ここでは、直近の「日経平均株価」について、PER・PBR、海外投資家売買動向、日銀ETF買い入れ、ドル建て日経平均、信用評価損益率、騰落レシオといった観点から見ていきたいと思います。
なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照ください。
1.PER・PBR
まず、日経平均株価に採用されている企業の平均PER(株価収益率)についてです。
この平均PERと日経平均株価の値から、平均EPS(一株当たり当期純利益)を求め、その平均EPSに13~17の数値を掛け合わせて、PER 13~17倍に相当する株価の推移を日経平均株価とともに表したのが以下の図になります。
また、この図から直近の推移だけを取り出したのが、以下の図です。
4月下旬から5月上旬にかけて、各PER相当の株価水準が急落しているのには理由があります。
それは、新型コロナウイルスの影響で、業績予想の開示を見送る企業が相次ぎ、日経の予想が作成されるまでの間、利益をゼロとして平均PERが算出されていたためです。
リーマン・ショックの後もそうでしたが、こういった状況下では、平均PERは指標としての意味を為さなくなってしまうのです。
次に、平均PBR(株価純資産倍率)についてです。
PERと同様に、平均PBRと日経平均株価から平均BPS(一株当たり純資産)を求め、そこから導き出したPBR 1~1.5倍に相当する株価の推移を日経平均株価とともに示したのが以下の図になります。
平均PBRの方は、3月16日に0.82を付けたあと、直近では1.1倍前後までの戻りを見せています。
リーマン・ショック後の2009年3月にも0.81を付ける局面が何度かありましたが、今回はそれに迫るほどの急落だったことが分かります。
なお、6月19日大引けの時点で、平均PBR 1倍相当が20623円、平均PBR1.2倍相当が24747円となっています。
2.海外投資家の売買動向・日銀のETF買い入れ
次に、投資部門別売買状況(投資主体別売買動向)から、海外投資家の売買動向について見ていきます。
海外投資家の売買代金の差引き金額を累計したものの推移を、日経平均株価とともに示したのが以下の図です。
この図から、直近の株価急反発とは対照的に、海外投資家は売り越し傾向となっていたことが見て取れます。
また、日銀のETF買い入れについても見ていきます。
ここでは、「設備投資・人材投資に積極的に取り組んでいる企業」の株式を対象としたETFを含む、日銀の買い入れている全てのETFの累計額を見ていきます。
この日銀によるETF買い入れ累計額と日経平均株価の推移を示したのが以下の図です。
さらに、日銀のETF買い入れ累計額と海外投資家の累計売買金額とを合計したものの推移を、日経平均株価とともに示したのが以下の図になります。
この図から分かるように、両者を合計したものは、日経平均株価と非常に強い相関を認めています。
また、直近の急落により拡大していた、日経平均株価との乖離もかなり縮小してきています。
3.ドル建て日経平均株価
なお、海外投資家から見た日経平均株価である、ドル建て日経平均株価は、次のような推移となっています。
すると、直近の株価反発により、ドル建て日経平均株価は200ドルの水準を超えていたことが分かります。
4.信用評価損益率
続いて、信用評価損益率を見ていきます。
以下の図は、信用評価損益率(2市場(東証と名証))と日経平均株価の推移を示したものです。
一般に、信用評価損益率では、「-3~0%以上で天井圏」、「-15~-20%以下で底値圏」という見方がされます。
信用評価損益率は、リーマン・ショック以来となる-30%超にまで低下していましたが、直近では-15%程度にまで戻しています。
株価の急回復にも関わらず、信用評価損益の戻りが鈍いのは、空売りによる損失が膨らんでいる投資家もいるためだと推測されます。
5.騰落レシオ
最後に、25日騰落レシオについても見ていきます。
騰落レシオの推移を日経平均株価とともに示したのが以下の図になります。
騰落レシオは、3月16日に40.11%と過去最低を更新していましたが、直近では120%前後にまで急上昇しています。
6.総括
日経平均株価は、コロナショックによる急落後、3ヵ月ほどかけて急落前の水準近くにまで戻してきました。
この背景の一つとしては、先進各国の大規模な量的金融緩和が挙げられ、中央銀行から企業への融資や社債購入として供給された資金が、株式市場へと回っているのではないかと考えられます。
特に日本では、日銀によるETF買い入れの影響も大きいでしょう。(日銀は、3月16日の金融政策決定会合で、ETFの年間購入目標額を12兆円へと倍増していました。)
とはいえ、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大は未だ終息が見通せず、実体経済の先行きも不透明な中で、株価指数がこれだけ上昇しているのには違和感があります。
ただ、FRB(米連邦準備制度理事会)が少なくとも2022年末までゼロ金利政策を維持する方針など、世界的な金融緩和が当面は続く見通しであることは、株式市場にとって追い風だと言えます。
そう考えると、株式市場で第2波の下落が起きたとしても、下値はそこまで深くはならない可能性もあります。
また、高値追いとはなっても、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けづらく、業績も悪くない個別銘柄を選んで投資するという選択肢はありそうです。(過熱し過ぎている銘柄は避けた方が無難ですが、株価にモメンタム(勢い)があるということは、銘柄選択の大事な要素でもあります。)
それは、米国のGAFAに代表されるナスダック銘柄のように、一部の優良株に資金が集中することが予想されるからです。
しかしその場合でも、保有期間に関しては次の四半期決算までとしておくのが手堅いでしょう。(3月期末決算の企業であれば、第1四半期(4~6月)決算が発表され始める7月下旬頃まで。)