読書録・書評

【読書録・書評】『世界のエリート投資家は何を考えているのか:「黄金のポートフォリオ」のつくり方』

ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。

1.書籍の概要

まずは、本書の概要からです。

本書は、アメリカの著名なコーチとして活躍する、アンソニー・ロビンズが、世界のエリート投資家にインタビューを行い、そのエッセンスをまとめた内容となっています。

本書の最大の目玉は、世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーターを率いる、レイ・ダリオが、一般の個人投資家向けにアレンジしたポートフォリオ、すなわち配分資産や配分率になります。

本書は、原著を【実践編】と【証言編】の2冊に分けて翻訳された内の、【実践編】の方になりますが、章立てとしては、以下のようになっています。

  • 第1章:「マネー・ゲームに勝つ」ための原則
  • 第2章:この「9つの神話」にだまされるな
  • 第3章:自分の夢の「実現コスト」はいくらか?
  • 第4章:人生において一番大切な「投資」の決断
  • 第5章:どんな経済下でも確実に利益を出せる「黄金のポートフォリオ」

ここでは、本書の中で気になった部分や参考になった部分について、一部を抜粋しながらレビューしていきたいと思います。

2.お金に対する考え方

第1章の前半は、本書の概要について、後半はお金との付き合い方やお金に対する考え方などについてとなっています。

中でも、本章の第3節では、「早くからお金を積み立てる」ことの大切さや、超有名スターたちが莫大な負債を抱えたり破産してしまったりした例から、「高額所得者でも安心できない」といったことが書かれています。

また、本章の第4節「お金をコントロールする人、お金にコントロールされる人」では、ドイツ1位の大富豪が、その座を失うことに耐え切れず自殺してしまった例などが書かれています。

そして、同じ節の「「究極の充実感」を得るためにお金とどう付き合うか」という項の中に、とても共感できる内容が書かれていたので、以下に一部を抜粋してご紹介したいと思います。

真の充実感は他人を助けるために貢献することでのみ、得られる。

どんなに巨額の富を築いても、そのこと自体で充実感を得られることはあまりない。それは、「究極の充実感」とは外的要因ではなく、内的要因から生まれるからだ。

充実感とは他人が与えてくれるものではなく、「自尊心」から生まれるものだ。大事なのは他人の褒め言葉(美しい、賢い、頭脳明晰、ベスト)や批判(地球上最悪の人)ではなく、自分自身をどう評価するかだ。心の中で、「究極の充実感」を得られるか否かは、「多少辛くても、自分は努力して成長し続けている」と考えられるかどうかによるのだ。

こういったことは、まさに世界ナンバーワン・カリスマコーチとして知られる著者だからこそ書けるものだといえます。

3.金融システムは地雷だらけ

第2章は、金融に対する無知や、金融機関などを信用することの危険性に対して、警鐘を鳴らすような内容となっています。

本章の第1節は、アクティブ運用とパッシブ運用についての内容で、次のようなことが書かれています。

長期で見ると、実に96%のアクティブ運用ファンドが、市場平均より低い利益しか出せていない。

天才投資家として名高いウォーレン・バフェットも、「素人が市場平均を負かそうと、個別株を選んだり、買うタイミングを計ったりするべきではない」という。有名な2014年の株主向けレターで、「自分が死んだら、遺産は妻名義の信託に入れ、インデックスにだけ投資させる。そうすれば、最低コストで最大利益を得られるからだ」と説明した。

バフェットは、「投資のプロは市場平均に勝てない」と固く信じており、その信念に従って投資している。

一方で、このように語っているバフェット自身がアクティブ運用を行っているのは紛れもない事実です。

とはいえ、投資に十分や時間・労力をかけ続ける余裕や覚悟のない人にとっては、インデックスファンドにだけ投資するパッシブ運用が最適・最善であるというのは間違いないでしょう。

次にですが、本章の第2節は運用ファンドの手数料についての内容で、次のようなことが書かれています。

投資信託の所有者は、平均で年率3.17%もの手数料や費用を払っているのだ!

