標については今後書いていきますので参考にしていただければと思います。

 

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