1.本書の概要
ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。
- 世紀の相場師ジェシー・リバモア
- 著者:リチャード・スミッテン
- 出版日:2001/6/1
- お役立ち度 :
- 難易度 :
- マニアック度:
- 分類:株式投資、個別株、相場哲学
まずは、本書の概要からです。
本書は、投機王や稀代の相場師とも言われる、ジェシー・リバモアについて、著者のリチャード・スミッテンが、リバモアの次男ポールらへの深く掘り下げたインタビューなどから書いたものになります。
なお、本書の章立ては、次のようになっています。
- 第1章:一九二九年―「ウォール街のグレート・ベア」
- 第2章:一四歳―家出同然でボストンに
- 第3章:千金の富―サンフランシスコ大地震をニューヨークで体感
- 第4章:一九〇七年―J.P.モルガン、JLに救済を要請
- 第5章:パーム・ビーチでの豪遊―一転して破産へ
- 第6章:第一次世界大戦―再起するリバモア
- 第7章:新婚生活―大邸宅と、トレード・セオリーの完成
- 第8章:盤石の富とスキャンダル
- 第9章:ボストン・ビリー―リバモア邸に強盗
- 第10章:忍び寄る影―金融大恐慌勃発
- 第11章:タイミングの秘訣―出撃と退却の時
- 第12章:リバモアのルール―資金管理
- 第13章:意欲喪失―別離と寂寥と絶望と
- 第14章:険悪な関係―ドロシー、息子を撃つ
- 第15章:死に神の到来
2.取引手法
リバモアは、低位株や割安銘柄にはほとんど興味を示さず、あくまでも潮目を求め、波に乗る、あるいは波とともに滑り下るというアプローチを行い、それを「最も抵抗の少ないラインを行く」と表現していました。
そのため、リバモアについて、「その時どきの流れ、勢いを最大限に利用するモメンタム投資の先駆者と言ってよかった」と書かれています。
また、リバモアは、堅調な業種を見出し、その中でも最強の株、すなわち主力株(業種の牽引役)に追随することを主義としていました。
この主力株は、必ずしも常識的な(著名な)銘柄とは限らず、「時には老舗の大型株を小型株が押しのけ、リーダーの座についた」とあります。
そういった主力株の動きを注意深く追うことで、マーケットがどの方向に向かっているか確かな手がかりが得られると言うのです。
さらに、「新高値」の出現は常に福音であり、高値は更新と同時に「買い」である、とも言います。
リバモアの立場からすると、「新高値」は、当の銘柄が頭上の‟殻”を突き破り、さらに伸びていくエネルギーを示唆するものだということなのです。
一方で、リバモアは、「利益をあげている企業の株価は確実に上昇する」と述べていたともあり、企業の業績も重視していたことが分かります。
3.タイミング
リバモアは、まず第一に、市場全体の流れ、方向を見定める、あるいは「相場の基調」を知ると述べています。
つまり、相場が相場は上昇トレンドにあるのか、下降トレンドにあるのか、あるいは整理か、横ばいか、模様眺めか、といったことになります。
この株式市場全体の方向を決めるカギは、やはり業種の動向だと言います。
例えば、それまで上り調子にあった業種が元気を失い、株価が下げるようになったら、相場はその時点で調整局面に入ったという見方をするということです。
また、商い(出来高)が多いにもかかわらず、株価が伸びない、失速する、高値が更新されないといった場合も、それまでの勢いはなくなったと見て、その後の注意が肝要になるとあります。
これは、相場全体についても、個々の銘柄についても言えるとのことです。
さらに、リバモア独自の「ピボタル・ポイント」という見方も紹介されています。
これには、「リバーサル・ピボタル・ポイント」と「コンティニュエーション・ピボタル・ポイント」の2つがあると言います。
前者は、トレンドの明確な方向転換を示す瞬間で、これは長期に及ぶトレンドの後に、たいてい出来高の大幅増と一緒にやってくると書かれています。
一方、後者は相場の大きな流れの中の一時的な反発や一服感のことで、取引規模を増大させるチャンスと言いますが、その特徴については特に説明されていません。
そして、この他に「ワン・デー・リバーサル(一日逆転のポイント)」なるものについても触れられています。
これは、1日の中で最高値をつけた後に急落し、前日の安値を下回って引けるのと同時に、出来高が前日よりも大きい場合を指します。
この「ワン・デー・リバーサル」は、長期間続いたトレンドが最終段階に至るとしばしば現れ、市場からの脱出を促す危険信号だと述べられています。
結局、ピボタル・ポイントも、ワン・デー・リバーサルも、出来高が急増したときに、株価がどのような動きをしたかが、相場の先行きを占う上で重要になってくるということだと、個人的には解釈しています。
4.仕掛け
リバモアは、最初の取引を買いする際に、どの銘柄に、いくら投資するか、事前に決めていたと言います。
