相場のデータ・指標

「東証REIT指数」のデータ分析(2019.12)(NAV倍率・分配金利回り・TOPIX・東証1部株式の配当利回り・投信の資産増減状況)

ここでは、直近の「東証REIT指数」について、NAV倍率・分配金利回り・TOPIX・東証1部株式の配当利回り・投信の資産増減状況などといった観点から見ていきたいと思います。

なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照下さい。

1.東証REIT指数とTOPIX

まずは、東証REIT指数とTOPIXの推移を見比べてみます。

東証REIT指数とTOPIXの推移を示した図(2019.12)

この図から、TOPIXと東証REIT指数は強い相関を認めることが分かります。

また、2017年頃から拡大していた両者の乖離は縮小し、直近ではTOPIXと東証REIT指数は歩調を合わせるようにして上昇していることが見て取れます。

2.東証REIT指数とNAV倍率・分配金利回り

次に、東証REIT指数をNAV倍率や分配金利回りといった点から見ていきます。

まずは、NAV倍率の方からです。

東証REIT指数とNAV倍率の推移を示した図(2019.12)

NAV倍率ですが、ここ1~2年ほどは、一般的に割安の基準であるとされる1倍に近い水準(赤い点線)から上昇傾向となっており、直近では上昇の勢いが増しています。

直近のNAV倍率は1.2倍を超えており、過熱しているとまでは言わないものの、割安感は薄らいでいると言えそうです。

そして、分配金利回りの推移についても見ていきます。(見やすくするために、右軸にある分配金利回りのスケールは反転させてあります。)

東証REIT指数と分配金利回りの推移を示した図(2019.12)

直近のJ-REIT分配金利回りは3%台前半にまで低下しており、この図で示した過去約15年間の推移を見る限りでは、低い水準となりつつあります。

ただ、直近の東証REIT指数の上昇と比較すると、分配金利回りの低下は穏やかなものであり、REITの収益力は高まっていることが推測されます。

3.各種利回りの比較

さらに、REITの分配金利回りは、株式の配当利回りや長期金利(10年国債利回り)などとの関係で決まってくる面もあると思われるため、それらの比較をしたのが以下の図になります。

分配金利回り、配当利回り、長期金利の推移を比較した図(2019.12)

ここで、長期金利(10年国債利回り)に関しては、日銀の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」などにより、ここ数年は-0.2%~0%での推移となっています。

つまり、ここ数年の長期金利は少なからずコントロールされたものであると言え、比較対象として適切なものかどうかは疑わしいものであるため、ここではJ-REITの分配金利回りと東証1部株式の配当利回りとを比較してみます。

このJ-REITの分配金利回りと東証1部株式の配当利回りとのスプレッド(利回り差)の推移を示したのが以下の図です。

分配金利回りと配当利回りのスプレッドの推移を示した図(2019.12)

この図で示した過去約15年間の推移を見る限りでは、両者のスプレッドは過去最低水準となっていることが分かります。

そういったことから、株式と比較して見た場合に、REITにはそこまで投資妙味があるというわけではなさそうです。

4.投資信託の資産増減状況と東証REIT指数

なお、東証REIT指数を構成しているJ-REIT市場における主な投資家としては、日銀や投資信託、海外投資家が挙げられます。

そして、東証REIT指数の推移は、その中でも投資信託の資産増減状況との関連が比較的強いため、その影響についてここでは見ていきます。

具体的には、投資信託の商品分類のうち、「毎月決算型」、「国内 不動産投信」の2つについてです。

まずは、「毎月決算型」の方からになります。

この「毎月決算型」を見るのは、分配金を毎月出す投信にとって、相対的に利回りの高いREITというのは、都合が良いためです。

東証REIT指数と毎月決算型投信の推移を示した図(2019.12)

ここ数年間は、「毎月決算型」投信からの資金流出がずっと続いていましたが、2019年に入ってからの純資産総額はほぼ横ばいとなっています。

この図からは、2017年末頃から両者の乖離が拡大していることが見て取れます。

続いて、「国内 不動産投信」になります。

東証REIT指数と国内不動産投信の推移を示した図(2019.12)

「国内 不動産投信」は資金流入傾向となっており、純資産総額も過去最高を更新しています。

また、それと連動するように東証REIT指数も上昇していることが見て取れます。

5.総括

ここでは、東証REIT指数を、各種指標と比較して見てきましたが、全体的に割安感が薄らいできていると言えます。

また、これまでの東証REIT指数の上昇は、FRB(米連邦準備理事会)による政策金利の引き下げによるところが大きかったと思われます。

ちなみにFRBは、今年の7月、9月、10月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、3会合連続の利下げを行っていました。

ただ、今後しばらくは政策金利が据え置かれることが予想されます。

そして、上掲の各種利回りの図からも見て取れるように、日本の10年国債利回りは、わずかではありますが上昇に転じています。

一般に金利上昇は、株式や不動産にとってマイナス要因ですが、多額のローンを組んで行われることの多い不動産投資やREITでは、より影響が大きいと言えます。

もちろん、すぐにというわけではありませんが、徐々に負の影響が及んでくることになります。

となると、直近のREIT市場のように、多くのREIT銘柄が一本調子に上がっていくということは期待しづらく、今後はREIT銘柄の中でも選別が進んでいくことになりそうです。

具体的には、都心の一等地に物件を保有するような銘柄に、強い値動きが期待できるでしょう。

ただ、REIT銘柄ではありませんが、そういった超優良物件を保有する筆頭格と言える、三菱地所や三井不動産、住友不動産といった企業の株価が、直近においてやや軟調な値動きとなっているのは気に掛かるところです。

もしかしたら、不動産市場が曲がり角に来ていることを示唆しているのかもしれませんが、株式市場が総じて堅調なことを考えると、その可能性は低いのではないかと考えています。

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