1.本書の概要
ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。
- 知識ゼロでも大丈夫! 基礎から応用までを体系的に学べる! 株式投資の学校[入門編]
- 著者:ファイナンシャルアカデミー
- 出版日:2013/5/31
- お役立ち度 :
- 難易度 :
- マニアック度:
- 分類:株式投資、個別株、基礎
まずは、本書の概要からです。
本書は、個人向けの投資教育事業を展開する日本ファイナンシャルアカデミー(JFA)による、株式投資の入門講座が書籍化されたものになります。
なお、本書の章立ては、次のようになっています。
- プロローグ:まずは株式投資のスタンスを決めよう
- 第1章:基本的なデータの見方と用語
- 第2章:数字に表れない企業の強みを分析しよう
- 第3章:業績データによる銘柄選別法
- 第4章:PERの使い方を磨く
- 第5章:株価チャートの分析法
- 第6章:配当と優待
- 第7章:景気や相場全体の状況をチェックする
- 第8章:株式投資のリスク管理法
- 第9章:口座開設と株の売買
2.個人投資家に最適な投資スタイル
本書では、まずプロローグにて、個人投資家が最も取り組みやすく、また強みを生かしやすいと思われる投資スタイルは、以下のようなものだと書かれています。
- 投資期間:中期トレード(数週間~数ヵ月間程度のトレード)
- 分析手法:ファンダメンタルズとテクニカルの組み合わせ
- 投資金額:1銘柄は投資資金全体の5分の1以下で、複数銘柄に分散
- 投資対象:小型株(時価総額300億円以下のもの)
また、順張りと逆張りについても、そのどちらを選ぶかは、個人の好き嫌いなどもありますが、「予測から外れたときのリカバリーのしやすさ」では、順張りに分があると述べられています。
そして、中期的に上昇しやすい銘柄の条件としては、「業績がよく」「PERが低く」「チャートの形がよい」の3点が挙げられており、このそれぞれについて後の章で詳しく解説されています。
なお、第1章では、会社四季報の基本的な見方や用語の解説がなされています。
3.企業の定性分析
第2章では、「数字に表れない企業の強みを分析しよう」ということで、企業の定性分析について書かれています。
定性分析の項目としては主に、「独自の強み(参入障壁)」、「売上の拡大余地(市場の開拓余地)」、「経営者の質」についてそれぞれ簡単に説明されています。
また、「独自の強み(参入障壁)」としては、高付加価値化、コスト競争力、ブランド力、スイッチングコスト、ネットワーク効果、規模のメリットが挙げられています。
ただ、こういった定性分析については、他の投資関連の書籍にもよく書いてあったりするのですが、個人投資家にとっては、実務上困難な場合が多いかと思います。
アナリストやファンドマネジャーのように、企業の経営陣を直接訪問することができたり、あるいはその業界によほど詳しかったりすれば話は別かもしれませんが。
とはいえ、そうした定性分析を行ったところで、それがどこまで功を奏するのかは、多くのアクティブ・ファンドの成績を見ても分かるように、甚だ疑問だと言わざるを得ません。
ですから、個人投資家において定性分析は、あくまで行える範囲でやれば十分でしょう。
なお、第2章では「シクリカル株(景気敏感株)」と「ディフェンシブ株」についても触れられています。
特に、シクリカル株の代表業種として、化学、鉄鋼、機械、電機、自動車、人材派遣、テレビ放送、広告などを挙げており、シクリカル株については以下のように書かれています。
- 景気のボトムや相場の底打ち時に買うと、大きな成果を収められる。
- 買うポイントを間違えると、「好業績でPERも低いと思って買ったら、そこから株価は下がり続けた」といった失敗につながる。
- 業績やPERによる投資判断が当たりづらいので、どちらかというと個人投資家よりプロ向けと言える。
4.業績による銘柄選別
第3章は、業績データによる銘柄選別法についての内容となっています。
具体的には、次のようなポイントが書かれています。
- 業績:売上高と経常利益(または営業利益)が直近予想期を含め、3期連続増収増益であることが望ましい。
- 自己資本比率:高いほど安全で、40%以上が望ましい。(有利子負債はゼロに近いほど安心。)
- PER:15倍程度を一つの基準に、できるだけ割安な銘柄を選ぶ。
- 業務内容やコメントで、その企業の概要を掴む。
さらに、1株益の異常を見つけて修正するといった点についても言及されています。
この1株益が異常値になる主な原因というのは、以下の通りです。
- 特別損益(一時的な損益)が加減されている。
- 繰越損があり(過去5年以内に大きな損失を計上し)、税金の支払いが一時的に減っている。
本書では、通常、経常利益の60%程度が純利益になる(法人税率が約40%のため)と書かれていますが、現在では法人実効税率は約30%であり、経常利益の70%程度が純利益になると考えてよいでしょう。
