1.ランダムウォーク理論の確からしさ
効率的市場仮説と行動ファイナンス理論のところで、効率的市場仮説のもとでは市場はランダムに動くこととなり、市場の先行きを予測することは不可能であるという、ランダムウォーク理論について少し触れました。
ここでは、このランダムウォーク理論についてもう少し掘り下げて考えていきたいと思います。
まず試しに、株式市場や為替相場などのチャートを見てみると、本当に市場はランダムに動いているのだろうかという疑問を持たれるのではないでしょうか。
それは、チャートの中に何かしらのトレンド(傾向)やパターン(繰り返す形)を見出すことができるからです。
例えば、きれいな右肩上がりの曲線を描いていたり、あるいはある一定の範囲内で上下動を繰り返していたり、などといった具合です。
そういった、チャートの中に認められるトレンドやパターンを見ると、市場の値動きがランダムなものであるとはとても思えないかもしれません。
そこで、試しにコンピューターでエクセルなどの表計算ソフトを用いて、ランダムな値を生成し、人工的なチャートを作ってみます。
すると、そこには私たちが普段見ているのと何ら変わりのないようなチャートが描かれることが分かります。
もちろん、そこには何らかのトレンドやパターンを見出すこともできます。
これに関連してですが、経済学の用語でユール・スルツキー効果と呼ばれるものがあります。
このユール・スルツキー効果とは、ランダムに変動するデータであっても、移動平均などの統計学的な操作を行うと、そこに周期性が現れることがあるというものです。
こういった用語があることからも、たとえ統計学的な操作を行わなくても、人にはランダムな動きの中に、何らかの法則性や規則性を見出す傾向があるということが連想されます。
以上のことから、そこに何らかの規則性が見い出せたからといって、そのデータの集まりがランダムなものでないとは言い切れないことになります。
ですから、実際の市場の動きに関しても、それがランダムなものであるかどうかを判断するというのはほとんど不可能なことなのです。
つまり、実際の市場はほとんどランダムな動きをしているといっても差し支えなく、そうであるならばランダムともいえる市場を正確に予測するというのはやはり不可能ということになります。
2.投資家は市場平均を超えられない!?
それでは、効率的市場仮説でいわれるように、投資家が市場平均を超える収益を上げることも不可能ということになってしまうのでしょうか?
バートン・マルキールの著書、「ウォール街のランダム・ウォーカー」には、サルのダーツ投げによる銘柄選定と、運用のプロであるファンドマネージャーの運用では大差なかったということが書かれています。
このサルのダーツ投げというのは例え話ではありますが、ランダムに選ばれた銘柄と、ファンドマネージャーが選んだ銘柄とで、パフォーマンスにほとんど差が認められなかったということです。
しかし一方で、ウォーレン・バフェットやジョージ・ソロスらのように、継続的に並外れた収益を上げている超一流の投資家が存在するのも事実です。
また、世の中には彼らほどではなくても、好成績を上げている投資家が数多く存在します。
もちろん、その中にはただの強運の持ち主も含まれているはずです。
3.ただの運に過ぎないか?
この運か実力かということについて、例えばじゃんけん大会のような単純なものであれば、運の要素がほとんどだと言えるでしょう。
仮に、日本国民1億人全員でトーナメント形式のじゃんけん大会を行ったとすると、当然ですがその中で誰か1人が優勝することになります。
じゃんけん大会であれば、この優勝者が何か特別な戦略や手法を持っていたわけではなく、単に強運の持ち主であっただけだと多くの人が思うことでしょう。
しかし、ただのじゃんけんではあっても、1億人の中を勝ち抜くというのは相当なことであり、この優勝者もその優勝の理由として、じゃんけんの必勝法なるものを語るかもしれません。
それでも、じゃんけんであれば、その必勝法を信じる人は少ないのでしょうが、投資においてもこれと似たようなことが起こり得るのです。
何年にもわたって素晴らしい成績を上げているような投資家が、本を書いたりして自身の優れた戦略や手法を公開することがよくあります。
ただその中には、投資家自身が優れた戦略だと思って実行していて、実際にしばらくは良い成績を上げていても、実はその戦略にあった欠陥が運よく表面化していなかっただけであったというものが、少なからず含まれているのです。
4.運か実力かを見極めるのは困難
そして、投資においては、その好成績が実力によるものなのか、あるいは運によるものなのかを見分けることは極めて困難です。
ある程度は、知識や経験から両者を判別することができますが、それだけでは困難な場合が多々あります。
その戦略が本当に有効なものであるかどうかを判断するには、2~3年といった期間では不十分であり、10~20年といった長期で見ていく必要があるのです。
というのも、投資を始めたばかりの初心者が、いきなり初めから数年にもわたって勝ち続けるというのは珍しいことではないからです。
こういったことは、スポーツや囲碁、将棋などの世界では決して考えられないことですし、それだけ投資においては運の要素が強いと言うことができます。
また、他にも戦略の有効性を見極める判断材料として、その戦略に再現性があるかどうかということが挙げられますが、残念ながらこの再現性を調べること自体が容易ではありません。
ただ、この再現性ということに関連してですが、先ほど出てきたバフェットの投資戦略はほぼ公開されていますし、他にも著名投資家たちの戦略というのはいくつも公開されています。
にもかかわらず、冒頭で書いたように成功している投資家というのはほんの一握りに過ぎません。
これは、いったいどうしてなのでしょうか。
そして、著名投資家たちの投資戦略には再現性がないということなのでしょうか。
もちろん、彼らの投資戦略には抽象的な概念が含まれていたりすることもあるため、完全に真似しようとしても、なかなか難しいという面はあったりするかもしれません。
しかし、だからといって、著名投資家たちの投資戦略には再現性がないと決めつけてしまうのは早計ですし、もっと他に理由があると思われます。
さらには、その理由にこそ投資家として成功できるかどうかを分ける本質的な部分が隠されていると考えていますが、これについては投資の本質のところで書いていますので参考にしていただければと思います。