今回は、日本と中国の米国債保有額と米国債価格との関係性について見ていきたいと思います。
米国債に関しては先週に、米通信社の「中国が米国債の購入縮小や停止を検討している」との報道を受けて、2018年1月10日の朝方に米長期金利(米10年国債利回り)が上昇するといったことがありました。
債券の利回りと価格は逆相関の関係にあるので、この長期金利(10年国債利回り)の上昇というのは債券価格の下落を意味します。
翌11日に、中国の国家外貨管理局が上記の報道を否定するような声明を発表しましたが、米10年国債利回りは2017年3月以来の高い水準での推移となっています。
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1.日本と中国の米国債保有額および保有率
このように、中国は日本とともに米国債の中心的な保有国であるため、その米国債への投資方針は、米国債市場に大きな影響力を及ぼすのです。
そしてまずは、この米国債に関して、日本と中国の保有額および保有率の推移を見ていきますが、その2000年4月からの推移を示したのが以下の図です。
この図からは、ここ数年は日本と中国ともに、保有額は1兆2000億ドル前後、保有率は20%前後で推移しており、両者ともに減少傾向となっていることが見て取れます。
ちなみに、直近の2017年10月のデータでは、中国、日本に次ぐ保有額の3位はアイルランドで約3100億ドルですがその保有率は約5%に過ぎず、減少傾向とはいっても中国と日本の保有率が突出していることが分かります。
2.「日本」および「中国」の米国債保有額と米10年国債価格
それでは次に、日本および中国の米国債保有額と米10年国債価格の推移とを比較したものを見ていきます。
まずは、直近の2017年10月のデータで米国債保有額が首位の中国からですが、中国の米国債保有額と米10年国債価格の2000年4月以降の推移を示したのが以下の図です。
次に、日本の同期間における米国債保有額と米10年国債価格との推移を示したのが以下の図になります。
これらの図を見ると、ここ1~2年では中国の米国債保有額が米10年国債価格とよく相関していることが分かります。
一方、図で示した全期間で見ると、日本の米国債保有額が米10年国債価格と割とよく相関しているように見えます。
3.「日本+中国」および「総計」の米国債保有額と米10年国債価格
そして最後に、日本と中国の米国債保有額を合計したものと、世界各国の米国債保有額の総計とをそれぞれ米10年国債価格と比較していきます。
まずは、日本と中国の米国債保有額の合計と、米10年国債価格との推移を示したのが以下の図です(2000年4月~)。
次に、世界各国の米国債保有額の総計と、米10年国債価格との推移を示したのが以下の図になります(2000年4月~)。
これらの図に関して、日本と中国の米国債保有額の合計は、米10年国債価格の推移との相関係数が約0.901と、わずかな差ではあるものの、ここで挙げた中で最も高いものとなっていました。
また、世界各国の米国債保有額の総計の方も、米10年国債価格の推移との相関係数が約0.896と、日本と中国の合計に次いで高いものとなっていました。
そして、日本と中国だけで見ると米国債保有額は減少傾向であるのに対し、世界各国の総計で見ると、その米国債保有額は増加傾向であることが分かります。
4.米国債に関する考察
以上のように、ここでは日本や中国などの米国債保有額、つまり需給という観点から米国債価格について見てきました。
ここまで見てきた限りでは、日本や中国をはじめとした世界各国の米国債保有額というのは、米国債価格に大きな影響力を及ぼしているといえます。
ここで、そもそも国債というのは国の借金のようなものであるため、国債の発行額が増えれば増えるほど、その価格は下がっていくのが自然ではないかと思えなくもありません。
ただ、国債は国の信用を背景として発行されており、国が借金を返せなくなるデフォルト(債務不履行)リスクというのが普段から意識されることはほとんどありません。
しかしそれだけに、先週の中国の米国債投資方針に関する報道の際に見られたように、米国債の需給に一度懸念が生じると、市場に大きな動揺が走ってしまいます。
もちろん、米国債価格が一方的に下落していくことは、米国債を大量に保有する中国にとっても望ましいものではなく、今回の市場の動揺もおそらくは一時的なもので済むでしょう。
とはいえ、今後のことを考えると、米国債市場にとって大きな懸念材料があるのも事実です。
これまで米国が、双子の赤字といわれる巨額の貿易赤字と財政赤字を抱えながらも、米国債が順調に消化され続けているのは、何といってもドルが国際基軸通貨であるためといえます。
これは具体的にいうと、世界の原油取引の決済通貨としてドルが使われており、原油取引によって産油国が得たドルが米国債購入に向かうといった構造だということなのです。
ドルは、ニクソン大統領が1971年に発表したドルの金(ゴールド)との兌換停止(ニクソン・ショック)により、金の裏付けという信用を失いました。
そこで、その後は世界の原油取引の決済通貨として、ドルは国際基軸通貨の地位を維持してきたのです。
そして、ようやくここからが懸念材料となり得る事柄についてなのですが、それはまもなく中国で人民元建てでの原油先物取引が開始されるということです。
当然、人民元建ての原油取引が今後どこまで広がっていくのかについては、まだまだ不透明な部分が多いので、今すぐどうこうという話ではありません。
それでも、中国が世界最大の原油輸入国であるというのは事実であり、もし人民元建ての原油取引が広がっていくような状況になれば、ドルや米国債にとって大きな打撃となるのは間違いありません。
このように、米国債を考える上で中国というのは切っても切れない関係にあり、米国債保有額をはじめとした中国の動向には注意を払っておく必要があるといえます。