そして、この比率が明らかにいつもの年とかけ離れていたら、特別損益や繰越損の可能性を考えて、1株益を修正するというわけです。
5.PER・PBRの使い方
第4章では、PER・PBRについての内容となっています。
まず低PER銘柄への投資を検討する場合には、PERが低い理由を考えるとあります。
それは例えば、「株式市場全体が低調なため」、「地味で小さいため、投資家たちから見過ごされている」といったものだと言います。
また、成長株についても次のように述べられています。
「年率30%を超えるような成長が3年以上続くと考えらえる成長株は、PER20倍くらいまでなら割安」というふうに考えていきましょう。
ただ個人的には、そんな高成長を3年も続けられる企業をどうやったら判断できるのかと思いますし、仮にそう思える企業があったとしてもPERは20倍程度では済まないでしょう。
つまり、そんな期待度の高い成長企業をPER20倍程度で買うのは、ほぼ不可能だということです。
一方、PERが高すぎると、利益が伸びても株価がそれほど伸びないケースが多くなり、利益低下による株価下落リスクが大きいとも書かれています。
確かに、高PERにはそういった一面があるのも事実ですが、成長株というのは、高PERのまま株価が続伸していくケースが多いのもまた事実です。
ですから、PERばかりにとらわれてしまうと、そうした真の成長株を逃してしまうことになります。
多くの投資家が思っているほど、PERという指標は実は重要ではなく、むしろかなり当てにならない指標でもあるのです。
さて第4章では、PBRについても次のように述べられています。
優良株はPBR1倍水準に近づいたら、絶好の買いメドになる傾向があります。
また、深刻な問題を抱える企業の低PBRは当てにならないともあります。
とはいえ、深刻な問題を抱えてはいなくても、衰退期にある企業などでは低PBRとなり、株価の上昇が期待できないケースも多くあります。
さらに、近年では特に無形資産の重要性が高まってきていますが、それらは数値化が難しく、貸借対照表には十分に反映されにくいため、PBRもますます当てにならない株価指標となっていくことでしょう。
(仮に借方(資産の部)に無形資産が正確に計上されたとすると(資産が増額したとすると)、その増額分が貸方の純資産の部に「評価・換算差額等」として計上されることになるので、PBRの数値も異なってくるということです。)
6.株価チャートの分析法
第5章は、株価チャートについての内容となっています。
ここでは基本的な投資戦略として、「もみ合いからの上放れ」、「上昇トレンドの押し目買い」が挙げられています。
また、底値確認パターンおよび天井確認パターンとして、以下のようなものについても解説されています。
- 底値確認パターン
- 下降トレンドからの急騰
- セリングクライマックス:下降トレンドの最後に下落ピッチが加速し、最後に出来高が急増する。
- 急騰→押し目→高値更新
- Wボトムとトリプルボトム
- ソーサーボトムとなべ底
- 天井確認パターン
- スパイク型:上昇トレンドの最後に急騰→急落の形になるパターン
- Wトップとトリプルトップ
- 急落→反発→安値更新
さらに、ティーカップ型(いわゆる「カップウィズハンドル」のこと)についても触れられています。
これは、株価がいったん大きく上昇した後に反落して、その後再度高値付近まで盛り返して、その高値水準で少し横ばいにもみ合うという形です。
このティーカップ型については、次のように説明されています。
このティーカップ型では株価が盛り返した後に高値水準をキープするわけですが、これは「高値付近で出てきた売りを吸収するだけの十分な買いが入っているので、需給状況はかなり強い」と解釈できます。
高値をキープしている部分(ティーカップ型のとっての部分)も買いポイントと考えられますし、このもみ合いから上放れたポイントはより確実性の高い買いポイントと考えられます。
7.リスク管理法
第6章は「配当と優待」について、第7章は「景気サイクルや景気指標」についての内容となっています。
そして、第8章では「株式投資のリスク管理法」とのことで、以下のような内容について解説されています。
- 金額分散と時間分散
- 「損切り」が投資家として長期的な成否を握る
- 損切りポイントを決め、そこから逆算して投資金額を考える
- 安易なナンピン買いをしない
8.総括
本書は入門書ということもあり、当然そこまで深い内容については書いてありません。
特に第4章の「株価指標」に関しては、類書にありがちな解説ではあるのですが、ここでも簡単に指摘したように、初心者に悪しき概念を植え付けるような内容と言っても過言ではないでしょう。
一方、第5章の「株価チャート」や第8章の「リスク管理」についての内容は、基礎的な項目が簡潔にまとめられており、内容も本質的なものだと言えます。
なお、本書については続編として、[ファンダメンタルズ分析編]と[チャート分析編]が刊行されていますので、いずれこれらについてもレビューしていきたいと思います。