1.過去の詐欺事件
この記事では、投資助言業者や投資運用業者、海外ファンドによる過去の詐欺事件についてまずは見ていきたいと思います。
その前に、投資助言業者および投資運用業者について簡単に補足しておきます。
投資助言業者とは文字通り、金融商品に対する助言を行って、その対価として報酬を受け取る業者のことをいいます。
一方、投資運用業者とは、いくつか業務形態の違いはあるものの、金融商品の運用を行う業者のことになります。
これらの業者が投資助言業務や投資運用業務を行うには、事前に法律に基づく金融庁への登録が必要となり、登録されているかどうかは金融庁のホームページで確認することができます。
ここでは過去の詐欺事件として、これらの業者によるものも取り上げています。
つまり、金融庁へ登録されている業者だからといって、必ずしも真っ当な業者であるとは限らないということなのです。
この記事では過去に問題となった詐欺事件のうち、特に有名なものについてだけ取り上げていますが、これらはあくまで氷山の一角に過ぎないということは頭の片隅に入れておいていただければと思います。
それでは早速、見ていきたいと思います。
① アブラハム・プライベートバンク
アブラハム・プライベートバンクは、海外ファンドを専門とする投資助言業者で、「1億円は貯められる、月5万円の積み立てで」というキャッチコピーで、芸能人や有名なFPを起用した大々的な広告を打って、多額の資金を集めていました。
しかし、助言業者であるにもかかわらず、海外の保険会社と事実上の代理店契約を結び、販売報酬を受け取っていたのです。
当然、業務停止処分を受けることとなりますが、その後、業務停止処分が明けてからは別会社を設立し、ある証券会社の仲介業務のようなことをしていました。
ただ、そこでもその証券会社の商品を独自開発したもののように見せかけたり、勝手に「元本確保型」と宣伝するなど、逸脱した販売活動を行っていたとのことで、証券会社の方から契約解除を言い渡されることとなっていました。
そして、その後も代表が変わることなく、商号を変更して現在も事業を行っているようですが、グループ名に関しては「あゆみトラスト グループ」という名称に変更されています。
なお、この「あゆみ」というのは、顧客とともに「歩み」続けたいという経営方針から名付けられたようですが、この言葉を信じる人がどれだけいるのか甚だ疑問です。
② AIJ投資顧問
AIJ投資顧問は、日本の投資顧問会社で、多くの中小企業や一部大企業の企業年金を中心に約2000億円もの資金を運用していました。
運用を開始した当初から資金を減らし、ついには資金の大半を消失してしまうこととなるのですが、その間も「安定した高利回り」という、虚偽の運用報告書を顧客に提出したりして、詐欺的な勧誘を行っていたのです。
ここまで被害が大きくなった背景としては、旧社会保険庁などの人脈を利用して、信頼を獲得していたことなども指摘されています。
この例を見て分かるように、多くの企業が資金の運用を委託していたり、公的機関の人間が関与しているからといって、それが信頼に足ることの証にはならないのです。
③ MRIインターナショナル
MRIインターナショナルは、アメリカの資産運用会社で、アメリカ州政府の保証などを謳い、元本確保型で年7%前後の高利回りを安定的に支払えるとしていました。
また、複数の経済紙への広告や宇宙飛行士などの有名人を起用した宣伝に加え、東日本大震災後にオーケストラによるチャリティー活動を行うなどして、社会的信用も集めていました。
しかし、実際には集めた資金はほとんど運用されておらず、他の投資家への配当などに使われ、日本の投資家から集めた1300億円を超える額の資金を消失させてしまったのです。
ちなみに、こういった新規の投資家から集めた資金を、既存の投資家に利益や配当として自転車操業的に支払い続けるやり方のことを、「ポンジ・スキーム」あるいは「ネズミ講」といい、詐欺師の代表的な手口でもあります。
④ プリンストン債事件
プリンストン債というのは、アメリカのアナリスト兼ファンドマネジャーであった、マーチン・アームストロングが設立した会社から発行されたものでした。
