ここでは、原油価格と期待インフレ率との関係性について見ていきます。
原油から精製された石油は、自動車・航空機の燃料や、プラスチックのような合成樹脂の原料など、幅広い用途に用いられています。
そういったことから、原油価格というのは、インフレやデフレといった物価変動に大きな影響を及ぼしてきます。
ですから、その物価変動の予測値である期待インフレ率を見ていくことは、原油価格の先行きを占う上で有用だと思われます。
1.期待インフレ率とは?
まずは、期待インフレ率とは何かについてです。
期待インフレ率というのは、予想インフレ率ともいわれ、将来に予測される物価上昇率のことになります。
この期待インフレ率は、一般にブレーク・イーブン・インフレ率(BEI:Break Even Inflation rate)で示されます。
そして、ブレーク・イーブン・インフレ率(以下、BEI)は、簡易的には長期金利から実質金利を差し引くことで算出され、以下のような式で表されます。
ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)=長期金利-実質金利
ここで、一般に長期金利には10年国債利回りを用い、実質金利には10年物物価連動国債の利回りが用いられます。
なお、物価連動国債については、次の項で詳述します。
このように、BEIは長期金利や実質金利といった、現時点での市場金利から算出されるわけですが、それがどうして将来の予測値になるのかといった疑問が生じてくるかもしれません。
それは、例えば3ヵ月や1年などといった短期金利ではなく、10年などの長期金利を用いるところに答えがあります。
短期金利は、中央銀行の金融政策によって決定される政策金利の影響を強く受けます。
それに対し、長期金利は政策金利の影響よりも、景気や経済の将来の見通しや、将来の物価変動予測の影響というのを強く受けます。
そのため、上記のBEIの計算式から、将来の予測値である期待インフレ率が推計できるというわけなのです。
2.物価連動国債とは?
次に、BEIの算出に用いられる、物価連動国債についてです。
物価連動国債というのは、その名の通り元金額が物価変動に応じて増減するというもので、物価の指標にはコアCPIが用いられます。
CPIというのは、消費者物価指数のこととで、消費者が購入するモノやサービスの価格を指数化したもので、「経済の体温計」とも呼ばれます。
日本のCPIには、全てのモノやサービスを対象とした総合指数、そこから生鮮食品を除いたコアCPI、食料(酒類を除く)とエネルギーを除いたコアコアCPIなどがありますが、このうちのコアCPIが使われるのです。
ここで、株式や不動産はインフレ(物価上昇)に強いとされるのに対し、債券はインフレに弱いとされます。
インフレ(物価上昇)になると、一般に金利(債券の利回り)も上昇しますが、それはすなわち債券価格の下落を意味するためです。
しかし、物価連動国債においては、インフレになってもそれに応じて元金額や利子が増加するため、インフレへの抵抗力があるといえます。
しかも、デフレになっても額面金額での償還は保証されており、一見するととても魅力的な金融商品のように思えます。
ただ、この額面金額での償還が保証されているとはいっても、物価連動国債を購入する際の発行価格が、額面金額を大きく上回っている場合には注意が必要です。
仮にデフレが長く続いてしまった際には、額面金額での償還額に、償還までの保有期間中の利子を加えても、投資額を下回ってしまう場合があり得るからです。
また、インフレとはならずに金利だけが上昇するような場合もあります。
例えば、国家財政への信用不安から金利が上昇するような場合などがそれに当たります。
ですから、決して物価連動国債が万能というわけではありません。
そして余談ですが、国債で金利上昇にも備えたいというのであれば、10年満期型変動金利の個人向け国債を購入するという手もあるかもしれません。
変動金利型の個人向け国債では、金利上昇に対応できるのはもちろん、0.05%という金利の下限が設定されており、元本も保証されているためです。
ただ、適用利率は「長期金利×0.66」として算出されるため、金利の急騰局面や高金利下では不利な商品となってしまうのも事実です。
変動金利型の個人向け国債は、あくまで保守的な投資家にとっては、分散投資対象の一つとして検討してもみてもいいかもしれないといった程度でしょうか。
3.WTI原油価格とブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)
さて、それではBEIとWTI原油価格について見ていくことにします。
その前に、BEIの算出のもととなる、米10年国債利回りと10年物物価連動国債の利回りの2003年1月以降の推移を示したのが以下の図になります。
そして、同期間における、WTI原油の先物価格とBEIとの推移を示したのが以下の図です。
この図を見ると、WTI原油先物価格とBEIとはよく相関していることが分かります。
実際、この図の全期間における両者の相関係数は約0.38ですが、2008年1月以降に限ってみると約0.74と強い相関を認めています。
またこの図からは、WTI原油先物価格は、概ねBEIを中心として上下に乖離するような形で推移しているように見えます。
そういった観点からすると、WTI原油先物価格には、BEIとの乖離を縮小する方向、すなわち上昇する余地というのがまだまだあるように思われます。
よろしければ、原油相場について書いた、以下の記事もご参照ください。