手数料が1%違うだけで「運用額」に大差が生まれる。

そして、「投資にかかる年経費は1.25%以下に抑えること」という項の中で、次のような記述があります。

たとえば、登録投資助言者に手数料として1%を払い、低コストのインデックスファンド(例:バンガード)に0.20%を払うと、合計は1.2%となる。

この投資助言者に関しては、本章の第4節にある次の訳注が参考になります。

顧客との間で投資助言契約を結び、顧客である投資家から手数料をもらうのが投資助言者で、Independent Financial Adviser<IFA>と呼ばれる。

米国では投資家が自分でIFAにお金を払い、自分にとってのベストのファンドや株、債券、保険等の金融商品を選んでもらうが、日本では投資家も「金融サービスは銀行、証券会社、保険会社等から無料で受けられるもの」というカルチャーが強く、結果として不必要な商品、手数料が高い商品を買わされている。

確かに日本では、IFAのような専門家にお金を払って運用の相談をするという風潮はあまりありません。

しかし、IFAに年間1%もの手数料を毎年払うくらいであれば、多少の労力を費やして、信託報酬(運用管理費用)の低いETFに投資したほうがいいのではないかと思わなくもありません。

続いて、本章の第6節では、最も急成長している商品分野であるTDFについての内容です。

「ターゲット・デート・ファンド(TDF)」または「ライフサイクル・ファンド」と呼ばれるファンドは、401(k)プランの選択肢の中でも最も手数料が高く、最も大々的に宣伝される投資商品だ(例外は、バンガードの超低料金TDFだ)。

このTDFの仕組みについては、次のように書かれています。

退職する年が近づくにつれて資産配分を保守的にするため、「損益リスクの高い株式の比率を下げ、リスクの低い債券の比率を逆に上げる」「ポートフォリオの安全着陸経路」をファンド・マネジャーが決める。

このTDFは、「債券は安全」、「株式と債券は逆の値動きをする」という前提に立っていますが、実際にそうなるとは限りません。

株と債券はある程度、似た値動きをし、特に不況時には値動きが酷似してくる。

つまり、ターゲット・デートに向けて債券の比率を高めたからといって、ポートフォリオが安全になるというわけではないのです。

また、世界的に低金利、すなわち国債などが高値圏にある現在の状況では、そもそも債券が安全な資産であるとは言えないでしょう。

4.各種資産および資産配分

第4章は、具体的な資産や資産配分についての内容です。

資産配分については、次のように書かれています。

「資産配分」とは、単に分散投資することでない。投資目標、リスク許容度、ライフステージに合わせて、タイプやクラスの異なる商品(例:株、債券、商品、不動産)にどんな比率で資産を投資するか、事前に決めることだ。

そして本章では、資産を「安定/安心バケツ」と「リスク/成長バケツ」の2つに分けて解説しています。

それぞれのバケツの考え方については、以下のように書かれています。

「安定/安心バケツ」は損失リスクが低く安全だが、成長が遅いので退屈な投資と言える。ただし、必要とする時には、必ずそこにある。

「リスク/成長バケツ」はもっと早く成長するのが魅力だが、リスクは高く、投資した全額を失ってもいい覚悟が必要だ。

また、それぞれのバケツに入る資産として次のようなものが挙げられています。

  • 「安定/安心バケツ」:現金、債券、定期預金(CD)、自宅、年金、年金保険、生命保険、仕組み債
  • 「リスク/成長バケツ」:株式、ハイイールド債、不動産(実物不動産投資や不動産投資信託(REIT))、商品取引、為替取引、収集品(芸術品、ワイン、コイン、自動車、骨董品など)、仕組み債

仕組み債に関しては、両方のバケツに入れられていますが、性質の異なるものがそれぞれのバケツのところで挙げられています。

ただ、仕組み債については検討する必要性は低いと考えています。

こういったやや仕組みが分かりにくい商品というのは、一見して有利なように見えたとしても、いざという時に極端に流動性が低くなったり、大きな損失を被ってしまったりしかねないためです。

そして、これら2つのバケツを補足するものとして、「夢バケツ」というものも挙げられています。

この「夢バケツ」については、次のように書かれています。

「夢バケツ」は、一生懸命に財産を築きながらも、自分と家族がエンジョイするための貯金だ。

資産を安全に成長させることも確かに大事だが、人生を楽しみ、社会に貢献して、経済的自由までの人生の道のりを精一杯生きることを忘れてはいけない。夢にはそれなりの大切な役割があるのだ。あまり節約ばかりに執着しすぎるのもよくない。

