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1.プラチナ価格と金価格
今回は、ここしばらく珍しい値動きを見せている、プラチナ価格についてです。
どう珍しいのかですが、それは金価格や、白金と同じく白金族に属するパラジウム価格と比較してのことになります。
まずは、プラチナ価格と金価格とを比較したものを見ていきます。
以下の図は、プラチナ価格と金価格の長期推移を示したものです。(1977年1月~)
また、プラチナ価格と金価格の比価(金/プラチナ)および価格差(プラチナー金)の長期推移を見たのが以下の図です。(1977年1月~)
この図の特に、オレンジ色の棒グラフで示した価格差の推移を見ると分かりやすいのですが、図で示したほとんどの期間において、プラチナ価格が金価格を上回って推移していることが分かります。
そして、ここ数年は過去に例を見ないほど、プラチナ価格が金価格を大きく下回っていることが見て取れます。
ここで、直近の2016年におけるプラチナと金の年間供給量を見ると、プラチナは約240トン、金は約4500トンであり、プラチナの方が金よりも希少性が高いといえます。
そういったこともあり、通常であればプラチナ価格の方が金価格よりも高くなるのが自然ですが、ここ最近では価格が大きく逆転していることになります。
2.プラチナ価格とパラジウム価格
次に、プラチナ価格とパラジウム価格とを比較していきます。
以下の図は、プラチナ価格とパラジウム価格の長期推移を示したものです。(1977年1月~)
また、プラチナ価格とパラジウム価格の比価(プラチナ/パラジウム)および価格差(プラチナ-パラジウム)の長期推移を示したのが以下の図です。(1977年1月~)
この図においても、オレンジ色の棒グラフで示した価格差の推移を見ると、ほとんどの期間においてプラチナ価格がパラジウム価格を大きく上回っていることが分かります。
そして、直近においては、パラジウム価格がプラチナ価格が上回ってきているのです。
これは、プラチナとパラジウムそれぞれの需給によるところが大きいため、ここからは両者の需給について詳しく見ていきたいと思います。
3.世界のプラチナ供給
まずは、世界のプラチナの需給のうち、供給の方から見ていきます。
以下の図は、2007年以降の世界のプラチナ供給量の推移を示したものになります。
この図からも分かるように、プラチナは鉱山生産からの供給が最も多く、直近の2016年においては供給量全体の約79%を占めています。
また、プラチナの最大の供給源である鉱山生産量について、2007年以降の推移を国別に見たのが以下の図です。
この図にあるように、プラチナにおいては世界の鉱山生産量に占める南アフリカの割合が高くなっています。
以下の図にあるように、直近の2016年においては、南アフリカが約71%を占めているのです。
なお、2014年における南アフリカの鉱山生産量の落ち込みは、同国での約5か月間に及ぶストライキによるものです。
この時は、ストライキによりプラチナ価格が上昇するということはありませんでしたが、南アフリカの経済・社会情勢が今後、プラチナ価格に影響してくるといったことは十分に考えられます。
4.世界のプラチナ需要
次に、世界のプラチナの需要についてです。
以下の図は、2007年以降の世界のプラチナ需要量の推移を示したものになります。
直近の2016年においては、自動車触媒が約42%、その他の産業用が約21%、宝飾品が約28%、投資用(プラチナ地金・コイン)が約7%となっています。
このプラチナの需要に関しては、金や銀といった他の貴金属と比較することで、その特徴が見えてきます。
まず、同じく2016年における金の需要は、産業用が約10%、宝飾品が約53%、投資用(金地金・コイン)が約30%、公的部門が約7%となっています。
次に、2016年の銀の需要は、産業用が約55%、宝飾品が約20%、投資用(銀地金・コイン)が約20%、銀器が約5%となっています。
つまり、プラチナについては、投資用需要は低いものの、自動車触媒をはじめとした産業用需要の割合が高くなっていることが分かります。
5.世界のパラジウム供給
続いて、白金と同じく白金族に属するパラジウムの需給について、まずは供給の方から見ていきます。
以下の図は、2007年以降の世界のパラジウム供給量の推移を示したものになります。
この図から、パラジウムに関しても、鉱山生産からの供給が最も多く、直近の2016年においては供給量全体の約77%を占めています。
また、パラジウム価格の上昇もあって、使用済み自動車触媒のリサイクルからの供給が増加傾向にあることも見て取れます。
そして、パラジウムの鉱山生産量について、2007年以降の推移を国別に見たのが以下の図です。
さらに、直近の2016年における、パラジウムの国別の鉱山生産量を示したのが以下の図です。
この図にもあるように、ロシアと南アフリカの2か国で世界の鉱山生産量全体の約8割を占めていることが分かります。
6.世界のパラジウム需要
次に、世界のパラジウムの需要についてです。
以下の図は、2007年以降の世界のパラジウム需要量の推移を示したものになります。
この図から、自動車触媒の需要が大きく増加していっていることが分かります。
直近の2016年においては、自動車触媒が約75%、その他の産業用が約21%、宝飾品が約3%、投資用(プラチナ地金・コイン)が約1%となっています。
