ここでは、直近の「東証REIT指数」について、NAV倍率・分配金利回り・TOPIX・東証1部株式の配当利回り・投信の資産増減状況などといった観点から見ていきたいと思います。
なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照下さい。
1.東証REIT指数とTOPIX
まずは、東証REIT指数とTOPIXの推移を見比べてみます。
この図から、TOPIXと東証REIT指数とは強い相関を認めることが分かります。
2.東証REIT指数とNAV倍率・分配金利回り
次に、東証REIT指数をNAV倍率や分配金利回りといった点から見ていきます。
まずは、NAV倍率の方からです。
NAV倍率は、1.14倍となっており、そこまで割安とは言えない水準です。
続いて、分配金利回りの推移についても見ていきます。(見やすくするために、右軸にある分配金利回りのスケールは反転させてあります。)
直近のJ-REIT分配金利回りは3%台前半にまで低下しており、割高感が出始めているように思われます。
3.各種利回りの比較
さらに、REITの分配金利回りは、株式の配当利回りや長期金利(10年国債利回り)などとの関係で決まってくる面もあると思われるため、それらの比較をしたのが以下の図になります。
ここで、長期金利(10年国債利回り)に関しては、日銀の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」などにより、ここ何年もほぼゼロ%近傍での推移となっています。
そういったこともあり、長期金利は比較対象として適切なものかどうか疑わしいため、ここではJ-REITの分配金利回りと東証1部株式の配当利回りとを比較してみます。
このJ-REITの分配金利回りと東証1部株式の配当利回りとのスプレッド(利回り差)の推移を示したのが以下の図です。
この図から分かるように、スプレッドも低い水準となっており、東証REIT指数は割高感が強まりつつあると言えます。
4.投資信託の資産増減状況と東証REIT指数
なお、東証REIT指数を構成しているJ-REIT市場における主な投資家としては、日銀や投資信託、海外投資家が挙げられます。
そして、東証REIT指数の推移は、その中でも投資信託の資産増減状況との関連が比較的強いため、その影響についてここでは見ていきます。
具体的には、投資信託の商品分類のうち、「毎月決算型」、「国内 不動産投信」の2つについてです。
まずは、「毎月決算型」の方からになります。
この「毎月決算型」を見るのは、分配金を毎月出す投信にとって、相対的に利回りの高いREITというのは、都合が良いためです。
ここ最近では、「毎月決算型」投信の純資産総額はほぼ横ばいとなっていますが、東証REIT指数が上昇していたため、両者の乖離は拡大傾向となっていました。
2017年末頃からは両者の乖離が大きくなっており、「毎月決算型」投信の純資産総額は、もはやあまり参考にならないのかもしれません。
続いて、「国内 不動産投信」になります。
対照的に、「国内 不動産投信」の純資産額の推移は、東証REIT指数とほぼ連動するような動きとなっていることが分かります。
「国内 不動産投信」の純資産額は、直近でやや減少してはいるものの、依然として高い水準にあることが見て取れます。
5.総括
東証REIT指数は直近でやや調整の値動きとなっていますが、ここまで見てきたように、そこまで割高感が薄れているとは言えなそうです。
もう一度、利回りを詳しく見ていくと、上場REITの予想分配金利回りは、21年10月末時点で平均して3.40%でした。
一見すると、3.40%という利回りは高いように感じるかもしれませんが、REITでは、収益の9割以上が分配金として還元されていることを忘れてはなりません。
一方で、同じ8月末時点での東証1部全銘柄の加重平均配当利回りは、1.90%でした。
日本企業の配当性向が3割強であることを加味すると、収益性という観点では、株式に軍配が上がることが分かります。
もちろん、単純に利回りだけで比較できるものではありませんが、それでも業績が好調で、株価もまだまだ割安な企業が多いことを考えると、REITよりも株式の方に投資妙味があるのではないかと考えています。
ちなみにREITを、「物流」、「住居」、「オフィス」、「商業施設」、「ホテル」といった用途別に分けて見てみると、用途別に値動きの強弱があることが分かります。
具体的には、「オフィス」や「ホテル」の主な銘柄は、弱い値動きとなっているのに対し、「住居」や「商業施設」の主な銘柄は堅調な値動き、「物流」の主な銘柄は好調な値動きとなっています。
そして、新型コロナの新たな変異ウイルス「オミクロン株」の感染動向が未だ不透明な状況下では、たとえ割安感があったとしても、「オフィス」や「ホテル」系銘柄への投資は控えた方がいいでしょう。
それら銘柄への悪影響がどこまで長期化するか読めず、特に「オフィス」系銘柄では、コロナ終息後にも続く可能性があるためです。