また、取引を開始するに当たっては、何らかの有利な手掛かりが得られるまで辛抱強く待つと述べています。
次いで、「売る」にしろ「買う」にしろ、わずかな額からスタートし、自分の判断が正しいかどうかを試します。市場の動きを確認するために、小口の打診を実行するのです。
例えば、最終的に1000株の取引をすると決めたら、次のような配分で株式の取得を進めていきます。
まず、目指す銘柄のピボタル・ポイントを見い出したら、200株を購入し、その株が予想通り上がっていくようなら、200株を買い増し、なお値上がりが続くと確認されたら、もう一度200株を買い増します。
そして、その後さらに値を上げたり、あるいは反落の後、上昇軌道に乗ったりした場合、最後の400株購入に踏み切る、といった具合です。
あるいは、第一段階で全体の30%、次の段階でさらに30%、そして最後に40%の投入という割り振りも考えられます。
こうした配分比率に関しては、それぞれの投資家が自分にとって最適な比率を考案し、実行すればよいとあります。
ただし、間違っても全ての資金を一度に投入してはならないということです。
そして、前段階の買い値より高い価格で同一銘柄の株を購入するというのは、大半の投資家が抵抗を感じるところだろうが、それを克服しなければならないとも書かれています。
5.手仕舞い
リバモアは、言うは易く行うは難い相場師の最難事の一つは、一回目の「買い」に見込み違いがあり、株価が逆方向に進み始めたとき、早めに見切りをつけることだ、と言及しています。
相場判断の誤りが明白となり、株価が目論みと逆の方向に走り始めたときには、その相場師の真価が問われると言います。
その時点で即断即決し、即座に手仕舞って、損失を最小限に食い止めなければならず、これができるか否かは結局、自分のエゴを克服できるかどうかにかかっていると言うのです。
また、どんな場合でも、損失の規模が、投下した資金の10%を超えたら即切り捨てなければならないとも繰り返し書かれています。
そして、損切りの他に、利を伸ばすことについても触れられています。
大儲けを狙うのであれば、市場の大きな波に乗るほかはなく、売るだけの十分な理由が生じない限り、売ってはならない、ということです。
相場全体の流れが予想どおりに展開している場合、あるいは考慮すべき特段の事情が生じない限り、最初の方針を最後まで貫くべきなのです。
6.資金管理と休み
リバモアは、相場で成功しようと思ったら、常に予備の現金を確保しておかなければならない、と言います。
また、いずれかの取引で十分と思える成果が得られたら、特に投入資金の二倍にまで資金規模が膨らんだ場合、その50%を別のところに取り分けておくよう強く勧める、とも述べています。
そして、四六時中相場に関わるのではなく、ときどき株を現金化して、相場を休む時期がなければならないとも書かれています。
市場の方向に自信が持てない場合は、取引を離れて、次の流れが定まるのを待つことにしているということです。
また、エネルギーの有り余ったトレーダーにとって“戦線離脱”がつらいのはよく分かるが、どんなトレーダーも休むことで、精神や気持ちのバランスを取り戻すことが重要だと言うのです。
7.総括
ここでも書いたような、ピボタル・ポイント理論、新高値や出来高に関する見解、業種別株価連動の法則や牽引役に関する理論などは、現在でも十分に通用する概念だと言えます。
これらの概念を、1920年代、30年代の相場で既にリバモアが実践していたというのは、大変な驚きです。
また、リバモアは、株取引について次のように言及しています。
これはわたしの得た結論だが、相場で成功する技というのは、純粋な理論ではなく、一種の職人芸だと思う。成功獲得のメカニズムが純粋な理論であれば、すでにだれかがその筋道を解明しているはずだ。
この言葉は、相場師として成功を収めた林輝太郎氏の考え方に通ずるものがありますが、相場の厳しい世界を生き抜いてきた相場師たちというのは、きっとこのような結論に至るのでしょう。
なお、リバモアに関する書籍としては、数多くのトップトレーダーが必読書として推薦する『欲望と幻想の市場―伝説の投機王リバモア』(1923年刊行)があまりに有名です。(リンク先はレビュー記事になります。)
一方、本書では、1940年のリバモアの最期に至るまでが描かれており、リバモア自身の相場哲学もより多く散りばめられています。もちろん、相場に関する読み物としても興味深いものとなっています。
そういったことから、『欲望と幻想の市場―伝説の投機王リバモア』を読むのであれば、本書の方を読まれることをお勧めします。
また、リバモアの投資理論についてだけを知りたければ、『リバモアの株式投資術』を読まれるのが良いでしょう。(リンク先はレビュー記事になります。)
こちらは、息子の勧めからリバモア自身によってその投資理論がまとめられたもので、原著は1940年に上梓されたものになります。