プット・コール・レシオについて書いていく前にまずは、プットとコールとは何かについて書いていきたいと思います。
Contents
1.プットとコールとは?
プットやコールというのは、オプション取引に出てくる種別のことです。
オプション取引では売買する権利を取引するのですが、プット・オプションは売る権利、コール・オプションは買う権利になります。
ここではオプション取引はメインテーマではありませんが、念のためオプションの定義について書いておきます。
ただ、なかなか言葉では理解しづらいものですので、仮に理解できなくても後に挙げる図を見ながら読んでいただければ、この記事で取り上げるプット・コール・レシオについて理解するのには問題ないかと思われます。
さて、オプションの定義ですが、特定の商品(原資産)を、あらかじめ定められた期日(満期日、権利行使日)またはそれまでの期間中に、あらかじめ定められた価格(権利行使価格)で売買する権利のことをオプションといいます。
原資産とはオプションの対象物のことであり、原資産には株式、株価指数、債券、商品先物、為替など様々なものがあります。
そして、売買する権利のうち、買う権利がコール・オプション、売る権利がプット・オプションというわけです。
2.プットとコールの損益図
コールとプットには、それぞれについて買いと売りが存在するため、大きく分けると以下のように4通りの損益グラフに集約することができます。
オプション取引は権利の売買ですが、オプションの買い手はプレミアムと呼ばれるオプション価格を支払ってこの権利を得るのに対し、オプションの売り手はプレミアムを受け取ってこの権利を売ることになります。
あくまで権利の売買なので、買い手は権利を行使することで損失が出てしまう場合には、権利を行使せずに消滅させればよいので、最大損失は購入時のプレミアムに限られます。(上図における、コールの買いおよびプットの買い)
そのため上図のように、オプションの買いでは大きな利益の可能性がある一方で、損失は限定されています。
逆に、オプションの売りでは利益は限定される一方で、非常に大きな損失を被ってしまう可能性があります。(上図における、コールの売りおよびプットの売り)
これだけ聞くと、オプションの売りは不利な取引のように思えますが、実は使い方次第ではとても有効なものとなり得ます。
オプションの売りを使った戦略などについてはまた別の機会に書いてきたいと思いますので、ここでは本題に戻ります。
3.プット・コール・レシオとは?
前置きが長くなってしまいましたが、ようやくここからがプット・コール・レシオについてです。
プット・コール・レシオ(PCR:Put-Call Ratio)は、プット・オプションの建玉残高(未決済の取引残高)をコールの建玉残高で割ることで算出されます。
PCR=プットの建玉残高/コールの建玉残高
この式からも明らかなように、プットの建玉が増加するとPCRは上昇します。
プットが増加するということは、上のプットの買いの図を見て分かるように、相場の先行きに対して弱気な見方が増えていることを示していると言えます。
逆に、相場の先行きに対して強気な見方が増えてくると、コールの買いが増加し、PCRは低下することになります。
4.PCRと日経平均株価の推移と見方
では実際に、2006年1月以降の日経平均株価とPCRの推移を見ていきたいと思います。
PCR(建玉残高)と日経平均株価の推移(2006年1月~)
この図からは、PCRは日経平均株価と概ね連動しているように見え、相関係数を調べてみると、約0.43と強くはないものの相関があることが分かります。
また、過去10年ちょっとの期間で、PCRは大体1~1.5の間で推移していることが見て取れます。
さらには、PCRが1前後のときは日経平均株価における目先の底値圏を、PCRが1.5前後の時は目先の天井圏を示していると言えそうです。
つまり、強気や弱気といった相場への見方が一方に偏ることで、それが相場反転のサインとなるというのが、ここでのPCRの考え方になるでしょう。
そして、直近ではPCRが1.5に迫ってきていることから、過去の動きからすると日経平均株価は目先の天井圏にあるのかもしれません。
5.PCRの限界
