読書録・書評

【読書録・書評】『ピーター・リンチの株で勝つ―アマの知恵でプロを出し抜け』(1/2:投資の基礎と有望株の探し方)

1.本書の概要

ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。

まずは、本書の概要からです。

本書では、マゼラン・ファンドのマネジャーとして、13年間で20倍超という驚異的なパフォーマンスを上げた、ピーター・リンチ氏によって、その投資哲学などが書かれています。

本書に関しては、第1部および第2部と、第3部との2回に分けてレビューしていきたいと思いますが、ここでは、「投資の基礎と有望株の探し方」ということで、第1部および第2部のレビューを書いていきます。

なお、本書の章立ては、以下のようになっています。

  • はじめに/アマチュアの強み
  • 第1部 投資を始める前に
    • 第1章:株式投資家になるまで
    • 第2章:ウォール街の矛盾した表現
    • 第3章:これはギャンブルなのか? 何なのか?
    • 第4章:鏡の前のテスト
    • 第5章:相場はよいかって? そんなこと聞かれても困る
  • 第2部 有望株の探し方
    • 第6章:一〇倍株をねらえ
    • 第7章:ついに見つけたぞ! 何を?
    • 第8章:完璧な株、なんて素晴らしい!
    • 第9章:私が避ける株
    • 第10章:収益、収益、そして収益
    • 第11章:二分間の訓練
    • 第12章:事実を手に入れる
    • 第13章:知って役に立つ幾つかの数字
    • 第14章:ストーリーを再チェックする
    • 第15章:最終チェックリスト
  • 第3部 長期的視野
    • 第16章:ポートフォリオをつくる
    • 第17章:売り買いのベスト・タイミング
    • 第18章:株価についてよく聞く多くの馬鹿げた(そして危険な)話
    • 第19章:オプション、先物、カラ売り
    • 第20章:五万人のフランス人も間違えることはある
  • エピローグ/備えあれば憂いなし

2.投資を始める前に

リンチ氏は、ファンドの資産が20倍になったのは、よく知られていなかったり人気が離散していた株を見つけ出して自分なりの調査をしたことによるところが大きい、と述べています。

「自分で理解できないものには手を出さない」とのことで、自分の働いている業界や近所の商店街などで起こっている変化を少し意識的に見れば、すごい銘柄を見つけることができると言うのです。

そのため、なるべくアマチュアのように考えようと努力をし、まさに伝統的なファンドマネジャーが避けようとする株を買うと書かれています。

また、絶対確実な優良株などは存在せず、歴史的に見て、株は投資手段として歓迎される場合と、ギャンブルとして見放されるケースとを周期的に繰り返していると言います。

そして、様々なニュースレターによる投資家心理の調査結果を例に挙げて、投資家の判断が間違ったタイミングでなされてきたということに関しても触れられています。

さらに、株で金儲けをするのに株式市場全体の予測をする必要はないともあります。

リンチ氏は、相場予測を信じておらず、業績などファンダメンタルズを十分に反映していない、株価が割安で信頼できる良い会社を探していると言うのです。

ですから、買いに入る最良のシグナルは、気に入った会社を見つけることが全てであり、良いと思ったら、株を買うのに早すぎるとか遅すぎるなどは関係ないということです。

3.有望株の探し方

まず、株価の動きには、会社の規模が大いに影響し、大きな会社よりも小さな会社の株の方が大きな動きを見せるといったことが書かれています。

次に、企業を以下の6つに分類して説明しています。

  • 低成長株:米国の経済成長率と同程度の成長率を持つ企業の株式。配当が高く安定している。
  • 優良株(中成長株):年率10~12%程度の成長率が期待できる企業の株式。
  • 急成長株:年率20~30%も伸びるような企業の株式。
  • 市況関連株:売上と利益が循環的に上下する企業の株式。自動車、航空、タイヤ、鉄鋼、化学など。
  • 業績回復株:業績不振の淵から立ち直ったというような企業の株式。
  • 資産株:何らかの資産を持っている企業の株式。

優良株については、大体30~50%の儲けで利食って、次のまだ値上がりしていない株に移ると言います。

また、不況にも強いので、ポートフォリオにはいつも組み入れているとのことです。

リンチ氏の個人的な好みは、やはり急成長株であり、財務内容が良くて収益性の高い会社を探すと書かれています。

一方で、急成長会社がひとたび停滞を始めたときには、株価急落のリスクがあるため、いつ成長が止まるかや、どれだけの資金をその成長に賭けるかを見極めるともあります。

市況関連株については、タイミングこそが全てで、悪いタイミングで買ってしまうと株価が半分になるのはあっという間で、その後に何年も反転を待たなければならなくなってしまうと言います。

また、市況関連株は最も誤解されやすいタイプの株で、ほとんどが大きくて有名な会社の株なので、優良株と混同しがちであり、不注意な投資家が安全と信じて買って損をするのが市況関連株だとも述べられています。

