1.本書の概要
ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。
- お金からの解放宣言 ~秘刀の投資法とお金の在りかた~
- 著者:秋山 哲
- 出版日:2018/8/5
- お役立ち度 :
- 難易度 :
- マニアック度:
- 分類:株式投資、個別株、割安成長株
まずは、本書の概要からです。
本書では、10年で元本を60倍にしたという個人投資家によって、株式購入や売却の原則、ポートフォリオの構築方法などが書かれています。
なお、本書の章立ては、以下のようになっています。
- 第1章 お金と人生の目的
- 第2章 ゴール設定と生涯収支の改善方法
- 第3章 投資とは何か
- 第4章 主な金融商品の仕組みと特徴
- 第5章 ポートフォリオ戦略
- 第6章 株価は何で決まるか
- 第7章 株式投資に大切なこと
- 第8章 購入の3原則
- 第9章 売却の3原則
- 第10章 あなた史上最強の株式ポートフォリオ構築方法
- 投資に使うツール
2.世界の株式市場とGDP
第2章と第3章では、世界の株式市場(株価指数)について触れられています。
世界の株価指数は、世界のGDPと非常に類似した動きをしているのです。
また、「GDP成長率=労働参加人口の増加率÷生産性の向上率」という公式を用いて、世界のGDPは今後も成長していくだろうと述べています。
そのため、「世界全体の株式投資であれば、20年後の長期視点で見た場合、現在の資産が2~3倍程度に増加する確率は非常に高い」と結論づけています。
そして、第3章では、1969年~2017年までの世界株式市場(MSCIワールド・インデックス)について考察されています。
その期間で、株価が10%以上下落したのは10回あり、最大の下落率はリーマン・ショック時の54%、元の水準に回復するまでの期間は67ヵ月(5年7ヵ月)であったとのことです。
さらに、回復期間に最も時間を要したのは、ITバブル崩壊のときで、71ヵ月(5年11ヵ月)であったと書かれています。
つまり、最悪の場合、資産が最高値の半分程度に目減りしますが、6年弱で再び最高値まで回復するというのが過去の事実なのです。
3.株式購入の3原則
第8章では、株式を購入する際の3原則として、以下のものが挙げられています。
- 長期安定成長
- 安全
- 割安
まず、「長期安定成長」については、次の3つのステップで考察すると言います。
- 過去の業績から成長企業を見つける
- 過去の業績から強みを特定する
- 企業の強みと成長は今後も継続するのかを見極める
ステップ①の過去の業績については、過去3~5年間の売上、営業利益、経常利益、純利益における年間成長率が20%以上の企業を投資の候補としてスクリーニングするとのことです。
ステップ②や③は、定性的な分析となりますが、企業の強みについては、以下の5つのいずれかにあることがほとんどだと述べられています。
- 商品開発力
- 価格競争力
- 販売力
- マーケティング力
- マネジメント力
企業の強みが継続するかどうかについては、マクロ環境とミクロ環境で考えるとのことですが、企業の「ライフ・サイクル・ステージ」や、中期経営計画についても言及されています。
続いて、「安全」については、自己資本比率が30%以上や、流動比率(流動資産÷流動負債)が120%以上を目安にするとのことです。
最後の「割安」については、PEGレシオ(PER÷年間成長率)について触れられています。
PEGレシオは、ピーター・リンチ氏によると、1.0が適正値、2.0以上で極めて割高、0.5以下で極めて割安とされており、著者は0.7以下を投資対象の基準にしていると言います。
ただし、PEGレシオを活用する上で注意点を2つ挙げています。
1つは、PEGレシオを適用できるのは成長企業のみであり、その目安としては、ROE(純利益÷純資産)が市場平均の7~8%以上であるということです。
もう1つは、PEGレシオは、成長率やPERの変動が大きい「景気敏感株」には適用できないということです。
