1.ヘッジファンドと投資信託の違い
ヘッジファンドというのは、よく耳にすることはあるものの、その実態は意外と知られていないのではないでしょうか。
そこで、本記事ではこのヘッジファンドについて書いていきたいと思います。
まず初めにですが、ヘッジファンドとは、様々な戦略を用いて利益を追求するファンドのことをいいます。
ヘッジファンドは投資信託と違って、通常は一般の個人投資家が直接投資することはできず、主に金融機関などの機関投資家がヘッジファンドの顧客となります。
また、投信ではたとえアクティブ・ファンドであったとしても、あくまでインデックス(指標)のような基準となるベンチマークに沿った運用をするのに対し、ヘッジファンドでは絶対収益を追求します。
これは、例えばベンチマークが-10%であった場合に、投信では-5%とマイナスのパフォーマンスでもベンチマークを上回ったということで良しとするのに対し、ヘッジファンドではどのような相場環境下においてもプラスのリターンを目指すということです。
このあらゆる相場環境下におけるプラスのリターンのことを絶対収益というわけです。
2.ヘッジファンドの代表的な取引戦略
では、ヘッジファンドは絶対収益を追求するためにどのような取引戦略を用いているのでしょうか。
ここではヘッジファンドの代表的な取引戦略として、以下の6つについて簡単に説明していきたいと思います。
1.株式ロング・ショート
割安な株式のロング・ポジション(買い持ち)と、割高な株式のショート・ポジション(売り持ち)を組み合わせることで利益を追求する戦略。
2.マーケット・ニュートラル
市場中立型のロング・ショート戦略ともいわれ、ロング・ショート戦略と比較して市場リスクの抑制に重点が置かれている。多くが高度な数学的手法などを駆使した、コンピュータによるシステム運用であるクオンツ運用である。
3.イベント・ドリブン
企業の合併や買収などといった出来事(イベント)を収益機会として狙う戦略。
4.グローバル・マクロ
世界経済の見通しから、世界各国のあらゆる市場の方向性を予測して収益を狙う戦略。
5.マネージド・フューチャーズ
世界中の株式指数や債券、商品などの先物市場で、コンピュータによるシステム運用によって収益を狙う戦略。多くがトレンド・フォロー型の戦略を採用している。
6.レラティブ・バリュー
株式と転換社債(CB)、個別株同士など、価格特性の似た金融商品間で、割安なものをロングし、割高なものをショートすることで、価格がいずれ収束していくのを狙う戦略。
こうして見てみると、ヘッジファンドは必ずしも何か特別な手法を使って運用をしているというわけではないということが分かります。
これらの戦略は証券会社の自己勘定取引でも行われているようなものですし、普通の運用会社や一般の個人投資家でも実践可能なものも少なくないからです。
そして、ロング・ショートやマーケット・ニュートラル、レラティブ・バリューといった戦略では、ショートを組み合わせるため下げ相場でも収益を上げることができ、確かに絶対収益を狙えるように思えます。
しかし、これは同時に上げ相場での利益を取り損ねることにもつながります。
例えば、ベンチマークが30%上昇した際に、ヘッジファンドは10%の上昇に留まるということも珍しくありません。
相場がいつ上昇するか、あるいは下落するかというのは誰にも分からないため、ヘッジファンドといえども、このような結果となってしまうのは当然といえば当然です。
ですから、ヘッジファンドの謳う絶対収益というのは、その言葉自体から受ける印象とは異なり、決して絶対的なものではないのです。
3.ヘッジファンド業界
そして、一口にヘッジファンドといっても玉石混交です。
特にアメリカのような投資大国では、長期にわたって並外れた好成績を上げ続けている超一流のヘッジファンドというのが存在します。
例えば、レイモンド・ダリオ氏のブリッジウォーター、ケネス・グリフィン氏のシタデル・インベストメント、デビッド・テッパー氏のアパルーサ・マネジメント、ジェイムス・シモンズ氏のルネサンス・テクノロジーズなどは、誰もが認める超一流のヘッジファンドです。
中でもブリッジウォーターは、2015年にIBMのワトソン開発チームを率いていたデービッド・フェルッチ氏を採用するなど、クオンツ運用のヘッジファンドではプログラマーやエンジニアを活発に採用したりしています。
