1.本書の概要
ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。
- ずば抜けた結果の投資のプロだけが気づいていること 「すごい会社」の見つけ方 (幻冬舎新書)
- 著者:苦瓜 達郎
- 出版日:2017/11/29
- お役立ち度 :
- 難易度 :
- マニアック度:
- 分類:株式投資、個別株、中小型株
まずは、本書の概要からです。
本書は、「R&Iファンド大賞」国内中小型株式部門において、2017年までの6年連続で「最優秀ファンド賞」「優秀ファンド賞」を受賞した、凄腕のファンドマネジャーによって書かれたものです。
本書では、著者の専門とする中小型株投資の魅力や投資哲学などについて書かれています。
なお、本書の章立ては、以下のようになっています。
- 第1章:株式市場とは何物なのか
- 第2章:誰にも開陳したことがない私の投資哲学
- 第3章:「すごい会社」はこうして見つける
- 第4章:中堅企業はこんなにおもしろい
- 第5章:「苦瓜式」銘柄・情報整理術
2.PBRではなくPERを重視する理由・PERの目安
著者は、投資の際にPBR(株価純資産倍率)をあまり重視しておらず、重要指標としているのは、PER(株価収益率)だと言います。
その理由として、企業が将来にわたり上げていく利益こそが、投資家にとっての企業の価値だと考えていることを挙げています。
また、実際に企業が解散する事態というのは稀であり、PBRについては「解散価値」というものにどれほどのリアリティがあるのか疑問があるとも書かれています。
そして、PERの水準に関しても、何か絶対的な基準があるわけではないと言います。
利益が今後大きく伸びていくと考えられる場合には、PERが多少高くても「十分に割安」といえることもあるからです。
もちろん、おおまかな「目安」というのはあり、今期予想純利益の15倍程度が目安と書かれています。
なお、この15倍というのは、「高成長企業ではないものの伸びしろはあり、さほど大きなリスクがない安定成長銘柄」の場合です。
さらに、その他の場合として、以下のようなものが挙げられています。
- かなり堅調な成長が見込める場合なら10倍台後半程度で計算することもあり、通常は高くても20倍程度まで。
- 「あまり伸びしろはないものの、日本経済全体なりの業績を上げそうな銘柄」となると、目安は10倍程度まで。
- 「例外的な高成長企業」の場合、50倍程度で計算することもあり得る。
つまり、結局のところ、適正な株価水準は、企業の成長性や安定性を1社ずつ見ながら考えていく必要があるのです。
3.なぜ中小型株が勝ちやすいのか?
著者の運用するファンドは、「中小型株」を主な投資対象としていますが、本書ではその中小型株の魅力についても書かれています。
中小型株には、多くのアナリストが調査してレポートを出す大型株と比べて、情報量が少ないという特徴があります。
そういったこともあり、中小型株は注目している人が少なく、情報も出てきにくいのです。
そのため、中小型株は「ただ知られていないだけ」で、株価が割安なまま放置されているケースがたくさんあると言います。
そして、こうした企業に投資できれば、あとは多くの人が「あの企業は儲かっている」と気づいて株価が上がるのを待てばいいと書かれています。
4.おもしろい中堅企業
著者が実際に投資するのは「伸び始めのニッチなベンチャー企業」や「成熟した安定成長企業」のほうが多い傾向にあると言います。
そして、「この世の中には、世界中で何百人、あるいは何千人だけがやっていればいいけれど、確実に必要とされているビジネスが無数にある」と指摘しており、第4章では、そういったビジネスを行う企業について触れられています。
第4章ではまず、「数百人規模の企業が活躍するニッチな世界」として、食品加工機械メーカーと、ブライダル業界が取り上げられており、具体的にそれぞれ以下のような企業が挙げられています。
食品加工機械メーカー
- 鈴茂器工(6405)
- レオン自動機(6272)
- SHINPO(5903)
- マルゼン(5982)
ブライダル業界
- ワタベウェディング(4696)
- テイクアンドギヴ・ニーズ(4331)
- ツカダ・グローバルホールディング(2418)
- アイ・ケイ・ケイ(2198)
- ブラス(2424)
- エスクリ(2196)
また、インターネット業界と不動産業界についても、「ビジネスモデルで勝てる企業」として、それぞれ次のような企業が挙げられています。
インターネット業界
- ファーストロジック(6037):個人不動産投資家向けの情報サイト「楽待」を運営。
- 鎌倉新書(6184):「終活サービス」のサイトを運営。
不動産業界
- スター・マイカ(3230):ファミリー向け賃貸マンションの区分所有権の売買を手がけている。(→2019年6月持株会社に移行)
- サンセイランディック(3277):いわゆる「底地」を取り扱う。
5.バランスシートのシンプルな見方
第5章では、バランスシートを5つの数字だけにまとめる、シンプルな見方が紹介されており、次のように書かれています。
貸借対照表の右側の「貸方」、つまり「企業がどうやって資金を集めたか」を示す部分については、「自己資本(株主資本)」と「有利子負債」にまとめます。自己資本は「返さなくていいお金」、有利子負債は「返す必要のあるお金」ですね。
貸借対照表の左側の「借方」、つまり「企業が集めた資金が、どのような資産にどれくらい投資されているか」を示す部分については、「設備(有形固定資産+敷金)」「運転資金(売上債権+在庫-支払い債権)」「現金」にまとめます。それ以外の項目は大きくない限り無視します。
安全性に問題がなく、普通に会社が回っている場合は、これくらいシンプルにまとめたほうが現状を把握しやすくなると言います。
6.総括
ここでは詳しく取り上げられませんでしたが、本書で取り上げられていた中堅企業の説明では、そんな世界があったのかというものばかりでした。
ただ、年間900回以上も経営者やIR担当者などと面談を行っている著者でなければ、確信を持って長期投資するのは難しいのではないかと思えるものが多かったのも事実です。
一方で、驚異的なパフォーマンスを上げている著書の投資哲学などは、参考になる点が多々ありました。
本書は、新書でさっと読めますので、特に中小型株投資に興味のある方にとっては読んでおいて損のない一冊だと言えるでしょう。