ここでは、直近の「米国長期金利」について、日本と中国の米国債保有額やFRBの保有債券残高といった観点から見ていきたいと思います。
なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照ください。
1.米国債保有額(日本・中国・総計)
まずは、日本と中国の米国債の保有額および保有率の推移について見ていきます。
この図から、ここ数年の中国の米国債保有額および保有率は減少傾向となっていることが分かります。
一方、日本の米国債保有額は最近になって増加傾向となっています。
そして、日本と中国の米国債保有額を合計したものと、米10年国債価格の推移を示したのが以下の図です。
この図から、日本と中国の米国債の合計保有額は、米10年国債価格と概ね相関しているように見えます。
ただ、初めに示した図からも分かるように、日本と中国を合わせた米国債の保有率というのは、4割にも満たないものとなっています。
そこで、世界各国の米国債保有額の総計についても、米10年国債価格の推移とともに示したのが以下の図になります。
すると、世界各国の米国債保有額の総計は減少しておらず、増加傾向にあることが分かります。
つまり、世界全体で見た場合には、米国債への需要は底堅いものがあると言えそうです。
2.FRBの保有債券残高
次に、FRB(連邦準備制度理事会)の保有債券残高についてです。
FRBは2020年3月15日に、ゼロ金利政策ととともに、米国債およびMBSの購入も復活させ、6月10日には、米国債を月800億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を月400億ドルとの購入規模の目安を示していました。
ここでは、その米国債とMBSに政府機関債を加えた3つについて、FRB保有残高の推移をそれぞれ見ていきます。
さらに、これら3つを合計した、FRB保有債券残高の推移を示したのが以下の図になります。
最後に、FRB保有債券残高の推移を示したこの図の2017年1月以降を取り出して、米長期金利の推移とともに示したのが以下の図です。(見やすくするために、右軸のFRB保有債券残高のスケールは反転してあります。)
この図からも分かるように、FRBの保有債券残高と米10年債利回りの相関はほとんど認められません。
やはり長期金利は、FRBの保有などといった需給よりも、経済や景気の見通しの影響を強く受けるのだということを改めて認識させられます。
3.総括
FRBは、年内最後となる12月15~16日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、ゼロ金利と量的緩和の据え置きを決定していました。
また、月800億ドル規模の米国債、月400億ドル規模のMBSの購入ペースも維持されています。
そして、直近では米長期金利は1%近くにまで上昇しています。
ただ、この長期金利上昇が、経済の期待成長率や期待インフレ率の上昇によるものなのか、財政リスクプレミアムの拡大によるものなのかは難しいところです。
というのも、世界的に金利が低水準であるにもかかわらず、社債の債務不履行が世界的に増加している一方で、株式市場は総じて堅調な値動きとなっているからです。
これまでは、金融緩和によって金利が抑えられることで、収益性の低い企業が生き永らえ、緩和によって供給されたマネーが株式市場を押し上げるといった構図でした。
しかし、仮にこのまま金利が上昇していくようだと、社債の債務不履行はますます増加し、株式市場にとっても逆風となりかねません。
そういったことなどから、今後の長期金利の動向には細心の注意を払っておく必要がありそうです。