ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。
- 史上最強の投資家 バフェットの財務諸表を読む力 大不況でも投資で勝ち抜く58のルール
- 著者:メアリー・バフェット、デビッド・クラーク
- 出版日:2009/3/19
- お役立ち度 :
- 難易度 :
- マニアック度:
- 分類:株式投資、ファンダメンタル分析、ウォーレン・バフェット
1.書籍の概要
まずは、本書の概要からです。
本書は、財務諸表を読み解くことで、永続的な競争優位性を持つ企業を見極めるための、簡潔で分かりやすい手引き書のような内容となっています。
なお、本書の章立ては、以下のようになっています。
- 第1章:バフェット流 利殖術の要諦
- 第2章:バフェット流 損益計算書の読み方
- 第3章:バフェット流 貸借対照表の読み方
- 第4章:バフェット流 キャッシュフロー計算書の読み方
- 第5章:永続的競争優位性を持つ企業の評価法
- 付録 :永続的競争優位性を持つ企業の損益計算書モデルほか
ここでは、本書の中で気になった部分や参考になった部分について、一部を抜粋しながらレビューしていきたいと思います。
2.長期優良投資の条件とは?
第1章は、本書の導入のような内容となっています。
ウォーレン・バフェットの師でもあるベンジャミン・グレアムは、1930年代にバリュー投資の実践を始めた頃、企業の支払能力や収益力の算定に、投資分析の主眼を置いていました。
また、グレアムは以下のようなルールも決めていました。
- PER(株価収益率)が10倍以上の銘柄には手を出さない。
- 購入後に株価が50%上昇したら売却する。
- 購入後の2年間でこの水準まで達しない銘柄もやはり売却する。
つまり、グレアムは、競合他社に対する長期的競争優位性を持っている企業と、そうでない企業との区別まではしていなかったのです。
しかし、バフェットは、競合他社に対する長期的競争優位性を持つ企業には、とてつもない富を創出する経済性が潜んでいるということに気付きました。
バフェットは、そうした「スーパースター企業」を大きく次のような3つのモデルに分類していました。
- 他にはないユニークな製品を売っている会社
- 他にはないユニークなサービスを売っている会社
- 一般大衆からの安定した需要がある製品もしくはサービスを、低コストで仕入れて低コストで売っている会社
そして、そういった永続的競争優位性を持つ企業を発掘するための財務諸表の読み方について、次の第2章から損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書に分けて書かれています。
3.損益計算書の読み方
第2章は、財務諸表のうち、損益計算書についての内容となっています。
具体的には、主に次のようなことが書かれています。
- ごくごく一般論で言うと、粗利益率が40%以上と高い企業は、なんらかの永続的競争優位性を持っている可能性が高い。
- 販売および一般管理費(SGA費)は一貫して低いことが望ましい。(ビジネスの世界では、粗利益に対するSGA費の比率が30%以下なら、優良企業とみなされるが、SGA比率が30%から80%でも、永続的競争優位性を持つ企業は数多く存在する。)
- 減価償却費はきわめて現実的なコストであり、利益を計算するときには除外すべきでない。
- 資産売却益といった経常外のできごとは、会社を判断するさい純利益から除外せよ。
- 純利益が長期的に右肩上がりで推移しているかどうかを確かめる。
- 原則を言うと、売上高に占める純利益の割合が、長期的に20%以上で推移してきた企業は、何らかの長期的競争優位性から恩恵を受けている可能性がきわめて高い。
減価償却費に関して、EBITDA(利払・税引・減価償却、その他償却前利益)のように、減価償却費を除外した場合、企業の収益は短期的に水増しされるため、優良ビジネスであるという錯覚が起こりやすいということです。
減価償却が終わったあと、設備投資は再び必要となるものであり、減価償却費を実質的な費用としてみなすというのは、確かにその通りだと思いました。
4.貸借対照表の読み方
第3章は、財務諸表のうち、貸借対照表についての内容となっています。
この貸借対照表に関して、永続的競争優位性を持つ企業の条件、もしくは避けるべき企業の条件として、次のようなことが主に書かれています。
- 棚卸資産の急激な増減がある企業は、要注意。
- 総売上高に占める売掛金の割合が一貫して他社より低い。
- 流動比率(=流動資産/流動負債)で企業の優劣を見分けることはできない。(判断材料にならない。)
- どんな会社を買収しているのか。のれん代が増加している企業に注目。
- 無形資産(特許権、著作権、商標、フランチャイズ、ブランド名など)を評価する。