こうした最新の人工知能技術を活用したりといったことは、さすがに私たち一般の個人投資家が真似できるようなものではありません。
ただ、こういった超一流のヘッジファンドというのはごく一握りに過ぎません。
それは、HFRXグローバル・ヘッジファンド・インデックス(HFRX指数)という、ヘッジファンドの代表的な指数を見ても分かります。
HFRX指数は、様々な戦略のヘッジファンドから構成されており、世界の年金基金や機関投資家などの間で広く利用されている実質的な業界標準となっているものです。
このHFRX指数をアメリカの代表的な株価指数であるS&P500と比較してもそれほど大差ないのです。
それどころか、リーマンショックなどのような金融危機で、数多くのヘッジファンドが破綻しているという事実もあります。
特にヘッジファンド破綻の例として有名なものは何といっても、ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)の破綻です。
LTCMは、FRB元副議長とノーベル経済学受賞者2名を擁し、高度な金融技術を駆使する、アメリカの有名なヘッジファンドでした。
そして、LTCMには世界各国の金融機関や富裕層、著名人らが投資をしていましたが、アジア通貨危機やロシア財政危機の煽りを受け、最終的に破綻してしまいました。
超一流のヘッジファンドですらこうしたことが起こってしまうのが相場の怖いところでもありますが、この例を見ても分かるように、ヘッジファンドは決して何か特別なものというわけではないのです。
4.ヘッジファンドの懸念点
また、ヘッジファンドにはいくつか懸念点もあります。
まずは、その手数料に関してですが、ヘッジファンドの報酬体系は「2の20」といって、定率の運用管理手数料が年率2%、成功報酬が収益の20%というのが一般的です。
やはりともいうべきか、手数料はかなり高いものとなっているのです。
しかも、手数料には上限がありません。
そのため、過大なリスクをとって大きなリターンをあげれば、当然ファンドマネージャー(ファンドの運用担当者)の報酬も高くなります。
もし仮に、それで失敗してしまった場合にはファンドを解散して、新たに別のファンドを設立すればいいだけの話です。
そのため、どうしてもファンドマネジャーには過度のリスクをとることに対するインセンティブが働くこととなってしまいます。
さらには、ファンドマネジャーが1年契約であることが多いというのも、過大なリスクをとってしまうことを助長する要因の一つだと思われます。
こういったことも併せて考えると、仮に可能であったとしても、あえてヘッジファンドに投資する必要性は低いと言わざるを得ません。
5.海外ファンドに注意
最後にヘッジファンドを含めた海外ファンドについて一言付け加えて終わりにしたいと思います。
特に日本人は、海外ファンドと聞いただけで、「何か特別なもの」であるかのように思ってしまう傾向が強いように感じられます。
そして、そういった特性を利用してか、海外ファンドという名のもとに、ファンドへの投資を勧誘する詐欺が後を絶ちません。
きれいな右肩上がりで年利20%などと非常に素晴らしいパフォーマンスを上げているなどと言葉巧みに勧誘してきます。
しかし、冷静に考えてみれば分かることですが、そもそも素晴らしい海外ファンドの投資案件の話が私たち一般人のところになんてやってくるはずがありません。
本当においしい投資案件というのは、ツテのある一部の超富裕層にしか行き渡らないからです。
しかもそういった話というのは、最低でも1口が数十億円などといったものになります。
ですから、有利な投資案件の話が、大してお金も持っていない赤の他人に、しかも1口100万円や500万円などとわざわざ小口化されてやってくるはずがないのです。
そんなものはほとんど詐欺ですし、詐欺でなくても非常に質の低いものばかりだと心得るべきなのです。
また、このように考えておくことで、海外ファンドの案件に限らず、無用な詐欺に引っ掛かってしまうといったことをかなり避けられるはずです。
そして、どうしても海外投資をしたいというのであれば、自身で海外の証券口座を開設し、そこを通じて投資をするべきなのです。