1.日本株の現物市場と先物市場
今や、東京証券取引所における取引のうち、「現物市場」では約6割、「先物市場」では約7割が、外国人による売買となっています。
前者の「現物市場」における海外投資家の売買動向については、以前に以下の記事で分析していました。
また、海外投資家の現物株の売買動向を含めた、「日経平均株価」に関する最近のデータについても、3・6・9・12月と定期的に分析していますので、よろしければご参照ください。
そして、ここでは「先物市場」における海外投資家の売買動向について、見ていきたいと思います。
なお、ここでの先物とは、日経平均株価を対象とした「日経225先物」のことになります。
2.海外投資家の先物・現物の売買動向(累計)
「日経225先物」の「投資部門別取引状況」は、日本取引所グループ(JPX)のマーケット情報で、1週間ごとのデータが公表されています。
この「投資部門別取引状況(投資主体別売買動向)」では、「海外投資家」などの投資主体ごとに、「売り」と「買い」、「合計」、「差引き」の金額がそれぞれ載せられています。
これらのうち、「差引き」の金額については、「買い」の代金が「売り」よりも大きければプラス、逆に「売り」の代金が「買い」よりも大きければマイナスで表されます。
そして、2007年の第1週から「差引き」の金額を足し合わせていった累計額の推移を見ていきます。
海外投資家の先物取引の累計額の推移とともに、同じく海外投資家の現物株取引の累計額の推移と日経平均株価を併せて示したのが、以下の図です。
この図から、海外投資家の先物の取引代金の変動額は、現物株のそれと比較して少ないことが分かります。
また、日経平均株価との相関係数を調べてみると、現物株では約0.68とある程度の相関を認めているのに対し、先物では約-0.83と強い逆相関を認めています。
さらに、海外投資家の現物株と先物の取引代金の累計額を合計したものの推移を、日経平均株価とともに示したのが次の図です。
すると、この図における両者の相関係数は約0.54と、現物株だけのときよりも低下してしまっています。
3.日銀のETF買い入れと海外投資家の売買動向
なお、この図において、2015年頃より両者の乖離幅が拡大している大きな要因の一つとして、日銀によるETF(上場投資信託)買い入れが挙げられます。
この日銀によるETF買い入れについても、以前に以下の記事でまとめていますので、よろしければご参照ください。
その日銀のETF買い入れについて、大きな転換点だけを取り出すと、日銀はETFの買い入れ枠を、2013年4月に年間1兆円、2014年10月に年間3兆円、2016年7月に年間6兆円へと拡大していました。
そこで、日銀のETF買い入れ累計額と海外投資家の現物株・先物取引の累計額との合計を、日経平均株価とともに示してみます。
すると、この図からも明らかなように、両者は強い相関を認めており、相関係数も約0.84となっています。
ちなみに、先物を含まない、海外投資家の現物株取引の累計額と日銀のETF買い入れ累計額との合計を、日経平均株価と比較した下図では、両者の相関係数が約0.86となっています。
つまり、海外投資家の先物取引の累計額を含まない方が、相関係数が高くなっているのです。
4.総括
この要因としては、よく言われるように、日経225先物を売買する海外投資家には、ヘッジファンドのような短期筋が多いということが挙げられます。
日経225先物に限りませんが、先物では限月(げんげつ)といって取引の期限が定められているため、どうしても短期売買とならざるを得ないのです。
一方で、海外投資家の中でも、例えば年金基金や大学基金、投資信託などでは、基本的に長期投資が行われるため、株式投資の対象は先物よりも現物株が選好されることになります。
以上のことから、日経平均株価の動向を占う上で、海外投資家に関しては「現物株」の売買動向だけを見ておけば事足りると考えられます。
最後に余談ですが、海外投資家の先物取引の累計額の推移が、日経平均株価と強い逆相関を認めていたことから、短期筋は全体として逆張りの傾向があると言えます。
海外投資家は一般に順張りをする傾向があると言われますが、これはあくまでも長期筋の海外投資家について言っていることなのでしょう。