相場のデータ・指標

信用取引残高(信用残)の意外な検証結果と新たな指標!

1.信用取引とは?

信用取引残高について書く前に、信用取引についてある程度のことを知っておく必要があるため、まずは信用取引について書いていきたいと思います。

信用取引とは、証券会社から株式や資金を借りて行う取引のことで、それにより証券会社に差し入れた現金(委託保証金)の約3倍と元手以上の売買を行うことができます。

この信用取引には、制度信用取引一般信用取引の2種類があります。

制度信用取引では、どの証券会社でも証券取引所によって定められた規定に沿って取引が行われるのに対し、一般信用取引では個々の証券会社の裁量で対象銘柄や取引の規定が設定されます。

制度信用取引で、空買い(信用買い)のみできる銘柄は制度信用銘柄、空買いも空売り(信用売り)もできる銘柄は貸借銘柄と呼ばれます。

一方、一般信用取引では、制度信用銘柄以外の銘柄もほとんどを空買いすることができますが、空売りに関しては扱っている証券会社やその対象銘柄がかなり限られています。

一般に信用取引と言った場合には、主に制度信用取引のことを指しますが、この制度信用取引には6ヵ月の決済期限があり、その期間内に反対売買をしなければならないのです。

そのため、信用取引の買残高が多ければ、それは将来の売り圧力となり、逆に信用取引の売残高が多ければ、それが将来の買い圧力につながるという見方がされます。

このように、信用取引の売買状況を知ることが、相場状況を把握する一つの目安となります。

そして、信用取引の売買状況を見る指標の一つに信用取引残高というものがあるのです。

2.信用取引残高とは?

信用取引残高というのは、まだ決済されずに残っている信用取引の株数や金額のことで、信用買い残高と信用売り残高とがあります。

信用取引残高(以下、信用残)のデータは、東証・名証・2市場計のものが、日本取引所グループより公表されています。

また各市場ごとに、一般信用取引と制度信用取引と分けて集計されたものが毎週第2営業日(通常は火曜日)に、委託と自己とに分けて集計されたものが毎週第3営業日(通常は水曜日)に、ともに前週末時点のものが公表されています。

それでは早速、2002年8月からの信用残の推移を見ていきたいと思いますが、信用残には、金額ベースのものと株数ベースのものがありますので、まずは金額ベースのものから見ていきます。

3.信用残(金額ベース)

まず、信用売り残高(以下、売残高)と信用買い残高(以下、買残高)の推移を示したのが下図になります。

信用残(金額)の推移(2002年8月~)

そして、売残高(金額)と買残高(金額)をそれぞれ日経平均株価の推移と比較していきますが、売残高の方を示したのが以下の図です。

売残高(金額)と日経平均株価の推移(2002年8月~)

この図からは一般に言われるように、売残高が多いことが将来の買い圧力につながるといった傾向があまり見られないことが分かります。(相関係数:0.26

次に、買残高(金額)の方と日経平均株価の推移を示したのが下図になります。

買残高(金額)と日経平均株価の推移(2002年8月~)

この図においては、買残高(金額)と日経平均株価との間に割りと強い相関を認めています(相関係数:0.67)。

ただ、この買残高においても、その金額が大きければ、それが将来の売り圧力につながってくるのかは微妙なところです。

また、ここ数年は、売残高と買残高ともに日経平均株価の推移との間に乖離が生じていることから、信用取引よりも現物取引の影響が大きくなっていると考えられます。

4.信用残(株数ベース)

次に、株数ベースでの信用残について見ていきます。

信用残(株数)の推移(2002年8月~)

株数ベースでの信用残は、金額ベースでの信用残と似たような動きをしていますが、ここ1年くらいは、逆の動きとなっています。

つまり、金額ベースでは信用残が増加しているにもかかわらず、株数ベースでは減少していることから、直近においては信用取引に占める値嵩株(株価の高い株)の割合が大きくなっていると推測されます。

そして、株数ベースでの信用残についても、売残高と買残高とを日経平均株価の推移と比較してみますが、まず売残高の方を示したのが下図になります。

売残高(株数)と日経平均株価の推移(2002年8月~)

