ここでは、直近の「ドル円相場」について、日米10年国債利回り、購買力平価、修正ソロスチャート(修正マネタリーベース比率)という3つの観点から見ていきたいと思います。
なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照下さい。
1.日米10年国債利回りとドル円相場
まずは、米国の10年債利回りとドル円相場の推移を比較してみます。
この図から、米長期金利は1980年代より右肩下がりの傾向となっていることが分かります。
また、2018年末から米長期金利が急速に低下していたにもかかわらず、ドル円相場の方は、概ね横ばい(ボックス圏)での推移となっていることも分かります。
そういった意味では、米長期金利だけを見た場合には、ドル安円高の余地があると言えそうです。
次に、米国と日本の10年国債利回りの差をドル円相場の推移と比較したのが以下の図です。
こちらの図では、ドル円相場の動きが、日米の長期金利差と概ね連動していることが見て取れます。
直近では、長期金利差とドル円相場との乖離が縮小傾向となっていことも分かります。
2.購買力平価とドル円相場
次に、日米の購買力平価とドル円相場の推移を比較してみます。
なお、購買力平価(PPP)に関しては、日米の相対的購買力平価である、消費者物価PPP、企業物価PPP、輸出物価PPPを用いています。
この図からは、ドル円のレートは、企業物価PPPを上限、輸出物価PPPを下限として推移していた時期が長い中で、ここ数年は企業物価PPPより上での推移となっていることが分かります。
つまり、ドル円相場を購買力平価という観点から見た場合には、ドル安円高余地が大きいように思われます。
3.修正ソロスチャートとドル円相場
最後に、修正ソロスチャート(修正マネタリーベース比率)とドル円相場の推移を見ていきます。
この図からは、ドル円相場と修正マネタリーベース比率との相関性が高いことと同時に、両者の乖離が縮小傾向にあることが分かります。
4.総括
ここまで見てきたように、日米10年国債利回りや、購買力平価では、依然として円高余地があるように見えます。
しかし、実際のドル円相場は足元で110円台半ばでの推移と、円安傾向となっています。
この背景には、6月15~16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、これまで2024年以降としていた利上げ時期が、2023年中に前倒しされる可能性が示されたことがあります。
また、日本のワクチン接種が世界的に見ても遅れていることもありそうです。
いずれにしても、今後のドル円相場を占う上では、やはり米長期金利の動向が重要になってくるでしょう。
ここで、長期金利は、主に期待実質経済成長率と期待インフレ率によって決まります。
実質経済成長率は、コロナ禍の反動で一時的に高まる可能性が大きいでしょうが、これまで先進各国の経済成長率が長きにわたって低迷してきたことを考えると、いずれまた元の軌道へと収れんしていくことになりそうです。
期待インフレ率に関しても同様だと思われます。
ただ、米CPI(消費者物価指数)は、コロナ禍の反動で4月・5月と前年同月比で大きく上昇しており、期待インフレ率も依然としてコロナ前の水準を上回る2%台前半での推移となっています。
今後の焦点は、本当にインフレが一過性で済むのかどうかでしょうが、一過性のものであったとしても、予想以上に長引く可能性は十分にあります。
というのも、インフレ率が高止まりしている背景の一つとして、労働市場やサプライチェーンが正常化していないことに伴う供給制約が挙げられ、この点に関しては、しばらく続くものと考えられるためです。
また、FRB(米連邦準備理事会)による利上げ観測がさらに早まるなどすれば、一段の円安ドル高も十分に考えられます。
それでも、ここで見てきたような指標や、世界的にドルの地位が低下しつつある状況を考えると、中長期的には円高ドル安方向となるのが自然なように思われます。