ここで、上記のPCRの建玉残高というのは、日本取引所グループ(JPX)で公表されているデータをもとにしています。
ただ、実はこのデータには、オプションの買いだけでなく売りも含まれています。
再び上記の4通りの損益グラフを参考にしていただきたいのですが、例えば相場の先行きに対して弱気な見方をしていれば、プットの買い以外に、コールを売りという選択肢もあるのです。
逆に相場の先行きに対して強気な見方をしていれば、コールの買い以外にプットの売りという選択肢もあります。
しかし、ここでのオプションの建玉残高のデータには、買いも売りも含まれてしまっています。
つまり、例えばプットの建玉残高には、プットの買いとプットの売りの両方が含まれ、投資家の強気の相場観と弱気の相場観とが入り混じってしまっているのです。
6.もう一つのPCR
そして、こうしたJPXが公表するオプション取引データの限界に着目し、別な観点から算出されるのが、カバードワラントのPCRになります。
カバードワラントというのは、オプション取引の一種で、コールの買いやプットの買いを証券化したものです。
つまり、カバードワラントのPCRでは、オプションの買いのみのデータを用いたPCRを見ることができ、こちらに関してはeワラント証券のホームページで2006年1月以降のデータが公表されています。
また、カバードワラントのPCRでは、前述のPCRとは計算方法も異なり、以下の式のように建玉残高ではなく売買金額が用いられます。
カバードワラントのPCR=プットの売買金額(5日移動平均)/コールの売買金額(5日移動平均)
7.カバードワラントのPCRと日経平均株価
では実際に、2006年1月以降の日経平均株価とPCR(カバードワラント)の推移を見ていきます。
PCR(カバードワラント)と日経平均株価の推移(2006年1月~)
この図からは、日経平均株価の目先の底でPCRが上昇していることが見て取れ、ここでも相関係数を調べてみると、約-0.3と弱い逆相関がありました。
逆相関ということは、カバードワラントのPCRは日経平均株価が下落すると上昇する傾向があるということで、JPXの建玉残高によるPCRとは逆の動きをするということになります。
ただ、このカバードワラントのPCRに関して、2008年のリーマンショックによる下落時よりも、2016年6月の英国ショック(英国のEU離脱)による下落時などの方が、PCRが大きく上昇しているということには違和感を感じます。
こういった指標では、相場の調整が大きいほどそれに対する反応も大きくなるのが一般的だからです。
ですから、このカバードワラントのPCRについては、どの数値まで上昇したらという具体的な数値は挙げづらいのですが、大きく上昇した場合には日経平均株価の目先の底を示唆しているということが言えそうです。
8.その他のPCR
なお、参考までにですが、JPXでは建玉残高の他にも、プットとコールの取引高や取引金額についてのデータも公表されていますので、最後にその両者をもとにしたPCRについても見ていきたいと思います。
それぞれの計算式は以下のようになります。
- PCR(取引高)=プットの取引高/コールの取引高
- PCR(取引金額)=プットの取引金額/コールの取引金額
まずは前者の方からです。
PCR(取引高)と日経平均株価の推移(2006年1月~)
この図における両者の相関係数はほぼ0であり、相関がありませんでした。
次に後者のPCR(取引金額)に関してです。
PCR(取引金額)と日経平均株価の推移(2006年1月~)
こちらに関しては、相関係数が約-0.26と弱い逆相関がありましたが、PCRの振れ幅が大きく、実際に使いこなすのは難しそうです。
9.PCRのまとめ
以上、様々なPCRについて見てきましたが、それらをまとめると、日経平均株価の目先の天底の判断には建玉残高のPCRが参考になりそうです。
具体的には、PCR(建玉残高)が1前後のときは日経平均株価における目先の底値圏を、PCR(建玉残高)が1.5前後の時は目先の天井圏を示唆しているという見方になります。
また、特に目先の底の判断材料としては、カバードワラントのPCRの大きな上昇も参考になり、建玉残高のPCRと併せて見ると良いでしょう。