株数ベースでの売残高は、ここ数年はほぼ横ばいとなっており、相関係数は-0.22となっています。

次に、株数ベースでの買残高と日経平均株価との推移を示したのが以下の図です。

買残高(株数)と日経平均株価の推移(2002年8月~)

金額ベースでの買残高では、日経平均株価との間に割と強い相関を認めていましたが、株数ベースでの買残高では、相関係数は0.34と弱い相関となっています。

以上のように、金額ベースと株数ベースでの信用残についてそれぞれ見てきましたが、株数ベースでの信用残は金額ベースでのものに比べて特徴に乏しく、金額ベースでの信用残についてのみ見ていけば十分だと思われます。

考えてみると、投資を行う際に大きく関係してくるのは、株数ではなく資金量や資金余力であり、これはもっともな結果だといえます。

そのため、ここからは金額ベースでのみ考察していきます。

5.信用倍率(金額ベース)

さて、信用取引の売買状況を見る指標の一つに、信用倍率というものがあります。

信用倍率は、貸借倍率や信用取組倍率などといわれることもありますが、これは以下の式で算出されます。

信用倍率=買残高(金額)/売残高(金額)

この信用倍率が高くなると、将来の売り圧力が高まっているという見方がされます。

これは、一般に信用取引の買残高が多ければ将来の売り圧力となり、逆に信用取引の売残高が多ければ将来の買い圧力につながるというのと同じ考え方になります。

そして、信用倍率と日経平均株価との推移を示したのが以下の図です。

信用倍率(金額)と日経平均株価の推移(2002年8月~)

この図を見ても分かるように、信用倍率は2013年頃より大きく上下するようになり、ここ1年ほどは動きが落ち着いてきています。(相関係数:0.50

これは、一番初めの信用残(金額)の推移の図を見ると分かりますが、信用倍率を算出する際の分母に当たる売残高が1兆円を大きく下回って推移している間に買残高が上昇し、その動きが増幅されたためといえます。

直近においては、その分母の売残高が1兆円前後まで上昇してきたため、信用倍率が落ち着いた動きになってきているというわけです。

そして、この信用倍率においても一般にいわれるような、信用倍率が高くなると将来の売り圧力が高まるといった傾向があるようには見えません。

6.信用差額

そこで、倍率がダメならということで、信用取引の売買差額を日経平均株価の推移と比較してみました。

なお、信用差額というのは正式な言葉ではなく、ここでは便宜上使っているだけのものに過ぎませんが、以下の式で算出しています。

信用差額=買残高(金額)-売残高(金額)

そして、信用差額と日経平均株価との推移を示したのが以下の図になります。

信用差額と日経平均株価の推移(2002年8月~)

この信用差額の推移は、信用倍率の推移と比較して、大分見やすくなったことが分かります。

また、日経平均株価と信用差額との相関係数も0.70と、ここまでで最も相関の強かった金額ベースでの買残高(0.67)よりも若干高くなっています。

7.信用残まとめ

最後に繰り返しになりますが、一般に信用取引の買残高が多ければ将来の売り圧力となり、逆に信用取引の売残高が多ければ将来の買い圧力につながるといった見方がされます。

金額ベースでの買残高で見た際にはそういった傾向が読み取りづらかったのですが、最後に取り上げた信用差額で見てみると、相関係数も高く、そういった傾向があるようにも見えます。

というのも、信用差額の図における赤い点線で示した3兆円前後の水準が、日経平均株価の目先の天井を示唆しているようにも見えるからです。

そうなると、直近において信用差額は2兆円程度に過ぎず、日経平均株価にはまだまだ上値余地があるといえます。

ただ、もちろん信用取引のデータだけで相場を語ることには限界があります。

そして直近においては、信用残と日経平均株価の推移との間で乖離が大きくなっているように、現物の買いが大きく膨らんでいると推測されます。

ですから、信用差額の推移もあくまで参考ではありますが、今後、信用差額が3兆円水準まで上昇した際には、警戒する必要がありそうです。

また、信用取引だけでなく、現物取引の売買データも含んだ統計である、投資部門別売買状況(投資主体別売買動向)も参考にするといいでしょう。

なお、投資部門別売買状況(投資主体別売買動向)については、以下の記事で詳しく書いていますので、よろしければご参照下さい。

 

 

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