また、本章の第2節では、長期にわたり高いリターンを上げ続けている、エール大学財団のデイビッド・スウェンセンが個人投資家に勧める資産配分の具体例についても書かれています。

その資産配分は以下のようなものになります。

米国内株:20%、外国株:20%、エマージング・マーケット:10%、不動産投資信託(REIT):20%、長期米国債:15%、米国物価連動国債(TIPS):15%

このポートフォリオを過去の相場で検証したところ、市場平均よりも安定していて、利回りも高かったとのことです。

ただ、2008年の大不況時には、S&P500の37%下落ほどではないものの、このポートフォリオでは31%の下落が想定されたことから、著者はこのポートフォリオは野心的なものであると言っています。

それは、多くの人にとって、それだけの大きな損失に耐えられるほど、リスク許容度が高くないからで、加えて、心の平安を保つことがとても大事だとも言っています。

そして、本章の第4節は、投資の「タイミング」についての内容で、「マーケットのタイミングを計れると考えるのは、大きな間違いだ。」と書かれています。

その中では、バフェットの「育ての親」と目され、コロンビア大学教授でもあったベンジャミン・グレアムが推奨した「ドル・コスト平均法」について触れられています。

「ドル・コスト平均法」は、長期間にわたり、一定額を定期的に投資する手法で、マーケットのタイミングを計ることによる「最悪のミス」を回避できる。

「ドル・コスト平均法」は、感情に左右されて、自分の資産配分プランを台無しにするミスを避けられる。「株価が高すぎる」と考えて投資の時期を遅らせたり、一時的に利回りが下がったのでイラついて売り払うといったミスを、だ。

欲望であれ恐怖であれ、投資で損失を被る最大の原因となる「感情」を排除するのが「ドル・コスト平均法」の目的だ。

「ドル・コスト平均法」は、決して最善ではないものの、投資に時間や労力をかけたくないという多くの人たちにとっては、確かに最適な手法であるといえます。

また、本節では、「リバランス」についても触れられています。

リバランスというのは、配分資産や資産配分比率を見直したり、その比率に応じて資産を再配分することをいいます。

このリバランスについては、次のように書かれています。

リバランスで利益が常に保証されるわけではないが、利益を出して成功する確率を上げてくれるのは確かだ。洗練された投資家は、長期投資で利益を出す確率を上げるために、たとえどんなに苦痛であっても、市場内や資産クラス内でも必ずリバランスする。

リバランスの頻度については、年に1~2回行うのが一般的ですが、上昇基調の波に乗ることを好むバートン・マルキールは次のように言っています。

リバランスは年1回だけでよい。価格が上昇したからといって、売る必要はない。好調の資産クラスには、最低でも1年間の価格上昇のチャンスを与えるべきだ。

5.オール・シーズンズ戦略

いよいよ第5章では、本書の最大の目玉である、レイ・ダリオによる個人投資家向けポートフォリオの具体例についての内容が書かれています。

レイは、経済を次のような4種類の季節に分けて、その組み合わせで投資価格が上下すると考えます。

  • 想定インフレ率より高い
  • 想定インフレ率より低い
  • 想定成長率より高い
  • 想定成長率より低い。

また、レイは次のように言っています。

経済の季節は4つしかないから、各季節に適した資産配分に25%ずつ投資して、リスクを分散すればいい。どの資産クラスにも好環境と悪環境がある。一生のうちには、どの資産クラスにも必ず壊滅的な状況に陥ることがあるのは、歴史的に証明されている。

リスクが同量の4つのポートフォリオを組み合わせれば、どんな経済的環境からも守られる。

以上を踏まえた上で、レイ・ダリオが勧める具体的な資産配分率は次のようなものになります。

  • 株式:30%(多様化のため、S&P500か、他のインデックスファンドを使う)
  • 長期米国債:40%(20~25年満期)
  • 中期米国債:15%(7~10年満期)
  • 金:7.5%
  • 商品取引:7.5%

このポートフォリオに関して、以下のような補足がされています。

債券比率が高いのは、株式の変動リスク(債券の約3倍)を軽減するためだ。金額を均等にするのではなく、リスクを均等にするのだ。長期国債の投資比率を高めることで、利回りを高められる可能性がある。