つまり、前述した金・銀・プラチナといった貴金属と比較して、パラジウムは産業用の需要が約96%と際立って高いのです。
7.自動車触媒向け需要の動向
さて、以上見てきたように、プラチナとパラジウムいずれも自動車触媒としての需要が多くなっています。
ですから、この自動車触媒向け需要の動向が、今後のプラチナおよびパラジウム価格に大きな影響を及ぼしてくると考えられます。
ここで再度、プラチナ価格とパラジウム価格の推移を見てみます。
この図にあるように、2000年代の初めからプラチナ価格は大きく上昇していったのに対し、パラジウム価格の上昇は割と緩やかなものにとどまっていました。
この2000年代初めから現在に至るまで、世界の自動車生産台数は以下の図にあるように、概ね右肩上がりとなっていました。
また、この自動車生産台数の増加に伴って、プラチナやパラジウムの自動車触媒向け需要量も増加していくはずです。
そこで、前述したプラチナとパラジウムの自動車触媒向け需要量の推移をあらためて比較したのが以下の図です。
すると、この図にもあるように、自動車触媒向け需要量は2010年以降、プラチナはほぼ横ばいであったのに対し、パラジウムの方は右肩上がりとなっていたことが分かります。
これは、2000年代初めからプラチナ価格がパラジウム価格に比べて、大きく値上がりしていったことによります。
つまり、自動車触媒向けに用いる貴金属が、価格の高かったプラチナから、当時まだ安かったパラジウムへと代替されていったことによるのです。
そしてその結果、パラジウムは2012年以降、年間の需要量が供給量を上回る状態が続いています。
さらに、直近ではパラジウム価格がプラチナ価格を上回るまでに上昇して推移しているのです。
8.今後のパラジウム価格
世界の自動車生産台数は少なくとも2025年頃までは、現在のペースで増加していくことが予想されており、それに伴って今後もしばらくは、パラジウム価格は上昇していくと思われます。
もちろん、これはリーマン・ショックのような金融危機による生産台数の落ち込み等がなければという前提ではありますが。
一方で、パラジウム価格への弱気材料としては、自動車触媒すなわち、排ガス浄化装置を必要としない電気自動車(EV:Electric Vehicle)の台頭が挙げられます。
ただ、EVの本格普及は2025年頃からといわれており、貴金属価格へ影響を及ぼすまでにEVのシェアが高まるのには、あと10~15年はかかるでしょう。
ですから、少なくとも今後数年という期間では、EVによる貴金属価格への影響というのは限定的です。
また、技術革新などにより、自動車触媒向けの貴金属使用量が削減されるといったことも考えられますが、もしそういった技術革新が起きても、現在の技術がすぐに置き換えられるわけでもありません。
他には、パラジウム価格の上昇に伴って、使用済み自動車触媒のリサイクルからの供給量が既に増加傾向となっていますが、これは今後さらに増加していくことが予想されます。
このリサイクルからの供給量増加は、パラジウムの需給ひっ迫の緩和につながり、ある程度は価格の押し下げ圧力となりそうです。
そして、今後もパラジウム価格が上昇していったとすると、自動車触媒向けとして今度はプラチナへの代替が進んでいくことも考えられます。
以上のことから、多少の弱気材料はあるものの、世界経済の成長率が大きく鈍化するようなことがなければ、パラジウム価格は少なくとも今後数年は強い値動きを示していくのではないかと考えています。
9.今後のプラチナ価格
プラチナ価格については、パラジウム価格がさらに上昇していけば、パラジウムからの代替によるプラチナの自動車触媒向け需要量が増加し、価格の上昇が期待できます。
また、プラチナ価格の低迷が続くようだと、鉱山生産への設備投資が減少して供給不足を招きかねず、それはプラチナ価格にとっては強気材料となります。
その鉱山生産に関してですが、プラチナは約7割を南アフリカが占めていました。
そのため、プラチナは南アフリカの政治・経済情勢にも影響を受けます。
最近で言うと、2017年11月24日に、S&Pにより南アフリカ国債の格付けが投機的水準へと格下げされていました。
そして、2018年2月15日には、汚職やスキャンダルの絶えなかったズマ前大統領に代わり、ラマポーザ新大統領が就任しています。
南アフリカの今後は、ラマポーザ新大統領が、低迷する経済や財政赤字の立て直し、汚職や政治腐敗の撲滅をどこまで進めることができるかにかかっているといえます。
さて、プラチナの需要に関しては、宝飾品向けも約3割と比較的大きな割合を占めています。
ここ数年、プラチナの宝飾品向け需要量は減少傾向となっていますが、それは宝飾品向け需要の多くを占める中国の需要が低迷しているのが大きな要因です。
その理由としては、習近平の腐敗撲滅運動や中国経済の成長鈍化がいわれていますが、この宝飾品向け需要に関しては、中国以外の国の影響もあるため、何ともいえないところです。
他にも、プラチナ価格は金価格との相関性が強いため、金価格にも影響されることが考えられます。
今後、世界的な金融不安が高まるなどして、仮に金価格が上昇していくと、相対的な割安感からプラチナが選好されて、その価格が上昇していく可能性もあります。
以上のことから、プラチナ価格はまだまだ低迷が続きそうですが、少しずつ明るい材料も見えてきたような状況だといえそうです。