ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。
- 日本株で成功するバフェット流投資術
- 著者:大原 浩
- 出版日:2012/12/13
- お役立ち度 :
- 難易度 :
- マニアック度:
- 分類:株式投資、ファンダメンタル分析、ウォーレン・バフェット
1.書籍の概要
まずは、本書の概要からです。
本書は、バフェットの投資理論を分かりやすく正確に解説した本、また初心者から中級者の方々を主な対象としたバフェットの神髄を伝える本との触れ書きです。
なお、本書の章立ては、以下のようになっています。
- 第1章:安く買って、高く売る
- 第2章:株式投資は銘柄選択に尽きる
- 第3章:チリも積もれば山となる
- 第4章:常に勝つやり方
- 第5章:「優秀な投資家」とは、「優秀な経営者」でもある
- 付録 :「バフェット流投資」チェックシートで日本企業を分析する
ここでは、本書の中で気になった部分や参考になった部分について、一部を抜粋しながらレビューしていきたいと思います。
2.超優良企業を割安に買う
第1章は、「安く買って、高く売る」ことに関しての内容となっています。
これは、不況時には、超優良企業が大した理由もなくバーゲン価格で売られたりするため、絶好の投資チャンスとなるということです。
また、バフェットは、自分自身の多くの時間を企業価値を決める作業に費やしているとのことで、次のように書かれています。
彼は、毎日の午前中を、2~3社の決算書や報告書を丹念に読みながら過ごします。お昼を挟んで午後からは、各種の専門誌やレポートを通じて米国や世界の経済・産業動向の把握に余念がありません。
そして、バフェットは投資に値すると判断した企業の株価が十分に割安な水準に低下するまで、何年でも平気で待ちます。
バフェットは、「投資とは、バッターボックスの打者が何回でも見送りをしてもかまわない野球である」と述べています。
そういったこともあり、バフェットは投資家の資質の筆頭に「忍耐力」を挙げており、「投資の利益は忍耐に対する報酬だ」とも言っているのです。
他にも、一流企業を「そこそこ」の値段で買うという考え方をしています。
二流企業や三流企業は、いくら株価が安くても、その価値が突然ゼロになるリスクが高くなるためで、バフェットは新規公開企業に対する投資も基本的に行いません。
さらに、PBR(株価純資産倍率)は少なくとも現在の「バフェット流投資」には意味がない数字だと書かれています。
それは、現代の優良企業は、設備(資産)という重荷を持たない企業が多いためです。
また、不良在庫や、生産が落ち込んで閉鎖を余儀なくされた工場なども、帳簿上は資産となるため、解散価値が高いことが必ずしもプラス評価になるとは言えないのです。
3.銘柄選択の判断基準
第2章は、銘柄選択についての内容となっています。
まず総論として、集中投資と分散投資について次のように書かれています。
バフェットは、中途半端な研究や勉強で個別株の投資に手を出すくらいなら、インデックスファンドに投資をすることを勧めています。
しかし、自ら勉強・研究して投資のパフォーマンスを上げようとする投資家にとって、インデックスファンドが最適な投資対象ではないことは言うまでもありません。
高い運用成績を求めるのなら、素晴らしい結果を望める少数の銘柄に集中して投資すべきです。
その上で、銘柄選択における判断基準として、以下のような項目が挙げられており、それぞれについて説明が加えられています。
- ストックオプションを採用している会社は避けろ
- 「自社株買い」を行っている企業を買え
- 労働組合がないか、会社に協力的な企業を選ぶ
- カリスマ経営者のいる企業は警戒すべき
- 経営陣が定着している企業を選ぶ
- 多額の設備投資や研究開発費が必要な企業には投資しない
- 過去10年間、利益を安定的に稼いでいる企業を選ぶ
- 自分が知らない(理解できない)企業には投資しない
また、投資の際の基準となる各種指標に関しては、次にように書かれています。
バフェットの過去の投資実績や、断片的に発せられるコメントから、PER15倍以下(できれば10倍以下)、ROE12%以上(できれば15%以上)、売上高純利益率10%以上と推測されます。
そして、ROEに関してバフェットは、「投資の際に最も重要視する指標だ」と言っています。
ただし、1年だけROEが高くても意味がなく、たとえば10年間、高いROEを維持し続けて初めて投資対象となるわけです。
ちなみに、ROEに関しては、以下の記事の「4.ROE(自己資本利益率)の有用性」のところでも触れていますので、是非ご参照ください。