マーチン・アームストロングは、その正確な相場予測により、金融機関などからもカリスマ的な人気を博していました。
そして、プリンストン債には、元本保証のある年利3%前後の債券と、元本保証はないが年利30%前後の高利回り債券の2種類があり、NHKの番組でも為替リスクのない商品として紹介されるほどでした。
プリンストン債は、金融機関を含む多くの日本企業に約1200億円が販売されましたが、その大半が流用されて消失してしまったのです。
特に、利払いについては、ここでもポンジ・スキームであったことが判明しています。
⑤ バーナード・メイドフ(マドフ)事件
これは、元NASDAQ(NY証券取引所と並ぶアメリカの代表的な株式市場)会長のメイドフによる史上最大級の巨額詐欺事件とされています。
メイドフは自ら運用するファンドについて、年10%以上の高利回りを謳い、投資家から多額の資金を集めていました。
しかし、実際には運用されておらず、これもまたポンジ・スキームによる金融詐欺でした。
まともな大手監査法人が監査を行っていなことに疑問を抱いた投資家も一部にはいたようですが、メイドフは権威ある著名人であり、数十年もの間にわたって多くの投資家から信用されていたのです。
メイドフの運用会社には、多くの著名人やヘッジファンド、金融機関などが投資しており、その被害総額は500億ドル以上であったとされています。
2.詐欺に遭わないために
投資で収益を上げることももちろん大事ではありますが、それと同じかそれ以上に大事なのが、詐欺に遭わないように気を付けるということです。
ここまで書いてきたような詐欺事件では、多くの人がある程度まとまった金額をこれらの業者に託していたと思われます。
つまり、詐欺では一度に大金を失ってしまったり、場合によっては再起不能となってしまったりする危険性があるのです。
ですから、詐欺に遭ってしまうことを避けるというのは非常に重要なことになります。
ただ、ここまで見てきたように、大企業や金融機関ですら騙されてしまうほど、詐欺を見破るというのは非常に困難なことです。
「自分に限って大丈夫」だと思わずに、まずはこのことを念頭に置いておく必要があります。
極論に聞こえるかもしれませんが、他人に助言を受けたり、他人に運用を任せたりする際には、誰でも詐欺に遭ってしまう可能性があるのです。
しかし、だからといって全員が資産運用を全て自分一人だけの力で行うというのも現実的ではありません。
そこで、詐欺に遭ってしまうことを完全に避けることは出来ないにしても、そのリスクを少しでも減らすために大事な考え方について、いくつか書いていきたいと思います。
まずは、安定した高利回りというのは怪しいと思って下さい。
投資をしていれば、良いときもあれば、悪いときもあり、収益に波があるのが普通です。毎月コンスタントに一定の利回りを上げるというのは、至難の業です。
また、具体的にどの程度を高利回りというのかについては、明確な基準があるわけではありませんが、年利でいえば10%以上、月利でいえば数%以上は十分に高利回りだといえます。
次に、元本保証ということについてです。
そもそも、元本保証や運用利回りの保証を明記、あるいは説明してお金を集めることは出資法違反です。
なお、ややこしいのですが、「元本確保型」という商品は実際に存在し、違法なものでもありません。
ただ、「元本確保型」の商品に関しても、本来得られるはずであった利益を取り逃してしまうリスクがあったりと、必ずしも有利な商品というわけではないことには注意が必要です。
最後に、投信やラップファンドなどでも同じことがいえますが、テレビ広告を流したり、有名人を起用して宣伝したりといった、広告宣伝費の原資がどこにあるのかを考える必要があるということです。
運用会社が大々的に広告を打っているようなことがあれば、その原資として運用資金が使われている可能性が高いといえます。
詐欺に遭わないようにするためには最低限、上記のことには気を付ける必要がありますが、やはり最終的には、詳細な運用実態がよく分からないものには手を出さないということに尽きます。
結局、投資にしてもビジネスにしても、「楽して稼げるものはない」と心得て、うまい話に飛びついてしまわないよう自制心を保つことが大事なのです。