読書録・書評

【読書録・書評】『リバモアの株式投資術』

1.本書の概要

ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。

まずは、本書の概要からです。

本書は、伝説の相場師とも言われる、ジェシー・リバモアが自ら執筆した唯一の書籍で、その相場哲学や、市場の価格変動の読み解き方などが書かれています。

なお、本書の章立ては、次のようになっています。

  • リバモアの株式投資術
    • 第1章:投機という挑戦
    • 第2章:株が正しく動くのはいつか?
    • 第3章:先導株に従え
    • 第4章:資金の管理
    • 第5章:ピボットポイント
    • 第6章:100万ドルの損失
    • 第7章:300万ドルの利益
    • 第8章:リバモア流マーケットの秘訣
    • 第9章:ルール解説
    • リバモア流〈マーケットの秘訣〉チャートと説明
  • 〔特別付録〕マンガ 伝説の相場師リバモア

2.取引手法

リバモアは、「上昇トレンドが進行中であると見れば、通常の押しのあとに新高値を付けると買いに出る」と書いています。

また、ある銘柄を500株買いたいとすると、まずは100株買い、その後、上昇すればもう100株買うということを繰り返すべきだとあります。

つまり、買ったあとに相場が上昇すれば、その相場の流れに乗ってさらに買い増すということで、先のトレードで利益が出ているという事実こそが、正しい行動を取っているという証拠など言うのです。

そのため、決して押し目買いや戻り売りはしないと言います。

最初のポジションで損が出ている場合には、増し玉は絶対にせず、決してナンピンをしてはならないということを、心の内に深く刻み込んでおいてもらいたいと述べているのです。

そして、同時にあまりに多くの銘柄に関心を持つべきではないといったことについても言及しています。

同時にあまりに多くの銘柄を追うと、身動きが取れなくなったり、混乱してしまうため、分析対象は少数の銘柄にとどめようということです。

さらに、価格変動について調べるのは、その日に顕著な動きをした銘柄のみに限定しようとのことで、次のようにも書かれています。

活況に取引され市場をリードするような銘柄から利益を上げることができないなら、マーケット全体から利益を上げられるはずがない。

これは、「先導株に従え」ということですが、一方で現在の先導株が2年後にもそうであるとは限らないため、柔軟な考えを失ってはならないとも述べられています。

3.マーケットの動き

リバモアは、第2章で、マーケットの動きについて言及しています。

まず、株価が動き始めた最初の数日間は、出来高の急増と共に徐々に価格がせり上がっていきます。

その後、リバモアが「ナチュラルリアクション」と呼ぶ調整が起きた際に、株価上昇中に膨らんでいた出来高が一気にしぼんでいけば、この浅い押しは正常な動きだと判断されます。

本物の上昇トレンドであれば、ナチュラルリアクションによる下落を短期間のうちに回復し、新たな高値圏で取引されるようになるのです。

また、トレンドの初期には、前の高値から次の高値への上昇幅がそれほど大きくはないものの、時間が経つにつれて、株価は加速度的に上昇していくはずだとも述べられています。

4.仕掛けのタイミング

リバモアは、毎日、あるいは毎週投機をすることは成功につながらないし、そもそもやるべきトレードは年にたったの数回、おそらく4~5回しかないと言います。

トレードをしていない間は、マーケットが始動して次の大きな動きが現れるまで静観するのです。

具体的には、リバモアが「ピボットポイント」と呼んでいるポイントに相場が達するのを辛抱強く待ってから仕掛けるということで、このピボットポイントについては、次のように書かれています。

自らの手で場帳に書き込んだ株価の推移を研究し、ピボットポイントがどの価格で起きるかを書き留めるといったことに、時間をかけて取り組まなければならないのだ。

このリバモア流の場帳の付け方については、第8章と第9章でルールなどが細かく解説されており、その後に実例が何ページにもわたって載せられています。

具体的には、一つの銘柄について以下の6列を使用して場帳が付けられています。

  •  1列目「セカンダリーラリー」
  •  2列目「ナチュラルラリー」
  •  3列目「上昇トレンド」
  •  4列目「下降トレンド」
  •  5列目「ナチュラルリアクション」
  •  6列目「セカンダリーリアクション」

なお、文脈から、「リアクション」は「(上昇中の)押し」、「ラリー」は「(下落中の)戻り」を指していると推察されます。

また、この場帳は、約30ドル以上の値を付けている人気株への適用を前提にしているとのことです。

この場帳の付け方としては例えば、上昇トレンド列に買いていて、その最終株価から6ポイント前後の下落が起きれば、「ナチュラルリアクション」列に株価を書き始めます。

「ナチュラルリアクション」は、トレンドの転換点ではなく、あくまで市場の自然な変動を示すものになります。

そして、「ナチュラルリアクション」列に株価を書き始めた際の、上昇トレンド列に書かれた最後の株価が「ピボットポイント」となります。

また、「ナチュラルリアクション」列に株価を書き続けたあと、6ポイント程度の上昇があれば、「ナチュラルラリー」列に株価を書き始めることになります。

そのとき、「ナチュラルリアクション」列に書かれた最も高い株価が、もう一つの「ピボットポイント」になります。

株価がこれらの「ピボットポイント」に近づいたときは、非常に注意深く見守る必要があり、行動に移るべきかの判断は、それ以降の株価の動きによって決まると言うのです。

これは、おそらく上昇トレンド列の最終株価(ピボットポイント)を超えると同時にエントリーするということでしょう。

ここでは単純化したルールを取り上げたに過ぎず、より詳しいルールは本書をご参照いただければと思いますが、当然のことながら、この場帳を用いれば市場の転換点を明確に捉えることができるというわけではありません。