- あまりに高い総資産利益率は、競争優位性の脆弱さを表している場合がある。(どんな業界でも、必要な資本の調達は、新規参入の障壁となる。)
- 長期借入金より短期借入金が多い銀行は、投資対象から除外せよ。
- 長期借入金が少額もしくはゼロである。(長期借入金を3~4年で返済できるだけの純利益をあげている。)
- 金融機関を除き、自己株式調整済み負債比率(負債合計/純資産合計)が0.80以下(低ければ低いほど良い)である。(純資産に自社株買いでふくらんだ自己株式(金庫株)の価値を全て加える。)
- 優れた企業は、優先株を発行しない傾向がある
- 内部留保が着実かつ長期的に増加している。
- 自己株式(金庫株)の存在は、企業が豊富なキャッシュを持っている証である。
- 株主資本利益率が高ければ、やがて株価の上昇となって表れる。
永続的競争優位性を持つ企業の多くが、1を下回る流動比率を示しているというのは意外でしたが、そうした企業は一貫して高い収益を生み続けるため、流動負債の支払いを滞りなく行うことができるとのことです。
のれん代の増加に関しては、当然ですが、永続的競争優位性を持つ企業を買収している必要があります。
高い株主資本利益率(ROE)に関しては、単年では意味がなく、長きにわたり高いROEを維持していることが条件となってくるでしょう。
5.キャッシュフロー計算書の読み方
第4章は、キャッシュフロー計算書についての内容となっています。
キャッシュフロー計算書は、次の3つのセクションで構成されています。
- 営業活動によるキャッシュフロー:「純利益」、「減価償却費」、「なし崩し償却費」
- 投資活動によるキャッシュフロー:「資本的支出」、「その他投資キャッシュフロー」
- 財務活動によるキャッシュフロー:「支払済み現金配当」、「株式の発行(償還)、純額」「社債の発行(償還)、純額」
ここで、投資活動によるキャッシュフローにおける、「資本的支出」というのは、1年超にわたって保有される資産、即ち土地や生産設備などを取得する際、支出される現金もしくは現金同等物のことを指します。
そして、長期的に見たとき、永続的競争優位性を持つ企業は、そうでない企業と比べると、資本的支出に振り向ける純利益の割合が極めて低いとのことで、次のように書かれています。
ウォーレンが看破したのは、年間の資本的支出が純利益の50%以下、という状況を長年にわたって維持してきた企業は、永続的競争優位性の持ち主である可能性が高いということだった。
年間の資本的支出が一貫して純利益の25%以下なら、永続的競争優位性から恩恵を受けている可能性はさらに高まる。
また、財務活動によるキャッシュフローに関して、「配当アップよりも自社株買いを続けている企業こそが株主を富ませる」といったことも書かれています。
6.優良企業の売買タイミング
第5章では、永続的な競争優位性を持つ企業の評価法ということで、そうした企業の買い時や売り時などについて触れられています。
まず買い時については、弱気相場の大特価の際や、優良企業が「解決可能な」一時的トラブルに直面し、短期的に株価が下落した際になります。
もちろん、強気相場の絶頂期には、買いを見送るべきです。
次に売り時に関してですが、基本的にバフェットは、その企業の永続的競争優位性が失われない限り、株を手放すことはありません。
そのうえで、売り時については、以下のような場合が挙げられています。
- もっと優良な企業をもっと有利な価格で買うチャンスが訪れた場合。(資金調達のために現有の優良企業の株を売る。)
- 現有の優良企業が永続的競争優位性を失いそうな場合。
- 株式バブル(常軌を逸した上げ相場)が発生した場合。(株価収益率が40倍以上になったら、売却を検討する潮時だと考えればいい。)
7.総括
本書は、「バフェットロジスト(バフェット学の徒)」と呼ばれる、バフェット研究の第一人者である、デビッド・クラークとメアリー・バフェット(バフェットの息子の嫁だった)によって書かれたものです。
本書では、財務諸表の主要な項目ごとに、それを読み解くポイントと、その裏付けや考え方などについての解説がなされています。
ここまで書いてきたことからも分かるように、(大事なものだけに絞られてはいますが)会計用語が数多く出てくるため、慣れていない人にとっては少し読むのに時間がかかるかもしれませんが、それでも十分に分かりやすく書かれていると感じました。
永続的競争優位性を持つ企業を見極めるためのポイントが随所に散りばめられており、ファンダメンタル分析を旨とする投資家にとっては、読むべき一冊であるといえるのではないでしょうか。
- 史上最強の投資家 バフェットの財務諸表を読む力 大不況でも投資で勝ち抜く58のルール
- 著者:メアリー・バフェット、デビッド・クラーク
- 出版日:2009/3/19
- 分類:株式投資、ファンダメンタル分析、ウォーレン・バフェット