そして、これらの分類に関して、企業はいつも同じ状態にあるわけではないともあります。

これは、急成長会社であっても、いつまでも二桁成長を続けられるわけではなく、いつかは一桁成長に落ち着いていくものだということです。

さらには、様々な異なったタイプの株の全てに当てはまるような一般公式などはあり得ないということです。

そのため、「倍になったら売れ」とか、「2年後に売れ」、または「株価が1割下がったら損切りしろ」というような格言に従うのは馬鹿げたことであると言うのです。

まず第一歩として、株がどのカテゴリーに属するかを調べるべきで、これにより少なくともどういうストーリーになるかが分かるのです。

4.投資対象の選別に重要な13項目

リンチ氏は、投資対象の選別に当たって重要なものとして、次の13項目を挙げています。

  1. 面白味のない、または馬鹿げている社名
  2. 変わり映えのしない業容
  3. 感心しない業種
  4. 分離独立した会社
  5. 機関投資家が保有せず、アナリストがフォローしない会社
  6. 悪い噂の出ている会社
  7. 気の滅入る会社
  8. 無成長産業でであること
  9. ニッチ産業であること
  10. 買い続けねばならない商品
  11. テクノロジーを使う側であること
  12. インサイダーたちが買う株
  13. 自社株買い戻し

リンチ氏は、競争の厳しい複雑な産業のなかの優秀な経営陣を抱えた優良会社と、単純だが競争のない産業のなかの平凡な経営陣を抱えた面白味のない会社とで、どちらかの選択を迫られたならば、後者に投資するだろうと言います。

いずれは実際にそうなるのだから、「どんな馬鹿でも経営できる」というのは、良い材料だと言うのです。

1~3のような企業は、割安に変えたり、買うための時間が十分にあるということになります。

4については、大企業は独立させた部門が失敗することで評判に傷がつくことを恐れるため、分離独立する会社は、通常良好な財務内容を持ち、独立するに十分な備えを持っているということです。

6と7に関しては、廃棄物処理産業ほど完璧なビジネスは思い当たらず、ウォール街が有害廃棄物の他に無視したがるのは「死」であると書かれています。

8について、無成長産業で特に退屈で嫌われるものは、他に興味を持つ人がいないため競争の心配がなく、そうした分野から大化け株が出てくることがあるとのことです。

9については、独占的な商売につけば、価格決定権を握ることができ、その価値はどれほど大きいか分からないということです。

10に関しては、玩具産業のように、一通り行き渡ればそれで終わりというものではなく、買い続けねばならない、医薬品、ソフトドリンク、剃刀、タバコのような会社に投資すると述べています。

11については、値札の自動読取機をつくる会社ではなく、その装置を導入したスーパーマーケットに投資すべきであるといった例が挙げられています。

5.避けるべき株

リンチ氏が何より避けたいのは、超人気産業の中の超人気会社だと言います。

人気化した株は急騰しますが、夢を買っているだけなので、落ちるときも急なためです。

また、第二の何々ともてはやされるような会社の株も、うまくいった試しがないと言います。

さらに、第二の何々と人々が言い出したときは、その株だけでなく、本家の方もおかしくなり始めるようだとも書かれています。

他にも、以下のような会社の株が避けるべきものとして挙げられています。

  • 多角化ならぬ多悪化を行っている会社:高すぎる価格での買収や、全く知らない分野の会社の買収を行っている。
  • 下請け会社:製品の25~50%を単一の顧客に売っている会社はリスクがある。

そして、耳打ち株や名前の良い会社にも用心すべきといったことも書かれています。

6.長期的な株価動向と収益

第10章では、株価にとって特に重要なのは収益であると書かれています。

株価と収益を並べたチャートを見れば、収益の重要性は一目瞭然であるとのことで、いくつかの銘柄の例が挙げられています。

それらを見ると、リンチ氏の言うように、どのチャートでも株価と収益のラインが並行していることが分かります。

また、もし株価のラインが収益のラインから外れたとしても、そのうちまた収益のラインに近づいてくるのです。

つまり、長期的な株価動向は収益にかかっており、結局は収益が株価を決めるのです。

7.PER(株価収益率)の使い方

第10章と第13章では、PER(株価収益率)に言及されています。

PERが高いということは、将来の収益向上に大きな期待が持たれているということで、急成長株ほどPERは高く、また低成長株ほど低く、市況関連株はその中間となります。

つまり、適正に評価されたPERは、どの企業についても同様に、その会社の(利益)成長率を表しているのです。

一般的に、PERが成長率の半分だと極めて魅力的であり、逆にPERが成長率の2倍なら非常に危ないと言い、マゼラン・ファンドでもこの方法で株式を評価していたとのことです。