ここで紹介している書籍では簡潔に言うと、ROEの水準よりもROEの改善が重要といったようなことが書かれていましたので、ROEの判断に関しては悩ましいところです。
とはいえ、10年もの間にわたって高ROEを維持し続けるというのは、相当に高いハードルであるため、そういった意味では超優良企業にのみ投資するというバフェットの方針とは矛盾がないのかもしれません。
4.安定的な運用を長く続けるための原則
第3章は、安定的な運用を長く続けるための方法についての内容となっています。
その中で、バフェットが師と仰ぐ、ベンジャミン・グレアムによる「防衛的投資家の7原則」について触れられています。
具体的には、以下のような項目が挙げられており、それぞれについて簡単な説明がなされています。
- 適切な規模
- 財政状態が十分に良い
- 最低でも過去20年間、継続的な配当がある
- 過去10年間、赤字決算がない
- 1株あたりの利益が、10年間で最低3分の1以上伸びている(厳密には、初めの3年間と最後の3年間の平均を比べる)
- 株価が、簿価の1.5倍以下
- 株価が、過去3年間の平均収益の15倍以下
ただ、グレアムは第二次世界大戦前、米国がまだヨーロッパから見て発展途上の未成熟な国であった時代の人であるため、配当や簿価についてなど、現代においては多少の修正を要する部分もありそうです。
本章では他にも、企業の借入金に関して、借り入れは悪いことではないが、過大な借金がないかどうかに注意するといったことも書かれています。
具体的には、通常は純利益5年分程度で返済できる範囲の有利子負債を基準として考えるとのことです。
また、年金、退職金債務などの「隠れ債務」にも注意する必要があります。
そして、「目に見えない価値を評価する」とのことで、コカ・コーラやジレット(カミソリ)など、一度確立されたブランドの力は堅牢であり、そういった企業には決算書に記載されている以上の真の価値がある場合が多いといったことも書かれています。
5.投資の考え方・心構え
第4章は、常に勝つやり方とのことで、投資の考え方や心構えのような内容となっています。
企業に関することとしては、ブランド力が強く、政府の規制によらずに、市場を占有している企業を探せといったことが書かれていました。
ただ、本章のその他の項目に関しては、前章までと似たような内容といえます。
第5章では、株式について、企業の経営者という観点から書かれています。
ここで、本章の初めの方では、株式について次のように説明されています。
株式というのは、何の資産的な裏付けもなく、輪転機で勝手に刷られている米ドルや日本円などという通貨と違い、「企業の所有権」という実物資産の担保がついた安全な資産なのです。言い換えれば、会社の株式はマンションの区分所有権と同じようなものです。
しっかりとした選択眼で選んだ会社であれば、安心できる「実物」資産となります。
これらの部分だけでもツッコミどころが満載で、それについて書き出すと長くなってしまうので一つだけ言及するに止めますが、株式は「実物」資産ではなくて「金融」資産です。
言いたいことは分かりますが、誤解を招くような表現であると感じました。
一方で、「ポーター賞」なるものについては参考になりました。
ポーター賞とは、2001年7月に一橋大学大学院国際企業戦略研究科(ICS)によって創設されたもので、次のように定義されています。
製品・プロセス・経営手法においてイノベーションを起こし、これを土台として独自性がある戦略を実行。その結果、業界において高い収益性を達成・維持している企業を表彰する賞(申請があった企業(部門)のみを審査する仕組み)
ポーター賞は、毎年3社前後の企業(部門)が受賞しています。
2003年には、現在世間を騒がせているスルガ銀行が受賞しているのは残念ですが、その他は概ね優良企業ばかりとなっており、銘柄選択の参考になるといえそうです。
6.総括
本書では、一応の章分けはされているものの、章ごとで重複する内容がかなり多く見受けられました。
そういったこともあり、章分けの基準についても曖昧なように感じました。
また、ここでも一部だけを取り上げましたが、誤解を招くような表現、著者の意図を掴みかねるような内容もいくつかあり、読んでいてフラストレーションを感じるものでした。
ただ、もちろん参考になる部分もあったので、バフェット関連の堅い内容の書籍に当たる前の入門書としては、読んでみても良いかもしれません。
- 日本株で成功するバフェット流投資術
- 著者:大原 浩
- 出版日:2012/12/13
- 分類:株式投資、ファンダメンタル分析、ウォーレン・バフェット