1.米証券取引委員会(SEC)への報告書提出義務
今回は、ヘッジファンド界の帝王とも呼ばれるレイ・ダリオ氏が率いる、世界最大級のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツの2022年9月末時点でのポートフォリオについて見ていきたいと思います。
なお、レイ・ダリオ氏は2022年9月末にブリッジウォーター・アソシエーツの経営権を取締役会に移管し、共同CIO(最高投資責任者)から退いていました。
今後は、ニア・バー・ディア氏とマーク・ベルトリーニ氏が共同CIOを務めるとのことです。
さて、ブリッジウォーター・アソシエーツに限りませんが、著名投資家たちのポートフォリオを知ることができるのには理由があります。
これは、米国では運用資産が1億ドル以上の機関投資家は、四半期ごとに証券取引委員会(SEC)への報告書提出が義務付けられているためです。
この報告書は、SECのホームページから閲覧することができ、著名投資家たちのポートフォリオの保有銘柄や株数などを知ることができるのです。
ただ、各四半期末から45日以内が報告書の提出期限であることから、公開されたポートフォリオが最新のものであるとは限らない点には注意が必要です。
また、公開されるのは、米国上場株および、ロングポジションのみとなっています。
さて、各四半期から45日以内が提出期限ということから、2月中旬、5月中旬、8月中旬、11月中旬に報告書が更新されることが多くなります。
つまり、この22年11月中旬には、著名投資家たちの22年9月末時点でのポートフォリオが数多く公開されるというわけです。
2.ブリッジウォーター・アソシエイツのポートフォリオ
それでは早速、ブリッジウォーター・アソシエイツの2022年9月末時点でのポートフォリオを見ていきます。(図では、組み入れ比率の上位22銘柄を示しています。)
また、この四半期前の2022年6月末のポートフォリオを示したのが下図になります。
この両者間の変化を際立たせるために、ポートフォリオ全体に対する影響度の大きかった銘柄を中心に見ていくことにしたいと思います。
3.ポートフォリオへのインパクトが大きかった銘柄と総括
まず、22年7月から22年9月末までの間に、ポートフォリオ全体に対する増加率が0.2%以上であった銘柄について見ていきます。
ティッカー | 銘柄名 | 増加率(%) | 組入比率(%) |
V | Visa Inc | 0.65 | 1.09 |
MDLZ | Mondelez International Inc | 0.64 | 0.96 |
JNJ | Johnson & Johnson | 0.31 | 3.90 |
GOOGL | Alphabet Inc | 0.23 | 0.71 |
MSFT | Microsoft Corp | 0.23 | 0.38 |
TMO | Thermo Fisher Scientific Inc | 0.20 | 0.36 |
次に、22年7月から22年9月末までの間に、ポートフォリオ全体に対する減少率が0.3%以上であった銘柄についても見ていきます。
ティッカー | 銘柄名 | 減少率(%) | 組入比率(%) |
MDT | Medtronic PLC | -0.95 | 0.00 |
SPY | S&P 500 ETF TRUST ETF | -0.61 | 2.65 |
BRK.B | Berkshire Hathaway Inc | -0.37 | 0.34 |
WMT | Walmart Inc | -0.34 | 2.65 |
JPM | JPMorgan Chase & Co | -0.34 | 0.00 |
LOW | Lowe’s Companies Inc | -0.30 | 0.01 |
T | AT&T Inc | -0.30 | 0.00 |
2022年9月末時点における、ブリッジウォーター・アソシエーツのポートフォリオ構成銘柄数は866銘柄にも上り、広く分散されていることから、これといった特徴をつかみにくいところがあります。
上記の表では、「SPY(S&P 500連動ETF)」を割と大きく売却しているのが気になりますが、2020年半ば頃まではポートフォリオ全体の10~25%をSPYが占めていたのに対し、それ以降は減少を続けていましたので、その大きな流れに沿ったものと思われます。
同様に、2019年半ば頃までは、「VWO」「IEMG」「EEM」といった新興国株式ETFが合計で、ポートフォリオ全体の20~60%強をも占めていましたが、2022年7月から9月末の間にも全てが売られており、9月末時点でのポートフォリオ全体に占める割合は合計で6%強となっています。
ブリッジウォーター・アソシエーツでは、2017年頃より、ETFを中心とした割とシンプルなポートフォリオから、個別銘柄を中心としたポートフォリオへの転換が図られていたということです。
そして、2022年9月末時点におけるポートフォリオを業種別に見てみると、もともと比率の高かった「生活必需品」が前四半期の25.9%から29.7%へと増加し、「ヘルスケア」も19.1%から20.7%へと増加しています。次いで、「一般消費財」が10.9%を占めています。
また、「情報技術(テクノロジー)」が4.0%と少ないことからも分かるように、ブリッジウォーター・アソシエーツはディフェンシブなポートフォリオを組んでいると言えます。
当面は金融引き締め環境が続きそうなことから、近いうちに訪れるかもしれない景気後退局面に備えてとのことかもしれません。
冒頭に書いたように、レイ・ダリオ氏はファンド運用の第一線からは退くことになりますが、今後もメンターとしての役割は担うとのことで、引き続きブリッジウォーター・アソシエーツのポートフォリオ・マネジメントには注目していきたいと思います。