Contents
1.本書の概要
ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。
- 伝説のファンドマネージャーが実践する 株の絶対法則
- 著者:林 則行
- 出版日:2012/9/14
- お役立ち度 :
- 難易度 :
- マニアック度:
- 分類:株式投資、個別株、成長株
まずは、本書の概要からです。
本書は、著名投資家のジム・ロジャーズやラリー・ウイリアムズに直接学び、世界最大の投資ファンド(アブダビ投資庁)で運用していたという、林 則行氏によって書かれています。
本書は、前回レビューした『伝説のファンドマネージャーが教える株の公式』の続編ですが、より実践的な、「考えて結論を出すプロセス」に重きを置いて書かれています。
なお、本書の章立ては、以下のようになっています。
- 第1章:大化け株は一目で見抜ける
- 第2章:買いの核心はビッグ・チェンジ
- 第3章:手を出してはいけない株
- 第4章:テクニカル分析はこれだけに絞れ
- 第5章:ちょっとした売りのコツで、パフォーマンスが向上する
- 第6章:大局観をつかめば、混迷相場も怖くない
- 第7章:「資産を守る」が最大の攻め
2.チャートから有望株を見つける
本書の投資法では、まずチャートで銘柄を選別します。
その際のチェックリストは、次のようなものとなっています。
- 保ち合い抜け:直近の高値を抜いたか
- レンジ:保ち合い期間中の高値から安値までの幅:(1-安値/高値)×100(%)
- 30%未満(合格)か
- 15%未満(リスク小)か
- 期間:半年以上か
- 保ち合い期間中の最高値:過去2年以上の高値か
- (保ち合いの出現位置が低い場合:過去10年以上の最高益か)
また、保ち合いについては、以下のようにも言及されています。
- 保ち合い期間が長い方がよく上がる
- 狭いレンジの方がよく上がる
- 例外:業績急成長株はレンジが広くなる
次に、チャートの条件を満たした銘柄の業績チェックを行いますが、これに関しては、前回の内容と重なるので割愛します。
3.ビッグ・チェンジ銘柄をものにする
続いて、会社のビッグ・チェンジ(収益の飛躍的拡大)を探っていきますが、その要因として、以下の3つが挙げられています。
- 時流に乗っている
- 市場でオンリーワンの存在となっている
- 政府の施策の恩恵がある
まず、「時流」というのは、一時的なブームとは異なり、長期にわたって存続する現在の時代の波であるとして、次のようなものを挙げています。
- エコ、省資源、地球にやさしい
- コスト削減、低価格
- 中国などの新興国の台頭
次の「オンリーワン企業」に関しては、以下の3つに大別されると言います。
- ニッチな分野に特化した企業
- 他を寄せつけない陣容を誇るサービス業
- 他社には真似のできない店舗展開力を持つ小売業
また、オンリーワン企業のマーケットシェアがまだ低く、拡大途上にあることも重要です。
最後の「政策株」というのは、例えば震災復興関連などで、一定期間の需要が見込めるため、直近の業績は大目に見てもよいと書かれています。
4.リスクの高い銘柄を避ける
第3章では、手を出してはいけない株として、以下のものが挙げられています。
- その会社だけ上がっていて、仲間銘柄は低迷している
- その会社だけが出遅れている
- ただのリストラで利益が出ている(利益が伸びても、売上が伸びない会社はダメ)
- 合併したばかりの会社
最後の「合併」に関しては、企業同士が合併するのは苦境にあるからで、事業環境がよく、業績が毎期順調に伸びている企業同士が合併するということはないと書かれています。
なお、合併と買収とは全くの別物で、買収に関しては次のように言及されています。
- 買収される側の会社は買い
- 買収する側の会社は売り:長期的には買収効果が得られるのだろうが、短期的には収益が低下するリスクがある
5.テクニカル分析で人気を測る
第4章は、テクニカル分析についての内容となっており、新高値更新当日に次の項目をチェックします。(優先順位は1、2、3の順番)
