今回は、以下の記事でも取り上げたアノマリーのうち、特に暦関連のものについて、日経平均株価およびS&P 500の月別騰落率のデータをもとに検証していきたいと思います。
1.アノマリーとは?
本題に入る前にまずは、アノマリーについて振り返っておきます。
アノマリー(anomaly)には、英語で「変則」や「例外」といった意味があり、こと投資においては、はっきりとした理論的根拠を持つわけではないものの、経験的に起こる確率の高い事象のことを指します。
このアノマリーをもとにした投資というのは、実際にファンドなどでも行われており、これによって市場平均を超えるリターンを上げているファンドも存在します。
そして、ここではアノマリーのうち、暦関連のものについて検証していくために、日経平均株価およびS&P 500の月別騰落率についてそれぞれ見ていきます。
2.日経平均株価の月別騰落率
初めに、日経平均株価の方から見ていきます。
1949年5月以降の月別騰落率の平均値(%)、最大値(%)、最小値(%)および、月別の上昇回数、下落回数、横ばいの回数についてまとめたのが、以下の表になります。
この表のうち、月別騰落率の平均値について示したのが以下の図です。
3.S&P 500の月別騰落率
日経平均株価と同様に、アメリカの代表的な株価指数であるS&P 500の月別騰落率について、平均値(%)、最大値(%)、最小値(%)および、月別の上昇回数、下落回数、横ばいの回数についてまとめたのが、以下の表です。
なお、S&P 500に関しては、1915年1月以降のデータを取得できたので、まずはそれから見ていきます。
この表のうち、月別騰落率の平均値をグラフにしたのが、以下の図になります。
そして、S&P 500についても、日経平均株価と同じ1949年5月以降の期間で見たのが、以下の表になります。
また、同様にして、月別騰落率の平均値を示したのが以下の図です。
4.「1月効果」と「新年度相場」
では、ここからは以上のデータをもとに各アノマリーについて検証していきます。
まず、「1月効果」についてです。
日経平均株価の月別騰落率のグラフを見ると、1月は平均して最も上昇している月であることが分かります。
一方、S&P 500に関しては、1915年1月以降と1949年5月以降のどちらの期間においても、1月は平均して上昇しているものの、その上昇率は全ての月の中で中程度となっています。
そのため、「1月効果」は特に日経平均株価において著明に認められるアノマリーだといえます。
次に、「新年度相場」についてですが、このアノマリーは、4月に上昇しやすいというものです。
これに関しては、日経平均株価とS&P 500ともに、4月は平均して高い上昇率を示していることから、有効なアノマリーであったということが分かります。
5.「10月効果」と「掉尾の一振」
続いて、「10月効果」ですが、これは「ハロウィン効果」ともいわれ、10月に底値をつけやすいというものです。
ただ、日経平均株価およびS&P 500の月別騰落率のグラフを見ると、両者ともに10月ではなく9月に騰落率が大きくマイナスとなっています。
ですから、10月効果から10月末に株式を買うのが良いといわれることがありますが、実際には9月末に買うのが良かったということになります。
次に、「掉尾の一振(とうびのいっしん)」についてですが、これは大納会(年内最後の取引日)に向けて株価が上昇しやすいというアノマリーです。
これに関しては、日経平均株価とS&P 500ともに、12月は平均して高い上昇率を示していることから、有効なアノマリーであったということが分かります。
6.「夏枯れ相場」と「サマーラリー」
「夏枯れ相場」というのは、7~9月の夏場は夏季休暇などで市場参加者が減少するため、相場の取引量も減少し、値動きが乏しくなったり、上下しやすくなったりすることをいいます。
一応、「夏枯れ相場」の理由が説明されてはいますが、アノマリーとして扱われることの多いものです。
実際に、日経平均株価の月別騰落率を見てみると、7~9月は平均すると大きく上下していることが分かります。
一方、夏場のアノマリーに関しては、「サマーラリー」というものもあります。
これは、米国の株式市場におけるもので、7~9月に株価が上昇しやすいというものです。
米国では例年、7月4日の独立記念日から9月第1月曜日のレイバー・デイ(Labor Day:労働者の日)までが夏休み期間になります。
そして、投資家がバカンスに入る前にボーナスで株を買うため、株価が上昇しやすいといわれています。
これを踏まえて、S&P 500の月別騰落率を見てみると、日経平均株価と同様に7~9月は平均すると大きく上下しており、夏場に一貫して上昇しているというわけではなさそうです。
ただ、日経平均株価が平均して8月に上昇しているのと違って、S&P 500では平均すると7月に上昇しており(1915年以降では7月が最も大きく上昇)、投資家がバカンス前に株を買うというのは一理あるように思われます。
以上、暦関連のアノマリーについて主なものを検証してきましたが、仮に過去に高い確率で起こっているものであっても、将来にわたっても有効であり続ける保証はどこにもないということには注意が必要です。
アノマリーは投資戦略の一つとして活用するのに有用なものではありますが、それと同時にアノマリー通りにいかなかった場合にどうするのかまで考えておくことが大事になってくるのです。
なお、以下の記事ではアノマリーの中でも特に有名な、「Sell in May and go away. (5月に売ってどこかへ出かけろ。)」について書いていますので、よろしければご参照ください。