1.米証券取引委員会(SEC)への報告書提出義務
今回は、ヘッジファンド界の帝王とも呼ばれるレイ・ダリオ氏が率いる、世界最大級のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツの2021年6月末時点でのポートフォリオについて見ていきたいと思います。
ちなみに、レイ・ダリオ氏に限りませんが、著名投資家たちのポートフォリオを知ることができるのには理由があります。
これは、米国では運用資産が1億ドル以上の機関投資家は、四半期ごとに証券取引委員会(SEC)への報告書提出が義務付けられているためです。
この報告書は、SECのホームページから閲覧することができ、著名投資家たちのポートフォリオの保有銘柄や株数などを知ることができるのです。
ただ、各四半期末から45日以内が報告書の提出期限であることから、公開されたポートフォリオが最新のものであるとは限らない点には注意が必要です。
また、公開されるのは、米国上場株および、ロングポジションのみとなっています。
さて、各四半期から45日以内が提出期限ということから、2月中旬、5月中旬、8月中旬、11月中旬に報告書が更新されることが多くなります。
つまり、8月中旬には、著名投資家たちの6月末時点でのポートフォリオが数多く公開されていたというわけです。
2.ブリッジウォーター・アソシエイツのポートフォリオ
それでは早速、ブリッジウォーター・アソシエイツの2021年6月末時点でのポートフォリオを見ていきます。(図では、組み入れ比率の上位22銘柄を示しています。)
また、この四半期前の2021年3月末のポートフォリオを示したのが下図になります。
この両者を比較してみると、依然として組み入れ比率トップではあるものの、SPY(SPDR S&P 500 ETF)を大きく減らしていることが見て取れます。
その代わりとして、SPYとほぼ同じ構成銘柄のIVV(i シェアーズ・コア S&P 500 ETF)をいくらか買い増していますが、これはIVVの信託報酬が0.03%と、SPY(同0.09%)よりも低いためと思われます。
そして、その差分を埋めるようにして、WMT(ウォルマート)やPG(プロクター・アンド・ギャンブル)、JNJ(ジョンソン・エンド・ジョンソン)、KO(コカ・コーラ)、PEP(ペプシコ)、COST(コストコ)、MCD(マクドナルド)、SBUX(スターバックス)などの銘柄を50%近くかそれ以上、買い増しています。
つまり、生活必需品や食料品といったディフェンシブ銘柄の比率を高めていることが分かります。
また、GLD(SPDR Gold Shares ETF)がマイナス6.7%、IAU(iShares Gold Trust)がマイナス52.4%と、前四半期に続いて、金ETFの組み入れ比率を引き下げています。
なお、下図は直近のGLDの推移を示したものですが、橙色の点線で示した21年4~6月の間には、金価格が上昇する局面があり、そこで金ETFの売却に動いたのかもしれません。
3.レイ・ダリオの主な新規買い銘柄と総括
ここからは、もう少し踏み込んで、21年3月末から21年6月末までの間に、ブリッジウォーター・アソシエイツが新規買いした主な銘柄について見ていくことにします。
下記では、新規買いが行われた銘柄のうち、組み入れ比率が0.1%超の18銘柄について、企業の概要と株価の値ごろ感をそれぞれ付記しています。
- LIN:0.19%
リンデは、100カ国以上で事業を展開する世界最大の産業用ガス供給会社。売上高急増も割高感が強い。 - NMW:0.19%
VMウェアは、仮想データセンター向けサーバーおよび仮想デスクトップ業界ではリーダー的地位にあるソフトウエア会社。業績は右肩上がりも、割高感強い。 - ATVI:0.17%
アクティビジョン・ブリザードは、世界最大手のビデオゲーム・パブリッシャーの一社である。業績は右肩上がりも、やや割高感あり。 - AMAT:0.17%
アプライド・マテリアルズは、世界最大級の半導体製造装置メーカー。業績好調も、やや割高感あり。 - DE:0.17%
ディアは、世界有数の農業機器製造業者である。業績堅調も、やや割高感あり。 - GDRX:0.16%
グッドRxホールディングスは、処方薬を安価に提供するためのデジタルヘルスケア・プラットフォームを展開している。直近四半期で営業赤字ほぼ解消も、割高感が非常に強い。 - APD:0.15%
エアー・プロダクツ・アンド・ケミカルズは、世界的な工業用ガス供給業者。業績ほぼ横ばいで、割高感が強い。 - LRCX:0.15%
ラム・リサーチは、半導体製造装置メーカー。業績は右肩上がりも、やや割高感あり。 - ADSK:0.14%
オートデスクは、建築、エンジニアリング、建設、製品設計・製造、メディア・エンターテイメント業界にサービスを提供するアプリケーション・ソフトウェア企業。業績好調も、割高感が非常に強い。 - NVCR:0.14%
ノボキュアは、既に商業化された腫瘍療法システムを持つ、ヘルスケア企業。売上高右肩上がりも、利益僅少。割高感が非常に強い。 - ITW:0.13%
イリノイ・ツール・ワークスは、専門の産業機器、消耗品、関連サービスを生産する多角的なグローバルメーカー。業績はほぼ横ばいで、やや割高感あり - CAT:0.12%
キャタピラーは、重機(建設・鉱山機械)、パワー(エンジン・発電機)システム、機関車製造で長い実績を持つ世界的企業。業績回復傾向も、やや割高感あり - PODD:0.12%
インシュレットは、糖尿病の持続皮下インスリン投入治療法を持つ企業。業績は右肩上がりも、割高感が非常に強い。 - MU:0.12%
マイクロン・テクノロジーは、DRAMとNAND製品の製造企業。業績回復傾向も、やや割高感あり - ADI:0.11%
アナログ・デバイセズは、高性能な集積回路(IC)を手掛ける世界的な大手企業。業績堅調も、割高感が強い。 - EA:0.11%
エレクトロニック・アーツは、ビデオゲームのサードパーティ・パブリッシャー世界大手。業績堅調も、割高感が強い。 - NVDA:0.11%
エヌビディアは、GPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット/画像処理半導体)の設計を手掛ける世界有数の半導体製造会社。業績好調も、割高感が非常に強い。 - TXN:0.11%
テキサス・インストゥルメンツは、アナログ半導体製造の世界大手。業績堅調も、割高感が強い。
これらを見て分かるように、ハイテクやヘルスケア関連銘柄の新規買いがやや多くなっています。ただ、やはりどの銘柄にも割高感があるということは否めません。
さて、ここまでの内容からすると、ポートフォリオの中でディフェンシブ銘柄を増やしているように思われます。
ただ、21年3月末時点のポートフォリオと、21年6月末時点のそれとで、セクター別のウェイトを比較してみると、実際には異なる様相を呈していることが分かります。
ディフェンシブ銘柄の組み入れ比率はそこまで変化していないのに対し、ヘルスケアやテクノロジー関連銘柄の比率が際立って増加しているのです。
21年4~6月の間では、329銘柄の新規買いが行われ、計704銘柄となっていますが、これは新規買い銘柄の多くを、ヘルスケアやテクノロジー関連が占めていたことを示していることになります。
そして直近では、FRBによるテーパリング(量的緩和縮小)の早期開始観測が強まっており、それらの銘柄にとっては逆風となりそうです。
これを受けて、次に11月中旬頃に公表されるであろう、21年9月末のポートフォリオがどのようになっているかは注目に値するところでしょう。