- ボラティリティ:6%未満か(4%未満はリスク小、6%未満はリスク中、それ以上はリスク大)
- 出来高:過去1ヵ月の平均と比較して、2割増以上あるか
- 天井の株価を目算:現在値から天井まで20%以上あるか
一番初めの「ボラティリティ」については、著者オリジナルの「ローソク足ボラティリティ」および、その計算方法が紹介されています。
それについては割愛しますが、ボラティリティをそこまで厳密に計算する必要性というのは低いように思われます。
そして、最後の天井の株価予測については、「二段波動」という概念が紹介されています。
これは、「波動は2段で終わる。2つの波動はほぼ同じ幅になる。このあと株価が大きく下がることが多い」というもので、以下のような図を用いて説明がなされています。
この二段波動による天井の予測値から、20%以上の上昇が見込めるときに株を買うというわけです。
ちなみに、この「二段波動理論」は、著者が師と仰ぐ武田 惟精氏が完成させたもので、同氏の著書である『株価は「2つの波」で予測できる』の中で詳しく解説されています。(リンク先はレビュー記事になりますので、よろしければご参照ください。)
6.売りのテクニカルツール
本書では、売りの際に利用するテクニカルツールとして、「売り転換線」と「RCI」の2つが紹介されています。
「売り転換線」は著者独自のアイデアですが、ボラティリティを加味したカギ足のことで、次のように定義されています。
- 売り転換価格=直近の天井-転換幅
- 株価が売り転換価格を下回ったときが売り
- 転換幅:ボラティリティ(過去20日間平均)の3倍
- 売り転換線:日々の売り転換価格をつないだもの
また、「RCI」についても、-70%を超えて下がった場合に、売りと考えるのがいいと述べられています。
ただ、RCIは、揉み合いから下げに入る株価の動きに強い指標で、急落には弱いとのことです。
一方で、売り転換線は、急落するような場合に、他のテクニカル分析と比べて素早くシグナルが発現するとも書かれています。
7.大局観をつかむ
第6章では、市場の大局観について書かれています。
個々の会社の業績がよくても、それらの株価の動きは相場全体の環境に左右されるため、相場の大局観をつかむことが肝要になってきます。
具体的には、以下のような、市場の大勢・中勢を読むとのことです。
- 大勢を読む(時々のチェック):世界の株価指数チャートを見る
- 日経平均が、直近の高値を抜くかどうか
- 日経平均が、世界の指数と連動しているか(他市場も直近の高値を抜いたか)
- 中勢を読む(日々のチェック):新高値銘柄数を見る
- 現在は上昇局面にあるか
- 上昇局面が近いか
なお、ここまで書いてきたようなチェックリストの全てを満たす銘柄はまずありません。
そのため、最後に次のような、それぞれの優先度を考えながら総合的に判断をするとのことです。
- ビッグ・チェンジは来るか
- 直近2~3四半期の業績は良好か
- 新高値をつけたか
- 保ち合いを形成したか
- テクニカル分析から見て人気があるか
そして、市場が下降局面のときは、個別株の魅力度がどんなに高くても、買いを見送り、時期を待つと書かれています。
8.総括
本書からは、前著と同様に、著者の豊富な分析や経験に基づいた内容であるということが伝わってきます。
ここでは、その全てを書くことはできませんでしたが、本書では前著にはなかった、より細かな定義や注意点などが盛り込まれています。
前著に書かれていたことが一部割愛されていたりはしますが、逆に前著にはなかった、「二段波動」などの新しい概念が紹介されていて、とても参考になります。
つまり、本書と前著がそれぞれに補完的な役割を果たしており、出来れば2冊とも読んでおきたいところです。
本書は分かりやすく書かれてはいますが、いざ実践となると、心理的にも実務的にも、そう容易なものではないはずです。
しかし、それこそが、この手法が今後も長期にわたって機能し続けることの裏返しでもあると考えています。