金と商品取引は、インフレが加速した時に価格が上昇しやすい。両方とも変動幅は極めて大きいが、インフレ加速時には下落しやすい株式、債券のリスク軽減に役立つ。

最低でも必ず年1回はリバランスしなければならない。成長が大きかった分野の一部を売却し、オリジナルの配分比率に戻すのだ。適切に処理すれば、節税効果もあるはずだ。

そして、このポートフォリオを1984年から2013年までの30年間で検証した仮想実績について、次のように書かれています。

  • 年利回りは、9.72%(手数料控除後)
  • 損失が出たのは4年だけで、その4年間の平均損失は年率1.9%
  • 最大損失は、2008年の-3.93%(同年のS&P500は、-37%)
  • 標準偏差は、わずか7.63%(低リスク・低変動幅を示唆する)

まさに驚異的なパフォーマンスとなっていますが、このポートフォリオでは、債券への配分比率が高いため、「利率が上がって債券が下落したらどうなるのか」ということについても書かれています。

それによると、急激なインフレが生じた1970年代を例に挙げて、次のように書かれています。

急激な金利引き上げにもかかわらず、オール・シーズンズ戦略は1970年以来、損失を出したのはわずか1年だけで、1970年代の10年間の平均利回りは9.68%だった。

6.検証と総括

さて、ここではその1970年代に各資産が実際にどういった動きをしたのかを見てみたいと思います。

まずは、米国10年国債利回りの長期推移を示した、以下の図をご覧ください。

米国10年国債利回りの長期推移を示した図

この図から、1970年代の後半に、米10年債利回りが大きく上昇していたことが分かります。

利回りが大きく上昇したということは、米10年国債の価格は大きく下落していたことになります。

ここで、米10年国債ではないのですが、それよりも長期の米30年国債については、1977年9月以降の価格推移のデータがありました。

そこで、1977年9月以降の米30年国債の価格推移を、NYダウや金先物の価格推移とともに示したのが以下の図です。(青い点線で示してあるのは、米30年国債利回りの推移です。)

なお、この図では、各資産の1977年9月末時点の価格を100として、それぞれの推移を示しています。

1977年9月以降の資産別の価格推移を示した図

すると、この図から、1980年の春頃までに債券価格が開始時点と比べて、4割近くも下落していることが分かります。

一方、その期間において、NYダウはほぼ横ばいですが、金先物価格は4倍前後にまで大きく上昇していることも見て取れます。

ですから、前述したオール・シーズンズ戦略のポートフォリオにおける、1970年代の急激な金利上昇による債券価格への悪影響は、株式ではなく、金や商品取引によって救われたのではないかと考えられます。

しかし、次に債券価格が大きく下落したときに、他の資産がまたそれを補ってくれるとは限りません。

特に近年では、各資産間の相関性が強まってきていることも指摘されています。

確かに、長期米国債は1980年代半ば以降、長きにわたって概ね上昇傾向をたどってきました。

ですが、最近の2018年1月31日にグリーンスパン元FRB議長が、TVのインタビューで「現在2つのバブルがある。株式市場のバブルと債券市場のバブルだ」と語ったように、現在の長期米国債は間違いなく高値圏にあるといえます。

それは、上で示した米10年債利回りの長期推移を見ても分かるように、現在の米長期金利がまだまだ歴史的な低水準にあることからも明らかです。

このような状況下では、ポートフォリオの債券比率を高くすることが果たして正しいことなのかといった疑念を抱かざるを得ません。

ではどうすればいいのかですが、これについて書き始めるとそれこそ本の1章や2章分だけでは済まないような分量となってしまいます。

それでも誤解を恐れず端的に言うとしたら、現金比率を高め、株式や債券などが調整した際に、リバランスを行っていくといったことに尽きるでしょう。

少し話が逸れてしまいましたが、本書ではここでご紹介した以外にも、示唆に富むような話が散りばめられており、投資の指南書としてだけでなく、単純に読み物としても面白い内容となっていました。

350ページ以上と分量は多いのですが、投資の初心者から上級者まで何らかの気付きを得られるような内容となっているのではないでしょうか。

 

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