さらに、配当を考慮した利益成長率のやや複雑な算出法についても触れられています。

これは、成長率に配当利回りを足し、それをPERで割ったもので、これが1以下なら見込み薄、1.5ならまずまずで、2以上のものを探したいというものです。

例えば、ある会社の成長率が15%、配当利回りが3%で、PERが6倍ならば、まずは望ましいということになります。

そういったことから、異常に高いPERを避けるべきではあるものの、PERの低い割安株だけを買うというのも賛成しかねると述べられています。

他には、過去数年のPERを調べることで株価水準をつかんだり、株式市場全体のPERを見ることで、相場全体としての水準を知る良い目安になるともあります。

そして、次の段階としては、その会社の成長の可能性、あるいはそれを推進する材料は何なのかを知ることが必要になってくるとのことで、これを「ストーリー」と呼んでいます。

株を実際に買う前には、その会社の魅力、成長性、弱点などを把握しておきたいところなのです。

8.現金等、負債、配当、純資産、含み資産

第13章では、知って役に立つ幾つかの数字ということで、PER以外にも様々な項目について述べられています。

まず、会社を調べる際には、その一環としてキャッシュ・ポジションをチェックすることが勧められています。

このキャッシュ・ポジションとは、現金・現金等価物から有利子負債を差し引いたものであると思われます。

また、会社の資金力を見る一つの手っ取り早い方法として、バランスシートの右側の負債と資本を比較することも挙げられています。

特に銀行借入のような負債は、会社が危ないとなると、時に先方の都合で返済を迫られることがあり、負債が多い若い会社には、常にリスクがつきまとうと書かれています。

配当に関しては、下げ相場で株価を支えるという利点について触れられています。

実際、1987年のブラックマンデーの暴落時に、高配当の株は無配株の半分しか下げていないとのことです。

そのため、リンチ氏も、かつての優良株や低成長株を好んでポートフォリオに組み入れていると言います。

もちろん、配当によって株を買う場合には、不況期や、もっと悪い時期にも配当を行えるのかどうかを調べる必要があります。

続いて、簿価についても言及されていますが、これは訳語が適切ではないのかもしれませんが、純資産という意味で使われているようです。

純資産に関しては、公表されているものが、しばしば過大もしくは過小に評価されていて、実際の企業価値との関連が少ないと言います。

ペン・セントラルが倒産したときの一株当たり純資産は60ドルで、山中のトンネルや用途のない貨車まで資産として計上されていたとのことです。

含み資産についても同様のことが言えます。

土地や森林、土地や森林、石油、貴金属などを所有している会社の場合、購入時の価格で計上されており、過小評価されている場合があるということです。

また、含み資産として、コカ・コーラや咳どめ薬のロビタシンといったブランドネーム、医薬品の特許、ケーブルTVのフランチャイズ権なども、非常に大きな価値を持つものとして挙げられています。

9.キャッシュフロー、在庫、成長率、利益率

リンチ氏は、収益は大したことがなくても、そのフリーキャッシュフローによって投資に値する会社であることに気づくことがあると言います。

つまり、設備投資の費用を必要とせずに事業を行えるような会社に投資したいということです。

また、在庫が増えていないかどうかにも、常に注目しているとのことです。

メーカーや小売りを問わず、在庫が増えるというのは悪いサインであり、特に在庫の増加率が売上の伸びを上回っていれば、これはもうレッドカードであると述べられています。

成長率に関しては、他の要素が全て同じであれば、20%の成長率でPER20倍の会社と、10%の成長率でPER10倍の会社であれば、前者を買う方がいいと書かれています。

両者は一見同じもののように思えますが、長期の複利で考えると、成長率の差が将来的に大きな差となって現れてくるということです。

さらに、税引前利益を用いた利益率について、同業種間で比較して高ければ、事業環境が変化したときでも生き残れるチャンスの大きい会社であると言及されています。

ただし、この手法は、ときとして騙されやすいともあります。

それは、業績回復株で業績が回復してくるときに、最も低い利益率しかなかったところが、最大の増益率を示すためです。

これはやや分かりづらく、本書ではA社とB社の例を挙げて説明されているのですが、ここでは割愛させていただきます。

そういったことから、好不況にかかわらず長期に保有するのなら、総じて高い利益率の会社を、そして業績回復株を狙うのなら低い利益率のところになると結論付けられています。

10.会社の成長過程

第14章では、会社の成長過程には次の3段階があると書かれています。

  • 第1段階:本業の発展を成し遂げる始動段階
  • 第2段階:新規事業へ発展していく急上昇段階
  • 第3段階:もうこれ以上成長が難しい飽和状態に近づきつつある成熟段階

これら3段階は、それぞれが大体7年くらい続くとあります。

そして、第1段階での投資は、企業の成功が明確になっていないという意味で最も危険なものであると言います。

一方で第2段階は、第1段階での成功パターンを繰り返す、最も利益をあげられる安全な時期になります。

最後の第3段階は、企業が限界に近づきつつあり、それ以上の成長のためには他の方法を模索しなければならないという意味で、最も不確かな段階となるのです。

さて、かなり長くなってしまいましたが、第1部および第2部のレビューはここまでとなります。

続く、第3部のレビューにつきましては、「ポートフォリオ構築と売買タイミング」ということで、以下の記事で書いていますので、よろしければご参照ください。

 

 

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