リスクという言葉は日常生活の中でもよく耳にします。
ただ、投資の世界で使われるリスクという言葉には、一般的に使われるのとは違った意味もあるので、ここではそのことについて書いていきたいと思います。
1.投資におけるリスクの定義
一般的にリスクとは、危険を伴う可能性や、損失を被る可能性といった意味を指します。
もちろん、投資においてもそういった意味で使われることは多々あるのですが、投資においてリスクと言った際には、特に標準偏差のことを指す場合があるのです。
標準偏差とは統計学の用語で、データのばらつきの大きさを表す数値のことをいい、この標準偏差の値は、ギリシア文字のσ(シグマ)を用いて表されます。
そして、投資でいうところの標準偏差とは、収益の振れ幅あるいは変動幅のことを指し、これをボラティリティといったりもします。
この標準偏差が大きいほどリスクが高く、逆に小さいほどリスクが低いというわけです。
2.標準偏差をもとにした考え方
また、正規分布に従うようなデータの集まりにおいては、平均値±1σの範囲に全データの約68%が収まり、平均値±2σの範囲に全データの約95%が収まるという特性があります。
これは例えば、年間の投資収益率が5%、1標準偏差(1σ)が20%のファンドがあったとします。
すると、このファンドでは、1年間の収益率が約68%の確率でマイナス15%からプラス25%の間に収まり、約95%の確率でマイナス35%からプラス45%の間の収まるとみることができます。
ちなみに、非常に大まかにではありますが、年率換算でみた場合に、株式やREIT、商品先物の標準偏差は20%前後、債券では5~10%くらいが目安になってきます。
ですから、標準偏差でみた場合に、株式よりも債券の方がリスクが低いということになるのです。
実際、世間でも金融商品を保有する際には、保守的な投資家は債券の割合を高めに、アクティブな投資家は株式の割合を高めにするということが推奨されます。
3.シャープレシオ
そして、投資信託などファンドの運用成績を比較する際によく用いられる、シャープレシオという指標がありますが、この算出にも標準偏差が使われています。
シャープレシオとは、リスク調整済みのリターンを測るもので、次の式で求められます。
シャープレシオ=(リターン-無リスク金利)÷ 標準偏差
このシャープレシオが高いほど、取ったリスクに対して高いリターンを上げていることになり、効率的な運用ができているとされるのです。
なお、無リスク金利とは、リスクフリーレートとも呼ばれ、通常は国債利回りや銀行間取引の金利であるインターバンクレートのことを指しますが、ここではあまり気にしなくて構いません。
4.バリュー・アット・リスク(VaR)
また、ここまで書いてきた標準偏差の他にも、リスクを測る指標として代表的なものに、バリュー・アット・リスク(Value at Risk:VaR)というものがあります。
このVaRは、市場リスクの管理手法として、金融機関や大企業などでも用いられており、VaRでは統計的手法を使って現在保有している金融資産の予想最大損失額を算出します。
VaRの計算方法にはいくつか種類がありますが、基本的には過去のデータをもとにして算出されます。
そのため、ファット・テールを制する者が投資を制す!のところで書いた、ブラック・スワンのような特殊なケースというのは十分には想定されていません。
実際、アメリカの有名な大手ヘッジファンドであったロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)が破綻してしまった最大の原因が、VaRを用いたリスク管理の失敗にあったといわれています。
LTCMは、ノーベル経済学賞の受賞者2人と元FRB副議長を擁し、高度な金融工学理論を駆使したトレードを行うヘッジファンドで、ドリームチームとも呼ばれ、世界中から巨額の資金を集めていました。
そして、当初の約4年間は大きな成功を収めていたのですが、1997年のアジア通貨危機や続く1998年のロシア財政危機の煽りを受け、ついには実質的な破綻状態となってしまったのです。
このとき、LTCMはロシアが債務不履行を起こす確率は、100万年に3回だと計算していたそうです。
ですから、まさにブラック・スワンにより巨額の損失を出してしまったといえます。
5.ストレステストを!
このように、VaRのような過去のデータをもとにしたリスク管理手法にはどうしても限界があるのですが、それを補う手段の一つとして、ストレステストといわれるものがあります。
ストレステストとは、過去のデータから異常な環境下のものを抽出し、それを参考に例えば「株価が30%下落」などの不利な仮定を設けて、その状況に耐えうるかどうかを調べるものです。
ストレステストは、VaRのように過去のデータから客観的に算出するようなものではないため、いくぶん主観的なものではありますが、不測の事態に備えるための有効な手段であるといえます。
個人投資家においても、このストレステストを行っておくに越したことはないでしょう。