1.軟調な金価格の背景
NY金先物価格は、2020年8月に2100ドル近くにまで上昇していましたが、2021年3月以降は1700ドル前後での推移となっています。
銅やトウモロコシなど、他の商品価格が上昇している中で、金価格が軟調な値動きとなっている大きな要因としては、米長期金利の上昇が挙げられます。
これは、金は保有していても金利がつかない上に、長期金利上昇に伴って上昇した米ドルと金価格とは、逆相関の関係を示す傾向があるためです。
2.マネーストックとは
さて、米国では大規模な財政出動が行われ、マネーストックも足元で急増しています。
マネーストックというのは、かつてマネーサプライと呼ばれていたもので、米国では「M2」という項目で示されます。
中央銀行が銀行に供給したマネタリーベースを基に、銀行が企業や家計に貸し出しを行って、市中に供給されたお金の量のことをマネーストック(M2)と言います。
そして、このマネーストックが足元で急増していることから、米ドルの価値が下がり、それに伴って金価格が上昇すると言われることが度々あるのです。
そのため、ここではマネーストックと金価格との関係について見ていきたいと思います。
3.金価格とマネーストック(M2)の推移
早速ですが、金価格とマネーストック(M2)の推移を示したのが、以下の図になります。
この図を見ると、金価格は既にマネーストックの増加と同程度にまで上昇してしまっているように見えます。
一方で、上図から、マネーストックの額を示す右軸のスケールだけを変更したのが次の図です。
こちらの図では、マネーストックの増加と比較して、金価格にはまだまだ上値余地があるように見えます。
このように、グラフというのは恣意的に操作することができるため、提示されたグラフをそのまま鵜呑みにしてはいけないということが分かります。
4.マネーストック増加でも金価格は上がらない!?
では、マネーストックについてはどう考えれば良いのでしょうか。
まず、貨幣数量説では、「MV=PY」という関係が規定されます(M:マネーストック、V:流通速度、P:物価、Y:実質GDP)。
この式において、そもそもM(マネーストック)を増やしたからといって、Y(実質GDP)が増加するわけではありません。
また、短期的にY(実質GDP)は一定であると仮定できます。
すると、現在のように、世界的に企業や家計の貯蓄が増加しているような状況は、V(流通速度)が低下しているということなので、Mを増やしてもP(物価)が上昇するとは限らないということになります。
つまり、マネーストックを増やしたからといって、それが即インフレにつながるということにはならないのです。
ですから、マネーストックが増加しているからといって、金価格も上昇するはずだと短絡的に考えてはいけません。
そして、金価格の動向については様々な指標を用いて検討したことがありますが、現在の金価格が割安か割高かを判定するのは、かなり難しいと言わざるを得ませんでした。
ただ、株式や債券、他の商品の値動きとの相関関係が弱いという点からだけでも、金をポートフォリオの一部に加える価値はあるのではないかと考えています。