むしろ個人的には、リバモアが「ピボットポイント」と言うところの買い場を探る上では、例えば有名なところでは、次のようなものの方が有用ではないかと思います。

  • マーク・ミネルヴィニが言うところの、VCP(ボラティリティの収縮パターン)
  • ウィリアム・オニールが言うところの、カップウィズハンドル

5.手仕舞い

リバモアは、手仕舞いに関しては、例えば以下のように損小利大を繰り返し説いています。

  • 利益が目減りして身を滅ぼすことはないが、損が膨らめば悲惨なことになる。投機家は初期の少額の損失を受け入れることで、続く大きな損失から身を守るべきである。そうすれば、のちに優れたアイデアが浮かんだとき、失敗したときと同じだけ別のトレードでポジションが取れる資金が残せるのだ。
  • ある銘柄が下落し始めれば、どこまで下がるかはだれにも分からない。同様に、長期にわたる上昇トレンドを形成した銘柄がどこで天井を付けるかは、だれにも言い当てられないのである。
  • その株が正しく動き、マーケットが正しいのであれば、利食いを焦ってはならない。もし間違っていればまったく利益が出ないのだから、自分の判断に自信を持てばよい。そのままずっとマーケットに乗るのだ。それは時に非常に大きな儲けになるかもしれない。マーケットが不穏な動きを見せないかぎり、信念に従ってトレンドに乗り続けるのだ。

6.資金管理

リバモアは、何度も資産を築いては失うという経験をしており、彼の資金管理に対する次のような考え方はその経験から導き出されたものだと言えます。

  • 投機というビジネスに従事する人は、どんな銘柄であれ、一つの投機対象に投じるのは資金の一部に限定すべきである。投機家にとって現金は、商売人の棚にある在庫と同じなのである。
  • 利益の出るポジションを閉じるたび、利益の半分は別にしておくことだ。投機家がウォール街から持ち出す金とは、トレードで成功したあとに口座から引き出される資金がすべてなのである。
  • 現金を引き出すことを方針にしよう。自分がいくら持っているか数えよう。私は、自分の手のうちに何がしかあることを認識し、安心感を得た。それは本物のお金なのだ。
  • 証券口座にあるか銀行口座にあるかによって、同じお金も違う意味を持つ。手に触れられるお金には所有感覚があり、利益を失う無鉄砲な賭けに出たい気持ちを多少は抑える効果があるのだ。したがって、たまには自分が持つ本物のお金に目を向けよう。とりわけ取引をしている合間には。

他にも、リバモアは、ウォール街から得た何百万ドルというお金を、他の投機的事業に投資しては失ったと書いています。

それは例えば、フロリダブームで買った不動産、油田、航空機製造業、そして新発明に基づいた製品の製造とマーケティングなどで、いつも1セント残らず失ったと言うのです。

私も似たような経験を何度かしていますが、魅力的な儲け話には安易に乗らずに、自分の得意分野にだけ集中するといった姿勢もとても大事なものだと言えます。

そのためにも、リバモアの次のような言葉を胸に刻んでおくと良いでしょう。

投機や投資の世界において声高に言われることはないが、これらの二つのビジネスで成功するのは、本当に努力した人だけである。一獲千金などない。

7.総括

リバモアに関する書籍としては、エドウィン・ルフェーブルによって書かれ、数多くのトップトレーダーが必読書として推薦する『欲望と幻想の市場―伝説の投機王リバモア』があまりに有名です。(リンク先はレビュー記事になります。)

また、リチャード・スミッテンによって書かれた『世紀の相場師ジェシー・リバモア』という書籍もあります。(リンク先はレビュー記事になります。)

一方で本書は、リバモア自身によって書かれた唯一の書籍となります。

とはいえ、本書の内容は、第8章以降に書かれている場帳の付け方や見方などを除けば、『世紀の相場師ジェシー・リバモア』に書かれているものとほとんど変わりありません。

そして、その場帳の付け方などについても、前述したように「VCP」や「カップウィズハンドル」などのチャートパターンで代用可能であり、むしろこれらの方が分かりやすく優れているように思われます。

加えて、本書でリバモアは、本当に重要な変動の到来に関して正しい考えを持つには、あるいは投機で成功するためには、「トレードにおける時間的要因」が極めて重要であると述べています。

にもかかわらず、第8章以降の場帳に関する部分はもちろん、本書の全体を通して、この「時間的要因」については全くと言っていいほど触れられていません。

確かに「時間的要因」については、多くの相場師やトレーダーたちがその重要性について言及していますので、これに関する記述が特に見当たらなかったのは残念でした。

なお本書は、以前に出版されていた以下の2冊を全面的に改訂して再版されたものであり、後半はマンガで構成されています。

  • 『孤高の相場師リバモア流投機術―大恐慌を売り切った増し玉の極意』(ジェシー・ローリストン・リバモア 著)(2007/12/4)
  • 『マンガ 伝説の相場師リバモア』(小島利明 著)(2007/12/6)

ただ、マンガの方に関しては、ルフェーブルやスミッテンの著書に比べるとどうしてもかなり内容の薄いものとなっていることは否めません。

以上のようなことから、リバモアに関して、もしどれか1冊だけを読まれるのであれば、リチャード・スミッテン著の『世紀の相場師ジェシー・リバモア』がお勧めだと言えます。

同書では、1940年のリバモアの最期に至るまでが描かれており、単純に読み物としても面白く、また本書に書かれているような、リバモア自身の相場哲学も多く散りばめられているからです。

 

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