景気敏感株には例えば、自動車、機械、鉄鋼、非鉄、空輸などといった業種が挙げられます。
最後に、第8章では、購入3原則の補足情報として、以下の3つについても触れられています。
- 経営者が株主でもある
- 情報開示に積極的
- 時価総額が200億円以下
4.株式売却の3原則
第9章では、株式を購入する際の3原則として、以下のものが挙げられています。
- 成長シナリオが崩れたとき
- 株価が割高になったとき
- キャッシュ・ポジションが少なく、保有銘柄よりよい銘柄を見つけたとき
前項の購入の3原則では、3つすべてを満たす際に購入するのに対し、売却の3原則では1つでも満たせば売却することになります。
「成長シナリオが崩れたとき」に関して、市場のニーズ変化や企業の強みがなくなりつつあるケースを見極める上では、以下のことを考察すると書かれています。
- 市場ニーズに変化が起きたのか
- 商品開発力の強みが落ちたのか
- 販売力の強みが落ちたのか
- マーケティング力、マネジメント力が落ちたのか
- 成熟期に入ったのか
- 経営改革が停滞したのか
また、売却3原則の補足情報として、以下の3つについても触れられています。
- 経営陣が保有している自社の株を売却する
- IR担当者が曖昧
- 増資の主目的が借入金の返済
5.ポートフォリオ構築法
第10章は、ポートフォリオの構築方法についての内容となっています。
著者の保有銘柄は常に4~5銘柄、将来の投資候補銘柄である3~4銘柄を合わせて、7~9銘柄をチェックしており、少なくとも資産の10%は1銘柄へ投資するとのことです。
また、市場の暴落時は成長企業への投資においてはバーゲン・セールス期間であり、他方で暴落の底は誰にも判断できないため、2~3度に分けて投資するのが適切だとも書かれています。
著者自身、資産増加に大きく寄与した銘柄は、相場が暴落して総悲観なときに成長シナリオを見極めた上で割安購入した企業が大半だと言います。
6.総括
第8章の最後では、著者の投資実践例として、ウィル・グループを取り上げて説明がされています。
そこでは同社の強みとして、商品力やマネジメント力、今後の業界動向などが詳しく分析されており、正直ここまでやるのかと圧巻の内容でした。
逆に言うと、本書の投資法では、一つの銘柄について、かなり深く分析することが要求されるということです。
特に、企業の強みや成長の継続性については、定性的な分析に重きを置いており、初心者にはかなり敷居が高いように思われました。
ただ、これには理由があります。
それは、本書の投資法では、高い成長性が見込める企業を「割安」に仕込むことに主眼が置かれているからです。
一方で、成長株投資の中には、ファンダメンタルズは売上や利益の成長を確認する程度で、新高値更新や出来高といったテクニカル面の方を重視する手法もあります。
この場合、新高値という「割高」な価格で購入することにはなりますが、新高値を更新するということは、その企業にそれだけの強みがあり、成長期待も高いことの裏返しであるとも言えます。
もちろん、新高値更新も百発百中ではなく、一過性の上昇で終わってしまうケースも多いのですが、株価が低迷している割安な企業の中から選択するよりは、高い確率で成長株を見出すことができます。
バリュー投資(割安株投資)でもよく言われることですが、割安株にはどうしても、バリュートラップ(割安のワナ)の問題がつきまといます。
つまり、割安株に投資したはいいものの、一向に値上がりしない状況が続いてしまうということが往々にしてあるのです。
それを避けるためにも、本書のような投資法では、企業の強みや成長の継続性の分析に重きを置くことが必須になります。
このように、割安に買うために企業・業界の分析を詳細に行うか、割高に買うことは許容して企業分析の労力を削減するかは、トレードオフのような関係にあります。
そして、これらは、どちらかが良い悪いといった類のものではなく、個々の投資家の志向によります。
成長株投資において、もしも前者の道を進もうというのであれば、本書の内容は非常に役に立つものだと言えるでしょう。